クラシック

【インタビュー】ヴァイオリン:成田達輝/Best of Tchaikovsky チャイコ名曲決定版!!

チャイコ名曲決定版!!

ヴァイオリン:成田達輝

ザ・シンフォニーホールで5月13日に開催される「Best of チャイコフスキー」では、飯森範親&日本センチュリー交響楽団によってオール・チャイコフスキー・プログラムが演奏される。ヴァイオリン協奏曲を弾く成田達輝は、ロン=ティボー国際コンクール(2010)やエリザベート王妃国際音楽コンクール(2012)で第2位に入賞するなど早くから注目されてきた実力派。30歳を超え、ますます充実した活動を続けている。


――まず、成田さんはチャイコフスキーをどういう作曲家だと思いますか?

チャイコフスキーは、ヨーロッパ音楽との整合性を図って、ヨーロッパで評価されたいと思っていました。つまり、チャイコフスキーは、ヨーロッパ的なスキルを身につけて、ヨーロッパ的な書法で書き、その上にロシアの民族的な要素を載せました。彼の音楽は、ヨーロッパ的な体にロシアの心が入っているのです。

チャイコフスキーというと、イギリスのケン・ラッセル監督による伝記映画(「恋人たちの曲悲愴」)が衝撃的でした。誇張もありますが、切り込んでチャイコフスキーの人生のドラマを描いています。それから、ロシアの演出家スタニスラフスキー(注:スタニスラフスキー・システムという演技のメソッドで知られる)が書いた本でのチャイコフスキーの人物像がすごく面白かったですねー。

チャイコフスキーの作品で、ヴァイオリンが活躍する曲としては、ヴァイオリン協奏曲のほかに、ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出」、「懐かしい土地の思い出」(「メディテーション」、「スケルツォ」、「メロディ」)、「ワルツ・スケルツォ」などがありますね。


――チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲にはどのようなイメージを持っていますか?

とにかく難しいですね、体力的に。特に第1楽章が大変です。独奏ヴァイオリンが全部を背負い込んで、テンションを保ちながら運んでいかなければなりません。独奏ヴァイオリンは休みなくずっと弾いています。一方、第3楽章はテンポよくいけて、緩急をつけて、楽しく弾けますね。


――作品としての魅力はどこにありますか?

まず、第1楽章のドイツ・ロマン派的な深淵なところでしょうか。チャイコフスキーのより芸術性の深いものにしようという取り組みが尋常ではありません。第1楽章には底知れない深さがあります。そして、第2楽章の歌心、第3楽章のトレパック(注:ロシアの民族的な踊り)の速くて楽しい快活なリズムですね。
やっぱりいい曲ですよね。第1楽章の独奏ヴァイオリンの出だしのメロディ(28小節目)、最初がシンコペーションですよ。次の小節はそうではない。リズム的にもよく考えられています。


――今回は、飯森範親さん指揮の日本センチュリー交響楽団との共演ですね。

飯森さんとは17、18歳のときから共演しています。コンチェルトのときは、職人的な腕前で、ぴったりとソリストにつけてくださるという印象があります。
日本センチュリー交響楽団とは、以前もチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を共演しました(2017年11月)。アラン・ブリバエフさんの指揮でしたが、リハーサルも含めて、すごく面白かったのを覚えています。


――成田さんのロシアとのつながりについて教えていただけますか?

札幌に住んでいた頃、小学校3年生からジュニア・オーケストラで弾いていました。最初はセカンド・ヴァイオリンの一番後ろで、ホルンとフルートの音を浴びながら、オーケストラのサウンドの中で育ちました。

小学校5、6年生のときに、ジュニア・オーケストラでショスタコーヴィチの交響曲第5番を演奏することになり、ロシア音楽をもっと知りたいと思って、誕生日のプレゼントにレニングラード・フィルが演奏する10枚組のショスタコーヴィチの交響曲全集のCDを買ってもらい、一日中聴いていました。そして、そのCDについている解説書が全部ロシア語だったので、それを解読するために、ロシア語を勉強しました。でもあまりにたいへんで挫折しました(笑)。

あと、北海道内の空港で、ロシア語表記を見たりしていたので、キリル文字も遠い存在ではないと思っていました。
ですから、小学校5、6年の頃からロシアの音楽に自然に入っていけました。
個人的には、自分自身のヴァイオリン演奏がなぜかわからないけどロシア的な感じがします。メロディに全部が含まれているようなところが。

たとえば、泉鏡花や谷崎潤一郎の作品を翻訳してもその日本情緒は伝わらないじゃないですか。それと同じようにロシア文学も翻訳ではわからない部分があります。でも音楽では最終的に演奏で接点が得られます。

私は、ロシア人演奏家と弾くとすごく共感します。ロシア人は音楽を直観的にとらえますよね。かつて、チャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」を演奏したとき、第1ヴァイオリンが韓国人で、第2ヴァイオリンが私で、ヴィオラの2人がロシア人で、チェロがオランダ人とドイツ人でした。リハーサル中、解釈としてこの部分は何を表すかのを話し合っていたとき、ロシア人がひたすら「これは戦争を表す」と言い、それに対してドイツ人は解せなくて、「何で戦争なんだ?」と訊くと、ロシア人は「これは戦争なんだ」と言い張る、みたいなことがありました。

ロシア人の一つの考えに結び付けるやり方は直観的で、ヨーロッパ的な解釈では幼稚で洗練されてないようにみえますが、ロシア音楽ではそういう直観的な捉え方が大切なのです。


――最後にこのコンサートに向けてメッセージをお願いいたします。

今は音楽がサブスクになって価値を失いつつありますが、是非コンサートホールに来て、生の音を浴びてほしいです。そして、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のような古典的な名曲が素晴らしいことを理解してもらって、良いものは時代に関係ないということを知ってほしいですね。

私はいつも、人の心に残り続けるものを作りたいという一心で演奏に取り組んでいますが、それに磨きをかけるのが自分の30代の目標だと思っています。これからも、常に芸術的な活動をしていきたいと思っています。



インタビュー・文/山田治生






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