クラシック

【インタビュー】鎌田邦裕&ティーナ・カリーナ│「フルートと昭和歌謡の響宴~ティーナ・カマータの夏祭り」

鎌田邦裕&ティーナ・カリーナ

【インタビュー】鎌田邦裕&ティーナ・カリーナ

京都市立芸術大学に学び、2022年日本音楽コンクールでは第2位および岩谷賞(聴衆賞)、2023年のリバプール国際フルートコンクールでは第1位を受賞するなど、近年目覚ましい活躍を繰り広げる俊英フルート奏者、鎌田邦裕。関西弁恋唄3部作《あんた》《あかん》《しもた》をはじめとするヒット作を多く世に出す一方で、2014年には「ひとり昭和歌謡祭」を立ち上げ、昭和歌謡の魅力を広く発信し続けるシンガーソングライター、ティーナ・カリーナ。
ふたつの強烈な個性がジャンルの垣根を超えて衝突・融合する異色のコンサート「フルートと昭和歌謡の響宴~ティーナ・カマータの夏祭り~」が、8月18日(日)に山形県・庄内町文化創造館 響ホールにて開かれる。この珍しいコラボレーションはいかにして実現したのか。また、そこではどんな音楽が奏でられるのか。東北に元気を届けるべく躍動するふたりに、演奏会のコンセプトや公演にかける想いについて聞いた。


◆コラボレーションのきっかけ

――今回のコンサートはクラシック×昭和歌謡という珍しいコラボレーションになりますが、どのような経緯で実現したのですか?

鎌田 私がティーナ・カリーナさんと初めてお会いしたのは、エフエム山形のティーナさんMCのラジオ番組に出演させていただいたときのことでした。その後、今年4月に仙台でティーナさんの「ひとり昭和歌謡祭」公演を聴かせていただいて、今まで思っていた以上に「昭和歌謡って面白いな」と感じたんです。ティーナさんのエンターテイナーとしての盛り上げ方も本当に素晴らしくて。それ以来、何か一緒にできることってないのかなとずっと考えていました。
じつは、以前から演奏会のアンケートなどで「歌謡曲を聞いてみたい」というリクエストもいただいていたのですよね。私自身はクラシックが専門なので、リサイタルでそういった曲を演奏したことはなかったのですが、昭和歌謡のプロであるティーナさんと一緒だったら、そうしたお客様の想いにも応えられるぞと思ったんです。


――今回の演奏会はどういった構成になるのでしょう?

鎌田 ピアノの小林紗代子さんも含めて3人で演奏するパートと、ティーナさんにがっつり昭和歌謡を歌っていただくパート、そしてフルートとピアノでクラシックをお聴きいただくパートがあります。3人の部分では、山形県民謡《花笠音頭》や八神純子さんの《みずいろの雨》などを演奏できればと考えています。


◆世代を超えて――昭和歌謡の魅力

――ティーナ・カリーナさんは、2014年9月に「ひとり昭和歌謡祭」を立ち上げられて以来、昭和歌謡を大切に歌われていますね。そもそも昭和歌謡を歌っていこうと思われたきっかけは何だったのでしょう?

ティーナ 私は大阪出身で、もともとは大阪の百貨店で販売員をしていたのですが、どうしても歌手になりたいと思い、2011年に全国の音楽事務所50社くらいにデモテープを送ったんです。ちょうど東日本大震災の直前のことでした。震災の被害が大きかった地域では郵便配達もストップしていたらしく、2か月ほど経ってから、仙台の事務所から「デモテープを聴きました」と連絡をいただいて、一緒にやろうということになったんです。それで、2012年3月に宮城県に引っ越しまして、その年の9月に《あんた》でデビューすることになりました。


――デビュー前から宮城に移られていたのですね

ティーナ そうなんです。それからは私自身も、復興へ向けて歩みを進めていく人々の姿を、想いを直に感じながら過ごしていました。あるとき、石巻の仮設住宅の集会所でカラオケ大会が開かれることになり、そこにゲストとして参加することになりました。子どもから年配の方まで、幅広い世代の人がいらっしゃるなかで、何を歌ったら喜んでもらえるのだろうと考えていたとき、小さい頃に両親から教わった昭和の曲を思い出したんです。それで昭和歌謡を歌ってみたら、小さい子は踊り出して、曲を知っている世代の方は一緒に口ずさんでくれて。長年いろいろな人に愛されて歌い継がれてきた曲は、こんなにも幅広い世代の人を一気に楽しませることができるんだと、深く感動しました。そのときに、こうした「家族3世代で楽しめるコンサート」をつくれたらすごく楽しいんじゃないかと思い、宮城で「ひとり昭和歌謡祭」を立ち上げることにしたんです。


――昭和歌謡にはどんな魅力があると思いますか?

ティーナ 同じ曲であっても、一人ひとり違った思い出を持っているのですよね。祖母や母親が台所で歌っていた曲だという人もいれば、昔の恋人を思い出している人もいて。そして、コンサートが終わった後に、「この曲が流行った頃は、お母さんも若くてね」みたいな思い出話をしたり、一緒に聴いた皆でカラオケに行ってから帰るなんて人もいらっしゃって。世代を超えて思い出を共有するきっかけになるんですよね。
かたちのない音楽だからこそ、時代を超えて楽しめるということも感じます。最近では、若い方のなかにも昭和歌謡を面白いと感じてくださる方が増えているように思います。テレビで生楽器をバックに演奏したり、しっかりとしたイントロがあってそれを聴くだけでどの曲かわかったり。そうした曲に込められた様々な仕掛けを新鮮に感じてくださる方も増えてきている気がしますね。


――昭和歌謡を歌うときに心掛けていらっしゃることはありますか?

ティーナ 皆さんの思い出を壊さないように、なるべく原曲に忠実に演奏するようにしています。アレンジを加えたり、シンセサイザーを用いるときでも「絶対にこの音で!」とこだわりをもって音づくりをすることが多いですね。今回の演奏会のフルートとピアノとのパートでは、いつもとは違ったアレンジでお届けすることになりますが、また異なった角度から皆さんの心に、思い出に寄り添えるような表現ができるのではと楽しみにしています。


◆「人間味」が感じられる音楽

――鎌田さんは普段はクラシックを主戦場とされているわけですが、今回のような「昭和歌謡」とのコラボレーションについて、過去に経験されたことはありますか?

鎌田 依頼演奏や老人ホームでのコンサートなどでは昭和歌謡を演奏することもありますが、プロの歌手の方とこういった形で共演するのは今回が初めてです。


――鎌田さんは昭和歌謡に対してどんなイメージをお持ちでしょう?

鎌田 じつは、自分にとっては結構身近な存在だと思っているんです。流行りのJ-POPやラップなどのなかには、言葉とリズム重視でメロディーが口ずさみづらいような曲が多いなと感じていて。一方で、先ほどのティーナさんのお話にもあったように、昭和歌謡にはイントロがちゃんとあって、メロディーラインもしっかりしていて、アイドル曲であってもきちんと「ハモリ」があったりするわけです。そうした点で、クラシックに通じる音楽だというイメージがあるんですよね。
私の周りにも、昭和歌謡が好きな音大生って結構いるんですよ。カラオケでも、平成後期や令和のポップスを歌うのではなく、中島みゆきや松任谷由実を歌う人が多くて。メロディーがちゃんとあって、和声がしっかりしている曲を歌う方が気持ちいいのだと思います。ゲーム音楽などのいわゆる「打ち込み音楽」(PCソフトに音符を入力して書かれた楽曲)とは異なる「人間味」が感じられる点も大きいのかもしれません。


◆テーマは「歌」――クラシック曲3題

――コンサートではクラシックの作品も演奏されるとのこと。曲目はもう決まっているのですか?

鎌田 はい、今回は3曲演奏する予定です。せっかくの昭和歌謡とのコラボレーションですから「歌」にちなんだ曲を中心に、しかし、クラシックならではの面白さも感じてもらうためにも、ライトな選曲になりすぎないよう注意して選んでみました。
1曲目はドイツの作曲家カルク=エーレルトの《シンフォニッシェ・カンツォーネ》です。「カンツォーネ」(イタリア語で「歌」の意)、つまり、ある意味イタリアの昭和歌謡ですよね(笑)。口ずさみやすい特徴的なメロディーが登場する曲なのですが、もちろん器楽作品ですから、自らの演奏技術によっていかに作曲家や自分の想いを伝えるか、というところが大事になってきます。
2曲目はボルヌの《カルメン幻想曲》。皆さんご存知のビゼー《カルメン》のメロディーが使われている聴きやすい作品です。歌の旋律を器楽曲にアレンジする場合、例えば和声をガラッと変えて遊んでみたり、音階を用いた技巧的なパッセージを入れてみたりといった手が加えられることが多いのですが、そうした器楽ならではの表現をお楽しみいただけると嬉しいですね。
3曲目は尾高尚忠の《フルート協奏曲》から第1楽章を演奏する予定です。この曲の冒頭は花火が打ちあがる様子に着想を得て書かれたと聞いたことがありまして、「ティーナ・カマータの夏祭り」にぴったりだと思い選曲しました。器楽には「歌詞=言葉」がないわけですが、逆に「自由にイメージすることができる」という強みがあるとも言えますよね。聴き手の気分によって、明るい曲としても哀しい曲としても味わうことができるという器楽作品ならではの魅力も、この曲を通してお伝えできればと思っています。


◆本気がぶつかり合う「夏祭り」

――今回の演奏会で楽しみにされている点についてお聞かせください

ティーナ 以前「ColorSing」の配信で鎌田さんと《花は咲く》を演奏したことがあるのですが、生のフルートの音を聴くとすごく心が揺さぶられるんです。今回はそれを間近に感じながら、ステージで歌える。私自身もきっと心が震えるし、それはお客様にも伝わると思います。今回は私のデビュー曲《あんた》もフルートとピアノと一緒に歌わせていただく予定になっていますので、今まで私が歌ってきた音楽がどういう風に変わるのか、すごく楽しみです。


鎌田 私はティーナさんとの共演はもちろん、演奏会の全体がとても楽しみで。今回、編曲はクラシックの作曲家に依頼しているのですが、昭和歌謡にクラシックの切り口が入ったときにどんな作品が生まれるのか。また、普段ポップスや歌謡曲を聴いているお客様と、普段クラシックを聴いているお客様が同じ会場で融合したときに、いったいどんな反応が起きるのか。きっと拍手をするタイミングなんかも人によって違うんじゃないかと(笑)。そういう会場の雰囲気も含めてすごく楽しみですね。ジャンルの垣根を超えて、皆が音楽を愉しめる空間ができあがっていくといいなと思っています。


――最後に、ご来場くださるお客様へメッセージをお願いします

ティーナ じつはデビューした頃に、鶴岡市にインストアライブをしに伺ったことがあるのですが、そのときにとてもたくさんのお客様が来てくださって。以来、ずっと庄内地方でコンサートをしたいなと思っていたんです。その夢が鎌田さんにお誘いいただいたことで叶って、とても嬉しく思っています。山形の皆さんとコンサートでお会いできるのを楽しみにしています!


鎌田 山形の皆さんが待望してくださっていた「昭和歌謡」を、その道のプロの方に歌っていただける機会をつくれたことを私自身も幸せに感じています。初めて昭和歌謡に触れる方も、初めてクラシックを聴く方も、どちらもお楽しみいただけるのが今回のコンサートの特長だと思っています。それぞれの分野の本気がぶつかり合う「夏祭り」を、たくさんの皆さんにお聴きいただけると嬉しいです!



取材・文/本田裕暉



「フルートと昭和歌謡の響宴~ティーナ・カマータの夏祭り」公演情報│ローチケ[ローソンチケット]

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【インタビュー】鎌田邦裕&ティーナ・カリーナ│「フルートと昭和歌謡の響宴~ティーナ・カマータの夏祭り」