【インタビュー】幸田浩子│美しき日本のうた「秋」2022
【インタビュー】幸田浩子
大阪のザ・シンフォニーホールで毎年開催されている『美しき日本のうた』。 2020年から始まり、今年で3年目を迎える。
毎年10月に開催される “秋” バージョンは日本を代表するソプラノ幸田浩子がピアニストの藤満健とともに多彩なレパートリーとその舞台姿で客席を魅了し続けている。今年は10月9日(日)に開催。今年のコンサートに駆ける思いやラインナップについて幸田本人に聴いた。
客席と共鳴する喜びを感じて
――『美しき日本のうた 秋』シリーズも今年で3年目となるわけですが、今回のラインナップも一目で秋の情景を感じせてくれます。
プログラムを構成しながら、「秋にちなんだ歌曲って、こんなにたくさんあるんだ」と改めて感じました。今回は３回目だからこそ新たな喜びもお客様と一緒に楽しみたいですし、やはり「秋って、この曲が聴きたくなりますよね～」という定番の曲もラインナップに入れたいな、と思いを巡らせながらプログラミングしてみました。
――幸田さんは伊・独語のオペラをはじめ、オペレッタやリート・オラトリオなど、あらゆるレパートリーを歌われるわけですが、「日本の歌」のすばらしさや美点というものは、どのような点にあると感じていますか？
私は歌っている時、それがどんなレパートリーであれ、私自身も客席にいるお客様とともに共鳴しているんです。なので、イタリアオペラの作品であっても、それがドイツのものであっても、たとえ宗教曲であったとしても、歌うことや作品への思い、そして、歌唱法なども決して変わることはないと感じています。
一つだけ言えることは、例えばオペラ『椿姫』のヴィオレッタのアリアをわ～っと歌っている際に、客席で一緒に歌ってらっしゃる方はほとんど見当たらないのですが、やはり日本語の歌ですと、詩の世界、音楽の世界、それぞれに皆さんが入り込んでいらっしゃる様子がたまらなく愛おしく感じられます。まるで身体を通り抜けているように一つの音楽、一つの詩に皆さんが同調していらっしゃる様子です。
――ステージ上で歌っている幸田さんとしても嬉しいことですよね
とてもとても嬉しいですね。実際にメロディや詩を感じながら歌っていると、客席の皆様とも、クレッシェンドのように段々とお互いの中で共感が高まってゆくのが感じられるんです。
我が故郷の思いに導かれてステージへ
――大阪ご出身の幸田さんにとって、ザ・シンフォニーホールで歌われるのは、よりいっそうの思い入れがあるのではないでしょうか？
大阪で歌う際は、まさに “ふるさとに戻る” という感覚です。いつも「皆さん、ただいま～」という気持ちで舞台に出ていきます（笑）。
――大阪の聴衆は他の地域よりもリアクションが率直な印象がありますが、いかがでしょう？
はい！「客席の全員がお友達同士なんですか？」と思えるくらい皆さん本番前から良い意味で、口々にザワザワと高揚しながら、華やいだ気分で本番を心待ちにして下さっている様子が舞台袖にいても伝わってくるんです。それだけで「ただいま～」と言いたくなるくらいです。
――音響空間としてはいかがですか？
このコンサートシリーズをさせて頂くまでは、ザ・シンフォニーホールのコンサートホールではオーケストラ・コンサートのゲスト出演でしか歌ったことがなかったんです。なので「歌を歌うための空間」として本当に実感したのはこのコンサートシリーズが初めてでした。
「こんなに音がす～っと後ろの方まで美しく響き渡るんだ」ということをとても感じましたね。広いというより、やさしい響きに包まれるという感覚でとても歌いやすいんです。ちょうど横側の客席の高さとステージの高さが同じになっていて、何となく客席と一体化した気分が味わえるのも大好きです。
ちなみに、ザ・シンフォニーホールのコンサートホールは舞台袖が素晴らしいんです！ありとあらゆる音楽家たちのサインや写真が飾られていて、彼らのエネルギーに一緒に満たされるような感覚になれるのも嬉しいことですね。
一期一会の楽しみ！ピアノソロによるオリジナルメドレー
――プログラム最後に近いところで、伴奏者である藤満さんが ≪美しき日本のうた2022≫ というタイトルの自作品のメドレーをピアノソロで演奏しますね
はい、当日の演奏会本番の流れを受けて、その瞬間までの時を経た中で、その日の、その瞬間ならではの組み合わせとバリエーションでメドレー演奏して下さると思います。即興的な要素も凝縮されていますので、実際、本番のステージでメドレーにたどり着くその時点までの時の流れを経ないと何が起こるかわからないんです！私自身もとても楽しみにしています。
――現在発表されている曲目のラインナップの最後に「ほか」と書かれていますが、例えば、今年もオペラ『竹取物語』のアリアなど期待できそうですか？
昨年は “月” にまつわるというテーマで演奏させて頂いて、後半でオペラ『竹取物語』のアリアも歌わせて頂いたのですが、今回は月というよりは「空…」？ 例えば、最後に ≪見上げてごらん夜の星を≫ でまとまるように「青い空や夕空を見たらまたこの時のコンサートのことを思い出して、たくさんの歌を口ずさんで下さったらいいな…」という思いを込められたらと考えています。
うーん、あるいは「日本の美しい四季や自然は、やはりいいよね～」と思って頂けるような山とか花…というような趣向になるかもしれません…。
――なかなか広いヒントですね。では、当日のお楽しみということで？
そうですね。私自身の中では「やはり私ってマニアックなんだな」と密かに思ったりもしています。どうしても、そういうものも入れたくなってしまうタイプなんです（笑）。そんな時は「この曲聴いたこと無いけれど、いい曲ね」と思って頂けたら嬉しいですね。
――では、最後にファンの皆さんへのメッセージをお願いします
今年も 『美しき日本のうた 秋』のシーズンがやって参りました。こうやってザ・シンフォニーホールに帰って来られるのを毎年とっても、とっても嬉しく思っています。愛おしい日本の歌を、ぜひより多くの方々に楽しんで頂けますよう心から願っています。
取材・文：朝岡久美子
