「大浮世絵展 ―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演」が東京都江戸東京博物館で開催中
浮世絵界に変革をもたらした5人のトップスターたちの錦絵をずらりと展示!
2014年に東京都江戸東京博物館で行われた特別展「大浮世絵展」の第2弾! 今回は5人の人気浮世絵師がフォーカスされています
11/19(火)より東京都江戸東京博物館にて「大浮世絵展 ―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演」が開催されています。
▼福岡展(1/28~3/22開催 福岡市美術館)チケット販売中
▼名古屋展(4/3~5/31開催 愛知県美術館)チケット販売中
本展は、2014年に開催された東京都江戸東京博物館開館20周年特別展「大浮世絵展」の第2弾にあたる美術展で、浮世絵の通史における優品を紹介した第1弾とは打って変わって、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳といった浮世絵界のトップスターである5人の人気浮世絵師たちがフォーカスされています。
彼らの代表作を、国内をはじめ海外の美術館、博物館、個人コレクションから集め、約330点を展示。「誰もが知っており、そして誰もが見たい」と思える浮世絵展となっています。
開催前に行われた内覧会では東京都江戸東京博物館学芸員の小山周子さんが展覧会概要および見どころを含めた説明をしてくださいました。各浮世絵師の特徴も併せて紹介します。
美人画の名手 喜多川歌麿
当時でいう浮気とは「浮ついた気分」といった意味合いがあり、「何をもって浮ついた気分としたのか?」を探しながらみて観ると楽しめる作品
「婦人相学十躰 浮気之相」ミネアポリス美術館所蔵
ベルギー王立美術歴史博物館所蔵の「青楼十二時 続」シリーズは「世界一の保存状態」と言われています
(左から)「青楼十二時 続 子ノ刻」ベルギー王立美術歴史博物館所蔵
「青楼十二時 続 午ノ刻」ベルギー王立美術歴史博物館所蔵
「北国五色墨 てっぽう」シカゴ美術館所蔵
“美人画”で知られている喜多川歌麿は、上半身をアップにして描く「大首絵」という手法を取り入れることにより、従来の美人画に変革をもたらしました。それまでの美人画は、全身図を描いたものが多かったそうですが、「大首絵」で描くことにより、モデルの仕草や表現がより伝わってくるものになりました。
ここでの見どころとして挙げた作品は「婦人相学十躰 浮気之相」と「青楼十二時 続 子ノ刻」。1つ目の「婦人相学十躰 浮気之相」は、上記の「大首絵」を用いた美人画の代表格にあたる作品です。
もう1つの作品「青楼十二時 続」はシリーズとなっています。同シリーズは、吉原の遊女の1日の生活を12刻を12図に描き分けて遊里の風俗を的確に表しました。
後に喜多川歌麿は「青楼の画家」と称されるように吉原の遊女の姿を多く描きましたが、小山学芸員によれば「歌麿は上級の遊女の美しい部分や若い遊女だけを描いていたわけではなく、遊女たちの一日の生活の流れというものをキチンと抑え、当時の状況がよくわかるように描かれています」と話していました。
正体不明の浮世絵師 東洲斎写楽
わずか10ヶ月間という短い作家活動の後で忽然と消えた謎の浮世絵師・東洲斎写楽。版画数自体も少なく製作段階で試行錯誤しており、同じ作品でも色にムラなどがあるのだという。同作品を比較して観られるのも本展覧会の見どころ
(左から)「3代目大谷鬼次の江戸兵衛」ベルギー王立美術歴史博物館所蔵
「3代目大谷鬼次の江戸兵衛」シカゴ美術館所蔵
寛政6年5月に突如として現れ、わずか10ヶ月の短い間で消えてしまった浮世絵師・東洲斎写楽。今でも正体不明である東洲斎写楽のデビュー当時の役者絵28枚中27枚が展示されています。東洲斎写楽デビュー作品が一堂に会するのは、なかなかない貴重な機会なのだそうです。
作品は浮世絵版画の摺刷法の一種「黒雲母摺(=くろきらずり。鉱物の雲母を粉末に用いた豪華な刷り物)」を背景にした作品で、喜多川歌麿と同様に「大首絵」で描かれています。
これまでの役者絵とは違い、東洲斎写楽は役者があまり描いてほしくない部分、例えば顔のある一部分の形であったり、また年老いた姿であったりといったものが如実に表れていることで、衝撃的なデビューを果たしました。
東洲斎写楽の作品は残存枚数が少ないうえに、制作段階から試行錯誤していたため版画刷りの方法や、また浮世絵作品の保存におけるコンディションで同じ作品であってもそれぞれ違います。こうした作品を比較しながら楽しめるように並べて展示されています。
見どころ作品としては「3代目大谷鬼次の江戸兵衛」を紹介。東洲斎写楽作品の中でも特に有名な作品で、悪役の姿を悪役のままに力強く描かれています。
世界で最も有名な風景画を描いた葛飾北斎
葛飾北斎作品で最も有名な作品。海外でも人気のBig Wave。前期はミネアポリス美術館所蔵、後期は東京都江戸東京博物館所蔵を展示
(左から)「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」ミネアポリス美術館所蔵
「冨嶽三十六景 凱風快晴」アダチ伝統木版画技術保存財団所蔵
(左から)「諸国瀧廻り 相州大山ろうべんの瀧」中外産業株式会社所蔵 原安三郎コレクション
「諸国瀧廻り 東都葵ヶ岡の滝」中外産業株式会社所蔵 原安三郎コレクション
葛飾北斎の見どころ作品として、世界で最も有名な作品と謳われている「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」は外せません。若い頃から波について関心があった葛飾北斎の集大成となる作品です。
葛飾北斎は「冨嶽三十六景」の後、「諸国瀧廻り」、「諸国名橋奇覧」、「千絵の海」など70代あたりで数多くの風景版画を手掛けていました。
「諸国瀧廻り」では、「諸国瀧廻り 東都葵ヶ岡の滝」に注目。実は歌川広重が後世になって同所を「名所江戸百景」シリーズにて描いているのだそうです。それぞれの絵師が描く作品の解釈を楽しめるので、ぜひご覧ください。
印象に残る風景画・花鳥画を多数描いた歌川広重
現在の静岡市清水区にあるこの町は雪の降らない町ですが“雪の夜”という設定にすることで忘れられない印象を与えています
(左から)「東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪」ミネアポリス美術館所蔵
「東海道五拾三次之内 丸子 名物茶屋」中外産業株式会社所蔵 原安三郎コレクション
画家のフィンセント・ファン・ゴッホも模写したと知られる歌川広重作品
(左から)「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」東京都江戸東京博物館所蔵
「名所江戸百景 廓中東雲」東京都江戸東京博物館所蔵
先述した歌川広重は「東海道五拾三次之内」シリーズのヒットによって風景画の名手として名を馳せるようになりました。小山学芸員がおすすめする歌川広重作品は「東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪」です。
傑作中の傑作として名高い同作品は、現在の静岡県静岡市清水区にある町をモチーフに描かれています。みかんが栽培されるほどの温暖な地域であり、雪は降らないのですが、あえて歌川広重は“雪の夜”という設定にしました。ただの宿場町を雪景色にすることにより、観る人が忘れられない場所として印象に残る作品となっています。
同作品は、前期にミネアポリス美術館所蔵品を展示、後期に東京都江戸東京博物館所蔵品を展示しますが、実は少し異なる点があります。それは“空の色”で、色のぼかし刷りの形が違うと生じるものなのだそうです。特に後期のミネアポリス美術館所蔵品は初刷りとされており貴重なのだとか。前期・後期それぞれの違いを比較して楽しんでみてはいかがでしょうか。
もう1つ歌川広重の見どころ作品として「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」があります。こちらは画家のフィンセント・ファン・ゴッホも模写したと知られる作品です。作品内に描かれている橋も、夕立も斜めに描かれており、未だかつてない構図の作品となっています。
豊かな発想力で「誰が観てもわかりやすく面白い」を追究した歌川国芳
A4サイズより少し大きめの紙を3枚続にして巨大なモチーフを配しダイナミックな画面を作りだした「ワイドスクリーン」。幅は約75センチほどと通常の浮世絵よりも大きい
(左から)「宮本武蔵の鯨退治」
「鬼若丸の鯉退治」
猫好きとしても知られていた歌川国芳の作品には猫をモチーフにした作品が展示されています
(左から)「絵鏡台合かゞ身 猫 しゝ・みゝづく・はんにやあめん」
「猫の当字 ふぐ」
展覧会の最後を飾るのは歌川国芳。小山学芸員は「誰が観てもわかりやすい、面白いという所を深く追求していく所に(歌川国芳の)良さがあります」と話していましたが、特に最近、関心度の高い歌川国芳の作品がずらり展示されています。
前期でご覧いただきたい作品は「宮本武蔵の鯨退治」です。用紙に大きく描かれた鯨には、これまでの浮世絵師の発想にはなかった歌川国芳ならではの着眼点があると言えます。
通常、浮世絵に使われている用紙の大きさは大体A4サイズよりも少し大きめのサイズですが、それを3枚続きにして大きく描き出すという手法「ワイドスクリーン」が生み出されました。それにより他の作品よりも迫力のある作品となりました。
また、この「ワイドスクリーン」で描かれた作品で後期におすすめしたい作品は、本展の看板にもなっている「相馬の古内裏」です。12/17(火)より展示されます。
ミュージアムショップ
本展の音声ガイドは落語家の春風亭一之輔さんが初登場。浮世絵師のエピソードも含め江戸文化や浮世絵に描かれているテーマなどをわかりやすく解説しています。
「大浮世絵展 ―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演」は東京都江戸東京博物館で2020/1/19(日)まで開催。東京展を皮切りに福岡美術館(2020/1/28(火)~3/22(日)開催)、愛知県美術館(2020/4/3(金)~5/31(日)開催)へと巡ります。
▼福岡展(1/28~3/22開催 福岡市美術館)チケット販売中
▼名古屋展(4/3~5/31開催 愛知県美術館)チケット販売中
開催概要
大浮世絵展 ―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演
開催期間
11/19(火)~2020/1/19(日)※会期中展示替えあり
時間
9:30~17:30
※入館は閉館の30分前まで
※土曜日は19:30まで開館
休館日
月曜日(2020/1/13(月・祝)は開館)
2019/12/28(土)~2020/1/1(水・祝)
会場
東京都江戸東京博物館 1階特別展示室
公式ホームページ
https://dai-ukiyoe.jp/index.html ※外部サイトへ移動します
▼福岡展(1/28~3/22開催 福岡市美術館)チケット販売中
▼名古屋展(4/3~5/31開催 愛知県美術館)チケット販売中
(文・写真:工藤明日香/ローソンチケット)
【東京都江戸東京博物館 周辺地図】