「国立西洋美術館開館60周年記念 ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」が開催中

世界遺産で近代建築の巨匠ル・コルビュジエの原点を観る

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代

 

2/19(火)より国立西洋美術館(東京・上野)にて近代建築の三大巨匠のひとりル・コルビュジエの展覧会「国立西洋美術館開館60周年記念 ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」が開催中です。

2016年に世界文化遺産に登録された国立西洋美術館は、今年で開館60周年を迎えます。その記念に伴ない、同美術館本館を設計したル・コルビュジエの展覧会が行われる運びとなりました。

 

 

20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエ。アメリカのフランク・ロイド・ライト、ドイツ出身のミース・ファン・デル・ローエと並び、「近代建築の三大巨匠」のひとりに数えられます。会場となる国立西洋美術館は日本で唯一のル・コルビュジエの建築作品です。

 

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 パリ、ジャコブ通りの自宅におけるル・コルビュジエ

 

スイス生まれのル・コルビュジエ(本名:シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ)は、1917年よりフランス・パリに拠点を移し、1920年から「ル・コルビュジエ」の名で著述活動をスタート。数々の建築関係の著作と建築作品により近代建築の第一人者として国際的に注目されていきました。

 

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 ル・コルビュジエ(本名:シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ)とアメデ・オザンファンが共同で開いた絵画展に出された2点の油彩画のうちのひとつ『暖炉』。後年ル・コルビュジエはこれを自分の「最初のタブロー」と呼んだ

 

第一次世界大戦が終わった1918年末、画家のアメデ・オザンファンとともにル・コルビュジエは、パリで絵画展を開催、ここからピュリスム(純粋主義)運動が始まりました。

このピュリスムとは、比例と幾何学によって明快な構成を取り上げる近代の精神を表現する新しい芸術のこと。ル・コルビュジエは本物そっくりに描くのではなく、見たものを単純な線や面に置き換えて描いた新しい表現を追究していきました。

 

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 ル・コルビュジエのピュリスム時代後期の代表作『多数のオブジェのある静物』

 

本展覧会では、ル・コルビュジエがピュリスム運動を推進した時代に焦点をあて、多方面に渡った約10年間の活動を振り返ります。会場内はル・コルビュジエと同時代の作家たちの美術作品約100点に加えて建築模型、出版物、映像など多数の資料で構成。新しい芸術への情熱に駆り立てられたピュリスム時代の精力的な活動を通じて、後に建築家へと飛躍を果たすル・コルビュジエの造形思考の発展過程を辿ることができます。

本展覧会の音声ガイドは声優・ナレーターの諏訪部順一さんが担当。作品紹介に加えて、国立西洋美術館の建築ツアーがボーナストラックとして収録されています。展示作品紹介に加えて建物自体のこともより深く知ることができるのでおすすめです。

 

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 国立西洋美術館本館の中心にある19世紀ホール。「無限成長美術館」というコンセプトに基づいて作られています

 

ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館には様々なところでル・コルビュジエが考えた美術館構想を体感することができます。例えば、展示室に入ってすぐの「19世紀ホール」と名付けられた建物中央の吹き抜け空間では、所蔵品が増えるにつれて建物が中心から外へ螺旋状に拡張する「無限成長美術館」というコンセプトに基づいて作られています。近代の始まりにあたる19世紀の技術と芸術を象徴しています。

 

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 国立西洋美術館本館2階の天井は内側(黒)と外側(白)で高さが違う。その理由は身長183センチが関係します

 

また、国立西洋美術館2階の天井は高さが内側と外側で違います。こちらもル・コルビュジエの独自理論によるもの。

国立西洋美術館の寸法は全てル・コルビュジエが考案した「モデュロール」で決められているのだそうです。この「モデュロール」とは、フランス語の基礎寸法という意味の「モデュール」と、黄金比という意味の「ノンブル・ドーム」を合わせたル・コルビュジエの造語。ル・コルビュジエは、ギリシャ時代から美しいと言われてきた黄金比を応用し、人間、自然、建築の調和を導く尺度を作りました。

国立西洋美術館の低い方の天井の高さは、身長183センチの西洋人の標準男性の基準に作られたもの。その同身長の人間が手を伸ばした時の長さに決められたのだとか。もし、身長183センチの方は、ぜひ会場に行った際に天井に向かって手を伸ばしてみては?

ル・コルビュジエは、こうした美術館構想を1920年代末から提案していましたが、実現したのは国立西洋美術館を含めて世界に3つだけです。国立西洋美術館本館は、ル・コルビュジエが設計し、パリで彼に師事した前川國男、坂倉準三、吉坂隆正の3人の日本人建築家の協力により完成しました。

 

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 ル・コルビュジエの建築理念を最も純粋な形で実現した代表作『「サヴォワ邸」1/50模型』。どことなく国立西洋美術館にも似ている部分があります

 

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 『「ヴァイセンホフ・ジードルンクの住宅」1/50模型』この近代住宅建築展で「近代建築の5原則」を発表した

 

ピュリスム時代を経たル・コルビュジエの思想は、絵画から建築、都市計画、インテリア・デザインまで広く発展していきます。その根源には人間に自由と幸福を与えるのは芸術であって、建築こそが最も高貴な芸術であるという信念がありました。

ル・コルビュジエのターニングポイントとなる1920年代の広範囲な業績が、彼自身の建築作品である国立西洋美術館の空間で紹介される本展覧会。ちなみに通常、企画展は本館ではなく、企画展示室で行われます。

ですが、今回、国立西洋美術館の60周年記念として、また、本館の設計に携わったル・コルビュジエの建造物で、ル・コルビュジエの作品を飾るという意義があったため、本展覧会は同美術館本館にて開催されることが決まりました。普段、展示されている作品と入れ替えて、ル・コルビュジエに関係する作品が展示されているのは貴重です。

 

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代

 

「国立西洋美術館開館60周年記念 ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代」は5/19(日)まで開催しています。

 

ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 特設ショップ

 

開催概要

 

国立西洋美術館開館60周年記念 ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代

 

開催期間

2/19(火)~5/19(日)

開館時間

9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)

※ただし、金曜・土曜は20:00まで開館

会場

国立西洋美術館 本館(東京・上野公園)

休館日

月曜日、5/7(火)

※ただし2019/3/25(月)、4/29(月・祝)、5/6(月・休)は開館

公式ホームページ

https://www.lecorbusier2019.jp ※外部サイトへ移動します

 

 

(文・写真:工藤明日香/ローソンチケット)

 

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