<第1章 季節の楽しみと食>
咲き誇る花、輝く太陽、色づく山々、降りしきる雪。巡る季節の中で変化していく自然の情景は、今も昔も変わ
ることなく人々の心を潤してきました。泰平の世が続いた江戸時代、人々はそうした季節の楽しみとともに「食」
を謳歌すること も忘れませんでした。春夏秋冬の年中行事にまつわる浮世絵を見てみると、季節感あふれる華
やかな場面の中にすしや豆腐、西瓜や焼芋、握り飯や餅など人々に親しまれた「食」が存在感を放ちます。
そして江戸時代、誰もが憧れたエンターテイメントに「歌舞伎」があります。当時の上演時間は早朝から日暮れ
までと長く、観客たちは芝居小屋で菓子・弁当・すしなどを芝居とともに楽しんだのです。江戸の人たちが楽しい
時にどんなものを食べていたのかを、ちょっとのぞいてみましょう。
<第2章 にぎわう江戸の食卓>
本章では江戸時代の食模様が描かれている浮世絵をみながら、当時の食事情を紐解いていきます。「江戸湾」で捕れたネタを用いた「すし」、「鰻」、「天ぷら」をはじめ、私たちにとって馴染みのある料理が描かれた浮世絵をご紹介します。また、日本橋の賑わい、嬉しそうに白玉を見つめる女性などが描かれた浮世絵からは、江戸の人たちがどのような食生活を送っていたかを垣間見ることができます。そうした食の事情や背景を知った上で、浮世絵を改めて今一度見てみると、なぜ描かれた女性が、嬉しそうに食べようとしているのかなど、当時の様子がリアルに伝わってきます。
さらに、江戸の料理書から、浮世絵に描かれた食・料理を探り出して再現した、当時のレシピもご紹介します。
描かれた食材や料理はどんな味がしたのか、想像をめぐらしながら、浮世絵をお楽しみいただきます。
<第3章 江戸の名店>
江戸時代後期には 多くの料理茶屋が誕生しました。 両国柳橋の河内屋や八百善など高級店も登場し、文人たちの交流の場となり、書画会や句会なども料理茶屋で催されるようになりました。こうした場所もしばしば浮世絵に描かれています。座敷へ料理を運ぶ軽子の姿なども描かれており、大きな御膳にたくさんの料理を乗せて運ぶ姿から、どのような料理が出されていたかを想像させます。
嘉永5年(1852)より出された『東都高名會席盡』 には、江戸の名高い会席料理屋が歌舞伎役者とともに紹介されています。人気役者と名店が組み合わされているということからも、有名飲食店は、江戸の人々の中で話題になっていたのでしょう。全シリーズを揃えると50点にのぼる『東都高名會席盡』のボリュームを考えても、江
戸の外食文化がいかに発展していたかがわかります。
<第4章 旅と名物>
江戸時代、参勤交代という制度のもとに各地の大名諸侯は国許と江戸を往き来しなくてはなりませんでした。
それにともない東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道という五街道、さらに各宿場も整備されていきました。そうした環境が整ったことで、次第に庶民たちも旅に出かけるようになります。
そのような背景から、東海道を題材にした数多くの浮世絵作品が生み出されていきました。歌川広重や葛飾北斎はいくつもの東海道シリーズを手掛けていますが、そこには各宿の名勝や名物が描かれており、当時の人々が美しい景色や美味しい食べ物を楽しみに、道中を進んでいったことを思わせます。ここでは名物の中でも飲食に関わるシーンを描いた東海道作品をご紹介します。
江戸から京都まで約492キロの徒歩の旅。食いしん坊な江戸の旅人たちにとって各地で出会う名物は心の支えにもなったことでしょう。