男性バレエダンサーのぴったりしたタイツ姿について「なぜあのようなタイツなのでしょう?」と質問をしてくる方がいる。なぜもへちまもなく、バレエとはああいうものなのである。バレエ鑑賞初心者の方は「目のやり場がない」「照れてしかたない」などと仰るが、大丈夫。そのうち目が慣れて、自然な光景に見えてきますから。
バレエの衣裳史などを見ていると、女性のチュチュは最初ロングスカートで、ひざ下くらいの丈になったあたりで早くも物議が醸し出されている。男性はどうか。自分でバレエを踊った太陽王ルイ14世の肖像を見ると、早くも短いチュチュのようなコスチュームの下にぴったりとしたタイツ(ハイソックス?)を履いている。トレーニングされた下半身の動きを詳しく見せるためにも、ボディにフィットした男性のタイツは実に合理的なアイテムなのだ。下着のラインは見えないが、タイツの下にはサポーターをつけ、だいたいTバックになっている。アメリカ人ダンサー、デヴィッド・ホールバーグさんがトークショーのときお客さんに見せてくれたことがあったが、肌色のサポーターはとても小さく、最小限の部分をサポートする。他のデザインもあるのかも知れないが、実際に見たことはない(カプセル型のものがあるという噂)。
タイツの色も役柄によってさまざまで、庶民的なキャラクターの役だと茶色や深緑、それ以外だと赤や灰色、水色なんかも多く見る。『オネーギン』のようなバレエでは黒タイツを履くので、どのダンサーの足も引き締まって見えるが、個人的には黒のタイツは好きではない。なんだかタイツの本質から外れているような「逃げ」を感じるからだ。『白鳥の湖』のジークフリート王子はほぼ100%純白のタイツで登場するので、毎回感動する。あの王子のタイツこそ、逃げも隠れもしないバレエの魂だと思う。膨張色なので油断がならない分、すべてを差し出してくれているような真心を感じる。「王子」という言葉を聴いただけで、条件反射的に「白タイツ」を連想してしまう私なのだった。
【特集コラム】小田島久恵の“バレエって素敵”
一度はまったら抜けられないバレエの魔力について、夢やエロスを交えながら語っていく「小田島久恵の“バレエって素敵”」。ぜひあなたもその魔力に憑りつかれてみては?
筆者プロフィール
小田島久恵/音楽・舞踊ライター
10代でジョルジュ・ドンの魅力に痺れ、ベジャールとクラシック・バレエにはまっていく。大学では美術を専攻し、バレエとパフォーミングアーツについての卒論を書く。
ロック雑誌『ロッキング・オン』の編集部に就職した後も、国内外のバレエ公演に出没。
パリ・オペラ座バレエ、英国ロイヤル・バレエ、ハンブルク・バレエ団、アメリカン・バレエ・シアタ―、ボリショイ・バレエ、マリインスキー・バレエがお気に入り。
一度はまったら抜けられないバレエの魔力について、夢やエロスを交えながら語っていきます。