クラシック

【インタビュー】コロンえりか|7STAR ARTISTS in 浜離宮朝日ホール コロンえりかオペラ・ラティーナ

【インタビュー】コロンえりか|7STAR ARTISTS in 浜離宮朝日ホール コロンえりかオペラ・ラティーナ ©キングレコード

コロンえりか

ベネズエラ出身のソプラノ歌手・コロンえりかが、南米やスペイン歌曲を披露するコンサート「オペラ・ラティーナ」を開催。コンサートに込めた想い、彼女が考える歌や音楽の魅力について、たっぷりと話を聞いた。


――この「オペラ・ラティーナ」というコンサートは、コロンさんにとってライフワークのようなものとお聞きしました。どのような想いが込められているんでしょうか。

オペラ・ラティーナというタイトルではありますが、オペラではなく歌曲が中心のプログラムです。みなさんオペラを観に行く際には、人間ドラマや喜怒哀楽など、いろいろなことに果敢に立ち向かっていく役の歌を聴いて、どこかしら自分にあてはめたりするようなところってありますよね。歌曲も、たとえ短い作品であってもドラマがたくさんあるんです。あと、”ラティーナ”の部分もミソなんですけれど、私自身が南米で育って、日本とはまったく違う価値観の中で生きてきました。今回取り上げる曲は全てスペインと南米の文化圏の中で生まれた曲です。土着のもの、西洋音楽とミックスしたものなど、いろいろな曲があります。それを、今の日本で発表するのはすごく面白いんじゃないかと思ったんです。


――歌曲をオペラのように楽しんで、南米やスペインの音楽に触れてほしいという想いが「オペラ・ラティーナ」に込められているんですね。

今のご時世、旅行にも行けないですし、いろいろな価値観や文化と関わることが少なくなっていて、だんだんしんどさを感じている方もいらっしゃるはず。何より、私自身がそう。子育てをしていても、箱の中のひとつの価値観しか見えないと疲れてしまうこともあります。そんな中で、別の価値観や文化では、まったく違う問題の乗り越え方をしている人たちがいるんですよね。オペラ・ラティーナで取り上げる歌曲の登場人物も、本当に怒っている人とか、母親像とか、恋に破れた人、思い通りにいかなくて後悔している人、何も考えずにただ踊っている人など、いろいろな人が出てくるんです。そんな人たちのドラマを感じて、少し気が楽になるような、そんなコンサートにしたいと思っています。


――選曲もこだわっているんですね。

できる限り日本から遠いものを選びました。日本人にとっては異質だけれども、そこに共通点を見つけるのが面白そうな曲にしています。あとは、日本でもよく知られているクラシックの曲、日本では全く知られていないけれど南米ではクラシックとして愛されている曲などもあります。マニアックですよ(笑)。


――私たち日本人にとっては新鮮に映るけれど、この気持ちはわかるかも?というような発見と共感がありそうな選曲なんですね。南米やスペインの楽曲の魅力はどういうところにあるんですか?

今回のステージでは、要素は大きく3つあると思います。まずはリズム。西洋のクラシックとはまた違ったいろんなリズムが出てくる面白さがあります。次に歌詞ですね。わびさびとは全く反対の世界です(笑)。情感はもう全部、涙と情熱で埋めてしまうような感じです。言いたいことを我慢せずに、全部出しちゃう歌詞ですね。とはいってもスペイン語はダブルミーニングがとても多い言葉なので、想像力を必要とするイミシンな歌詞になっています。今回は、みなさんにも歌詞の内容をわかっていただけるように、訳を出したいと思っているので楽しんでいただければと思います。そして、最後に何といっても山田武彦さんの素晴らしいピアノです。毎回、演奏によってその場その場で生まれてくるインスピレーションがあるんですよ。本当にその場で生まれた新鮮さがあって、この場でしか聴けない感動があると思います。


――歌詞の内容も含めて楽しめる企画って素敵ですね。

もちろん、音楽の美しさだけを純粋に楽しんでいただくのもいいんですが、今回は、歌詞も楽しんでほしいと思っています。歌詞の中でどんなことを言っているのか、逆に言葉はすごく多いのにどれだけ意味のないことなのか、とか……タラリラリラ、とか、ルンルンみたいな感じの音の遊びとかね(笑)。あんまり深く考えずに歌おうよ、っていう曲もあるんです。歌う時は、もう日本人の私は脱ぎ捨てます(笑)。一つ一つの曲に、役割とその人のストーリー、曲が生まれるような事件があるので、すべての曲で別人のような気持ちで歌っています。そういうところも今回のテーマにつながっていると思いますね。


――歌詞からの歌のメッセージがある曲、声を音として楽しんでいる曲など、いろいろなんですね。そもそもコロンさんって、なぜ歌の道に進もうと考えたんですか?

子どものころから時々舞台には立っていましたが、直接のきっかけになっているのは、たぶん阪神大震災です。自宅が全壊になって、その時に音楽っていう目に見えないものが、確実に私に変容をもたらしました。音楽の力をすごく感じたんです。でも、音楽の勉強をするようになったのは、それからずいぶん後になってからでした。人生は1回しかないと思って……環境もなかったし、周囲からの反対もあったし、いろいろな障壁はありましたが、やらないと後悔すると思って進むことを決めました。


コロンえりか

©キングレコード


――周囲からの安定した職業に就いてほしい、という希望もあったそうですね。それで一度は就職して、そこからのイギリス留学には大きな決意が必要だったように思います。

先日、友人とその話もしたんですが、人生の決断って考えすぎるとできなくなるんですよね。ときどき、もうエイッと飛び込まなきゃいけない時があるんですよ、人間って。飛び込むきっかけになった要素はいろいろあったと思うんですけどね。私自身、深く考えこんでしまうタイプ。でも、世の中に確かなことなんてなくて、考えたからその通りになるかどうかなんて、確実じゃない。考えること自体は否定しないですけど、ときどきは自分の直感を信じて生きないといけないと思っています。自分に正直であるときにした決断は、後悔しないですから。


――考えすぎずに、自分の正直な気持ちと直感を信じることも大切だと。

やろうと決めた時はまだできる状況に達していなかったんです。でも、口に出して言うようになったら、すごく応援してくれる人が出てきたりして、周りがたくさん助けてくれた。自分の人生のマニフェストですね。


――自分の言葉で人生のマニフェストを伝えていけば、きっと道は拓けるんですね。音楽の素晴らしいところはどんなところだと考えていますか。

音楽って、その瞬間その瞬間で消えてしまうもの。でもやっぱり、本番でその場所にいる方と生み出される音楽は唯一無二のもの。ライブパフォーマンスを太古の昔から人間はやってきていて、それはずっと続いていくんだろうな、ということを日々感じています。音楽に携わることができて、来てくださる方のビビットなリアクションによって何かが生まれる。幼少のころから舞台に立ってはいましたが、ここまで出来ました、という発表の意味ではなく、自分がひとりのアーティストとして、お客様に何か伝え、そして何かが返ってくるというご褒美があるんです。それは本当に、私にとってとても幸せなことです。


――コロンさんは、アーティストでもありますが、4人のお子さんの母でもあり、駐日ベネズエラ大使の妻でもあり、さまざまな社会活動でのご活躍もあり、本当にお忙しく幅広く活動していらっしゃいます。自分を動かすモチベーションはどんなことなんでしょうか。

多分、すべてがお互いにモチベーションになっているんです。やらなきゃいけないことはたくさんあるんですけれど……子どもから教えてもらうこともたくさんあるし、自分が舞台に立つことで得られることもある。でも、すべてに共通しているのは、やっぱり音楽ですね。大使館に居ても、すべて音楽寄りに考えている気がします。家では子どもは桑田佳祐さんを崇拝しているし(笑)、みんなで盛り上がりたいときにはサルサをかけたり、クラシック音楽をかけることもあります。ジャンルを問わず、いつも音楽が力をくれる感覚はありますね。


――いろいろなジャンルの音楽の楽しさを実感しているからこそ、アーティストとしてもそれを届けたいし、その思いがモチベーションになっているのかもしれませんね。

そうですね。私の活動のひとつ「ホワイトハンドコーラスNIPPON」では、目が見えない子とか、耳の聞こえない子たちと一緒にやっているんですけれど、耳が聞こえなくても「音楽は私にとって欠かせないものだ」と言ってくれる子、「音楽は自分を表現するものだ」と言う子もいるんです。私には聞こえない世界や見えない世界を完全に想像することはできないし、自分の子どものことですらわからない時もある。でも、人と人が関わる中で生まれる言葉にできないものやいろいろな感情を、耳が聞こえない人にも、音楽が私たちの気持ちを運んだりつなげたりしてくれる。その事実に、日々すごいなと感じさせられますね。私はその音楽の……しもべのしもべのしもべ、です(笑)。でも、私はその見えないものに仕える存在でありたいと思います。


――最後に、今回のコンサートへの意気込みをお聞かせください。

今回のプログラムは非常にめずらしいものになっています。これだけの南米の作曲家の歌曲を聴ける場所を聴ける機会はなかなかないと思います。南米の音楽にご興味がある方は、ぜひ聴いていただきたいですね。クラシック音楽に馴染みのない方も、今回のプログラムは楽しくて聴きやすい曲が非常に多くなっていますので、楽しんでいただけるはず。ラテンのスピリットが凝縮されたようなステージになっていますので、いつもとは違うテイストの音楽を聴きたい方、ちょっとスカッとしたい方、いろんな国の文化に触れるのが好きな方など、いろいろな方にお越しいただけたら。いろいろ悩んでいることがある方に、”な~んだ、そういうことか!”なんて思っていただけたら、嬉しいですね。




インタビュー・文/宮崎新之


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