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【インタビュー】三浦一馬│TRINITYISM(トリニティイズム)

【インタビュー】三浦一馬 ©日本コロムビア

【インタビュー】三浦一馬

バンドネオンの世界的権威であるアルゼンチンの音楽家ネストル・マルコーニに学び、2008年には第33回国際ピアソラ・コンクールで日本人初の準優勝を果たした名手、三浦一馬。2011年には別府アルゲリッチ音楽祭でマルタ・アルゲリッチやユーリ・バシュメットらと共演、キンテート(五重奏団)による演奏活動に加え、2017年には室内オーケストラ「東京グランド・ソロイスツ」を新たに創設するなど、多彩な活動を繰り広げている。
そんな三浦は今年、ふたりの若き俊英、ヴァイオリニストの成田達輝とピアニストのロー磨秀とともにトリオ「TRINITYISM(トリニティイズム)」を結成。4月27日に東京・浜離宮朝日ホールにて「クラシックからピアソラへ」をテーマとしたプログラムを披露する。そこで今回は、「3人のソリストが三角の点となり、大きな三角を音楽で作っていけたらと思い命名」されたという「トリニティイズム」にかける想いやメンバーの印象、プーランクやピアソラの音楽の魅力について、じっくりと話を聞いた。


――まずは「トリニティイズム」結成のきっかけから伺います。三浦さんは今年2月に成田達輝さん、ロー磨秀さんとともに、泉佐野市文化会館でコンサートとアウトリーチをされていましたね。最初にこのメンバーで演奏されたのはいつだったのですか?

一昨年、2022年11月12日の扶桑文化会館での演奏会が最初です。泉佐野市での公演と同じく、お世話になっている公益財団法人三井住友海上文化財団のコンサートでした。当初はトリオを結成するにいたるとは思っていなかったのですが、そのときに、初共演ながらもう何十年も前から一緒に弾いていたような空気を感じたのです。まさに意気投合したという感じでした。3人とも年齢が近いのも大きかったですね。3人でただ話しているときでも、やはり近しいものを感じると言いますか。そういった時間も絶対に音楽に関係してくると思うのです。私は業界に入ったばかりの頃から年上のアーティストの皆さんと共演させていただく機会が多かったですし、音楽大学に通ったわけでもないので、とても新鮮でした。


――当時はまだユニット名もつけられていなかったのですね

そうなんです。以前から「ユニット名があるといいよね」という話はしていて、しばらく皆で考えていました。やはり「3人」というのが大きなテーマなので「3」にまつわる象徴的な言葉がないかなと考えたところ、「トリニティ」という言葉にたどりつきました。誰かがメインというわけではなく、3つの点が等しく大事だという意味において相応しいと思ったのです。楽器も、それぞれが持つ音楽性も、バックボーンも全部違う3人ですが、それを掛け合わせていきたいという想いも込められています。


――共演されるおふたりの印象はいかがですか?三浦さんの公式Instagramのインタビュー動画で、例えば成田さんについては「オールドの香り」、巨匠時代の音が今に生きている点にしびれたと仰っていましたね

ヴァイオリニストは本当にたくさんいるわけですが、「個性」を持った演奏をするのはすごく難しいことなのだろうと感じています。これはどんな楽器でもそうなのですが、やはり名だたる巨匠たちはそうした「個性」を持っているんですよね。目をつぶって聴いていてもわかる、そのひとならではの「音」があるんです。成田さんも確固たるキャラクターを持っているという意味では、間違いなくそうした音楽家のひとりだと思います。最初に共演したときにもう「この音はしびれる、自分が演奏するときにも成田達輝の音が欲しい」と感じたんです。彼を見ているといつも、すごく自由で、おおらかで、生きていることの一部として音楽をしているのだなと感じます。まさに「生まれながらの音楽家」という感じですね。


――ロー磨秀さんについてはいかがですか?

磨秀さんはクラシックのピアニストとしてだけでなく、シンガーソングライターという肩書きも持っていますが、とても「今の時代に必要とされている音楽家」だという印象を受けます。非常に博識で、伝統に即したクラシカルな音作りも、あるいは現代音楽も、色々なものをこなすことができるマルチな才能の持ち主だと思いますし、大変な努力家だと感じています。
彼がピアノを奏でると、何を弾いてもちゃんと「本物」に聞こえるのですよね。クラシックでも現代曲でもポップスでも、あるいはタンゴでも。リハーサルでは、最初こそ色々と彼なりに試行錯誤するのですが、最終的には必ず「そうそう、その音欲しかったんだ、それだよ」というところにちゃんと持ってくる。その嗅覚やバランス感覚がもうピカイチですよね。さすがだと思います。


――そんなおふたりと共演される今回の公演も大変楽しみです。三浦さんのInstagramには泉佐野市での公演のリハーサル映像もアップされていましたね。プーランクの《城への招待》はもともと瀟洒な作品ですが、バンドネオンで演奏すると原曲の編成とはまた一味違った、得も言われぬ「なつかしさ」のようなものも感じられて、とてもすてきだなと感じました

《城への招待》は本当に魅力的なものがいっぱいに詰まった作品ですね。「なつかしさ」を感じたと言っていただけたのはすごく嬉しいです。こういった作品をバンドネオンで演奏するひとは少ないと思うのですが、でも、バンドネオンは決してタンゴ専用の楽器ではないと思っているんです。もっと色々な作品を演奏していいはずだ、と。
プーランク作品を演奏していると、よくここまで「人間の感情」を音にできたな、と感じます。人間生きていれば色々なことがありますが、その時々に抱いた「感情」がそのまま音になったような……。演奏していてこんなに「生きていてよかった」と思える曲もなかなかないですね。はじめはピアソラ作品にそういったものを感じていたのですが、プーランクの《城への招待》にも、世界にはこんなに素晴らしい音楽があるんだ、と感じさせられました。


――今回共演されるおふたりはフランスで学ばれていますから、プーランク作品ではその持ち味が存分に発揮されそうですね

仰る通りで、本当に心強い限りですね。色々と教えてもらうことも多いです。ふたりと演奏していると、思わず「そんなものを隠し持っていたんですね」と驚いてしまうようなことがたくさんあるのですよね。リハーサルやゲネプロはもちろん、本番でも。前回もリハーサルを含めて9時間、驚きの連続でした。そうした驚きに満ちたかけがえのない時間をお客様と共有できるのは、本当に嬉しいことですね。


――今回の公演ではピアソラの《ブエノスアイレスの冬》と《アディオス・ノニーノ》の演奏も予定されています

いずれも燦然と輝くピアソラの代表曲で、もちろんオリジナルのキンテート(五重奏)編成版は決して外すことのできない、定番中の定番です。でも、ヴァイオリン、ピアノ、バンドネオンというトリオによる「室内楽」的なピアソラもまた面白いと思うのです。クラシカルなアプローチをとりながらも、本家本元のピアソラらしい魅力も欠かさない、両者がバランスよくブレンドされた演奏にしたいと思っています。
ヨーヨー・マやギドン・クレーメルといったクラシックの世界でピアソラを広めた巨匠たちの演奏について、「あれはピアソラじゃない」「タンゴじゃない」と言う方も世の中にはいますが、私はそうは思いません。ピアソラ作品は今やこれだけ世界中で演奏されていて、きっと今この瞬間もどこかの会場で鳴り響いているはずです。ですから、こうして色々なかたちで広がっていくのは歓迎すべきことだと思います。その中で、もしバンドとはまた違った魅力を持っているものがあれば今度はそれを逆輸入して、ということを続けていけば、さらに世界が広がっていくと信じています。
今回のトリオもそれと同じで、ふたりの意見ももらいつつ音楽をつくりあげています。編曲自体は私が一通り書いているのですが、そこはもう本当に柔軟なふたりですから「譜面ではこうなっているけれど、こう弾いたらどう?」と訊いてくれたり。その意味でも、このトリオでのピアソラは楽しみですね。


――あらためて、三浦さんが考えるピアソラ作品の魅力についてお聞かせいただけますか?

ピアソラの音楽には、聴くひとの心の奥底、その深いところまで入り込んで、自分でも気づかないうちに強く訴えかけてくるようなところがあると思います。あるいは、本能に直接訴えかけてくるような、と言いますか。ですから、CDなどもよいのですが、そうした感覚はやはり生演奏で、会場の余韻なども含めて体感していただけたら嬉しいです。ピアソラの音楽には気をつけないと抜け出せなくなってしまうような中毒性があると思うのですが、そうした「沼」にぜひハマりに来てほしいですね。私ももう20年以上ピアソラを弾いていて、まわりのひとからも「よく飽きないね」と言われるのですが、それでもコンサートで散々演奏した帰りの車で、もうピアソラを聴いているくらいですから(笑)。
これはいつも思っていることなのですが、バンドネオンという楽器を弾いていて、色々な方と色々な編成で公演や音楽活動ができているのはすごくありがたい、幸せなことだと感じています。《アディオス・ノニーノ》も、ソロからオーケストラ編成にいたるまで色々な版で弾いてきました。そんな中でまたひとつ、「トリニティイズム」というトリオを自分が出せるカードの1枚として提示して、同じ曲であってもまた異なったかたちで皆さんと共有できることを大変嬉しく思っています。新たに誕生したトリオをどうぞご贔屓に、よろしくお願いいたします!



取材・文/本田裕暉



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