【インタビュー】HAN-KUN

 

HAN-KUN

キャリア初のカバーアルバム「Musical Ambassador」をリリース

 

― 5月29日にキャリア初のカバーアルバム「Musical Ambassador」をリリースされます。そもそも、なぜカバーアルバムを制作しようと思ったのですか?

 

「自分はレゲエという音楽と出会い、マイクを握って歌い始めました。だから、J-POPのみのカバーアルバムを制作すると聞いて、驚く人もいたと思うんです。そもそも今回この作品に挑もうと思ったのは、湘南乃風の一員として15年、ソロとして10年活動して、いよいよ第2章に突入するにあたり新たな挑戦をしたいというところが出発点でした。そんな中、自分がこうして活動してこられたのは、ファンの皆さんやスタッフの支えがあったからなんですよね。今まではレゲエという音楽に真摯に向き合う自分に対して、スタッフは万全の体制で取り組めるようサポートしてくれる間柄でした。だから、ソロ作を作るにしても、まずレゲエありきといったように。でも節目を迎えて、そこも取っ払って『一緒にゼロから作り上げてみたい』と思うようになって。だとしたら、みんなの共通項であるJ-POPという音楽を介してなら、互いの歴史が重なるところの音楽を一から作ることでもっと深く関わり合えるかなと思い至り、J-POPの名曲をカバーしようと決めました。」

 

― 「Musical Ambassador」というタイトルに、どんな思いを込めているのですか?

 

「自分の出自であるJAPANと音楽的な原点であるJAMAICAの、JA to JA で音楽の大使のように国の音楽を繋げられるんじゃないかという思い。アイデンティティとJ-POPの双方をしっかりと立てたものにしたいという発想から名づけました。と同時に、自分が初めてマイクを握って歌ってきたときからの夢、日本にもっとレゲエという音楽を広める一端を担えればいいなという思いも込められています。日本においてのレゲエは小さなコミュニティだけど、J-POPというメジャーをはじめとするジャンルのフィールドを繋ぐ、人と人とを繋ぐという意味もありますね。」

 

― 世界中で最も聴かれているポピュラー音楽の1つである「レゲエ」。日本ではそこまで市民権をまだ得られていないことへの危機感や忸怩たる思いも動機だったのですか?

 

「今に限らず、もっとたくさんの人にレゲエを聴いてもらいたいという思いはずっと持っているものです。だからこそ今回のアルバムは、『これはレゲエというジャンルなんだ』と構えるような作品にしたくなかった。なんなら聴いた後にレゲエだと気づかなかなくても構わない。とにかく、触れる場を創り出したかったんですよ。」

 

― 数多あるJ-POPから選曲するのは大変だったでしょうね?

 

「めちゃめちゃ悩みました(笑)。どんな人たちに届けたいかとか、音楽の楽しさを少しでも感じてもらえる作品にしたいとか、考えれば考えるほど…いつになっても答えが出ない(笑)。それで、純粋に『地元の友達が聴いたら喜ぶもの』がいいなと。WANDSさんやT-BOLANさんは、自分が子供の頃に大ヒットしていてリアルタイムに何度も口ずさんだものです。
一方、スターダスト・レビューさんの『木蘭の涙』は、リアルタイムではないけど小さい頃に親父の車に乗るたびにかかってて。TUBEさんもそう。だから、好きとか嫌いという以前に覚えちゃってて、いつの間にか大好きになってたような曲たちなんですよ。俺ら世代はちょうどお子さんがいたり、親も健在だったりするから、上の世代とも下とも繋がれる位置にいる。俺自身が親に影響されたように、今『友達が喜びそうな曲』を歌うことがもっとも幅広く届けられるのかなと思いました。
『海の声』のように最近の曲でも、単純に好きだから歌った曲もあります。『ひまわりの約束』はもちろん秦基博さんの素晴らしい曲であるし、それが主題歌になってた映画『STAND BY ME ドラえもん』にめちゃめちゃ感動して。あの映画の主題歌を歌えるという喜びと相まって、歌いながら泣いちゃいそうになりますね(笑)。
いろいろとトライしてみて分かったんですが、自分の体をこれまでに通ってこなかったものは歌えない。きっと楽譜通りに声を出せても、そこに自分なりの何かを込めることはできない。俺らのようなレゲエを軸とするミュージシャンは、まさにリアルをそのまま投影することをステージでやってきている。今流行ってる曲をカバーする方が話題にはなるかもしれないけど、そこには嘘をつきたくなかったんですよね。」

 

― トラックをジャマイカで制作するなど、音楽的にとてもこだわっていますね?

 

「元になるものをこっちで作り、それをジャマイカに持って行って作り上げたんですが、今までのどの作品よりも音楽的にレゲエになったなと感じます。『ひまわりの約束』はギターもドラムも現地のミュージシャンに演奏してもらって録ったので、一番土着的な空気感が含まれたトラックになってるんじゃないかな。『空も飛べるはず』も、現地のスカが輝いていた頃を知るミュージシャンに依頼して録ったもので、現地の空気感はもちろんいい時代感も閉じ込められたんじゃないかと思いますね。
『Tomorrow never knows』はシリアスな世界観を持つ楽曲ですが、それをあえてトロピカルハウス(カイゴやジャスティス・ビーバーらも取り入れる、近年世界的に注目を集める音楽スタイル)でアプローチしました。この曲は若干トレンドを意識したトラックですが、基本的にオーセンティックなサウンドが基になので聴いていて親しみやすいんじゃないかなと。初めてレゲエに触れる人にも、いいガイドになれるんじゃないかと思いますね。」

 

― 普段の制作との一番の違いはなんでしたか?

 

「いわゆる『ヴァイヴス』、その場のノリで作れなかったことですね。これまでは、作業を進めながら途中で生まれたひらめきやアイデアをその場で採用し、歌メロや歌詞を変えることもしばしば。でも今回は原曲の良さを残しながら、レゲエに昇華していくという未知のミッションだったので少し戸惑いはありました。それは、10年来の付き合いであるジャマイカのミュージシャン達も同じで。初めて譜面を持ち込んで、『今このあたりだよね?』って互いに手探りしながら進めました。J-POPという新しい世界に誇れる音楽に触れて現地のミュージシャンたちも楽しんでくれたのが嬉しかったですね。
はじめはまるで違う音楽を結びつけるイメージでしたが、レゲエってそもそもがカバーの文化。SOUL MUSICやR&Bを自分なりにカバーし、ジャマイカ発信で広まったものなんです。その土台があるからか、今も盛んに他人の曲を勝手に歌ってる(笑)ミュージシャンは多いです。ある時、不思議に思って『どうして、大勢の人が聴いてくれるフェスで自分の曲ではなく他人の曲をわざわざ歌うんだ?』と尋ねたんです。そうしたら、『レゲエを知らない人もフェスには来てる。そういう人たちにも、知ってる曲をレゲエに乗せて歌うことでレゲエに親しんでもらえる。それが何よりも大事だし、いずれはそれがレゲエに還元されるんだ』と。ジャマイカのミュージシャンたちの考え方、生き様を目の当たりにして、それまで持っていたカバーに対する考え方がガラリと変わりました。そんなこともあって、俺がJ-POPに敬意を表しながらレゲエのマナーでカバーするというというのは、ある意味で必然なのかなと感じますね。」

 

― J-POPと向き合ったことで気づいたことや導き出せたことは?

 

「一番は『間』ですね。実際に歌ってみると、言葉がすごく入ってくる間の取り方だなと。1音に1字という歌詞もそうだし、歌詞の1行と1行にも間がある。名曲には噛み締めて聴ける『間』があるとしみじみ感じました。当たり前ですが、韻も踏んでないし、ライミングとは違うまっすぐな歌唱なのでメロディそのものの良さがダイレクトに伝わる。自分の口から発しててすごく感じました。レゲエも「間」を大事にする音楽なので、改めて共通点がすごくあるなと感じたし、『間』が音楽にいかに大切かを再認識できた。それは自分の次の作品にも大きく影響するんじゃないかなと思います。」

 

― 韻も踏まず、ライミングで勝負しない。つまり、得意技をあえて封印したと?

 

「歌って本来はそういうものなんでしょうね(笑)。レゲエに特化して活動してきたから自ずと韻やライミングを向き合い磨く半生だったので、そこを突き詰めて研磨するのとはまるで違う開放感とか、無限の可能性を歌いながら感じましたね。」

 

― 個人的には「Voice Magician」の面目躍如というか、歌の素晴らしさを十二分に発揮した作品になったと思っています。そんなスペシャルな歌声を聴けるスペシャルなライブも決まりましたね?

 

「普段のライブの延長線上ではなく、カバーアルバム『Musical Ambassador』のためのスペシャルなライブという位置付けです。今回の楽曲は生のバンドが活きると思うので、ずっと一緒にやってもらってるバンドと一緒に演奏してもらう予定です。アルバムで今までにない挑戦をしたいように、ライブでも10周年という節目にこれまで応援してくれた人たちに新たな一面を見せることができたらなと思ってます。
個人的には、1曲1曲を丁寧に心を込めて歌い切るのが第一プライオリティだと思っています。いつものライブでは楽曲を無駄遣いすることも多く(笑)、歌詞を間違ってもその場のノリで変えて逆に盛り上げたり、フリースタイルをバンバン入れちゃうんですよ(笑)。今回はそれは封印。やらないことが曲へのリスペクトにつながると思ってます。だからきっと、一番緊張しているのは自分自身じゃないかなと。
ライブに足を運んでくださる人は、周りの目は気にせず俺と1対1で話している感じになってもらいたい。たとえ友達と一緒に来ていても、向き合って喋ってるみたいな…その感情に俺も応えたいし、1人1人の感情をきちんと聴き取れるように精一杯アクトしたいと思ってます。」

プロフィール

HAN-KUN

神奈川県出身のシンガーソングライターであり、レゲエグループ・湘南乃風のメンバー。

約2年振り、自身初のカバーアルバム『Musical Ambassador』を5/29(水)に発売する。

 

公演情報

 

HAN-KUN 10th Anniversary special live『MUSICAL AMBASSADOR』

5/31(金)19:30 TOKYO DOME CITY HALL(東京都)

 

 

インタビュー・文/橘川有子

 

 

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