Photo by Johan Persson
英国ロイヤル・バレエ団が3年ぶりの来日を果たす。バレエ団が6月に引っ越し公演を行った後、9月にはオペラハウスもやってくるから、2019年は日本にとって嬉しい英国ロイヤル・イヤーになる(2010年もそうでした)。英国ロイヤル・バレエ団の魅力といえば、なんといっても濃厚でドラマティックな演劇性。
ケネス・マクミラン振付の「うたかたの恋」(この12月にはライブシネマで上映されたばかり)を初めて生で観たとき、バレエはここまでのものを表現してしまうのかと度肝を抜かれた。きらびやかで優美なおとぎ話だけでない、人間の業や欲、狂おしい情愛や残酷な死までを描いてしまうバレエの『深み』に吸い込まれたのだった。さすがシェイクスピアの国イギリス。マクミランやアシュトンの伝統的レパートリーのほか、革新的なニュー・プロダクションを作り続けているのもこのカンパニーの特徴で、『不思議の国のアリス』や『ウルフ・ワークス』のような21世紀の傑作バレエも発信している。いくつもの切り札を持った先鋭的カンパニーなのだ。
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©ROH / Bill Cooper
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2019年の来日公演では『ドン・キホーテ』(カルロス・アコスタ版)と、『ロイヤル・ガラ』を上演する。2016年の演目が『ロミオとジュリエット』と『ジゼル』だったから、今回はシリアスな悲劇ではなく、「陽」のバレエで楽しませてくれることになる。キトリを演じるのはカンパニーの大スター、マリアネラ・ヌニェス、ローレン・カスバートソン、今やロイヤルに欠かせないプリマとなったナターリア・オシポワ、イランとイギリスのハーフで愛らしいルックスを持つヤスミン・ナグディ、そして2016年にプリンシパルに昇進した高田茜だ。いずれも踊る大女優たちで、彼女たちの存在感が舞台を埋め尽くす様子を想像しただけで心が湧きたつ。バジル役には「王子」ワディム・ムンタギロフに名俳優スティーヴン・マックレー、アレクサンダー・キャンベルにマシュー・ボールがキャスティングされている。ムンタギロフはヌニェスともオシポワとも踊るので、ファンは両日必見だ。
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Photo: Alice Pennefather
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『ロイヤル・ガラ』は、オリンピック開催を前にして祝祭感が湧きおこっている日本への、ロイヤルからの贈り物のようなプログラム。バランシンの『シンフォニー・イン・C』のほか、マクミランの『マノン』『ロミオとジュリエット』『三人姉妹』、そして『白鳥の湖』からの抜粋が予定されている。こちらには日本人プリンシパルの平野亮一も登場。サラ・ラム、フランチェスカ・ヘイワード、崔由姫も踊る華やかな舞台となる。ボリュームも盛りだくさんで、バレエ・ファンにとってはこの上なく幸福な時間となるはずだ。
バレエダンサーを目指す者なら、誰でもこのカンパニーの舞台でスポットライトを浴びたいと夢見るもの。まさに「金字塔」の名が相応しい名門中の名門だ。その一方で、ロイヤルから「はみ出して」しまったヒーローたちもバレエ界を賑わせている。最近ならドキュメンタリー映画が話題になったセルゲイ・ポルーニン(彼は2010年の来日プログラムのファースト・ソリストの一番最後にプロフィールが載っている)、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』で脚光を浴びたアダム・クーパー、そして我らが熊川哲也である。彼らのスタミナの原点にあるのがこの英国ロイヤル・バレエ団なのだ。スターの輝きと伝統の厳しさ、ドラマと人間味、進化と未来、そのすべてが詰まっている世界でただひとつのバレエ団をぜひお見逃しなく。
【特集コラム】小田島久恵の“バレエって素敵”
一度はまったら抜けられないバレエの魔力について、夢やエロスを交えながら語っていく「小田島久恵の“バレエって素敵”」。ぜひあなたもその魔力に憑りつかれてみては?
筆者プロフィール
小田島久恵/音楽・舞踊ライター
10代でジョルジュ・ドンの魅力に痺れ、ベジャールとクラシック・バレエにはまっていく。大学では美術を専攻し、バレエとパフォーミングアーツについての卒論を書く。
ロック雑誌『ロッキング・オン』の編集部に就職した後も、国内外のバレエ公演に出没。
パリ・オペラ座バレエ、英国ロイヤル・バレエ、ハンブルク・バレエ団、アメリカン・バレエ・シアタ―、ボリショイ・バレエ、マリインスキー・バレエがお気に入り。
一度はまったら抜けられないバレエの魔力について、夢やエロスを交えながら語っていきます。