クラシック

上原彩子 プレミアム・リサイタル

上原彩子 ピアノ・リサイタル

©武藤章

【インタビュー】上原彩子

ピアニストとしてデビュー20周年を迎える上原彩子が、開館40周年を迎えるザ・シンフォニーホールでのプレミアム・リサイタルを開催。シューマン、リスト、ムソルグスキーといった作曲家の名曲を紡いでいく、贅沢なリサイタルとなっている。上原はどのような想いを込めて、鍵盤を奏でるのか。話を聞いた。


――ピアニストとしてデビューしてから20年というアニバーサリーイヤーとなりました。今はどんな心境でいらっしゃいますか?

ずっとピアノというひとつのことをやらせていただいていて、20年のうちの1回1回のコンサートや指揮者の方との出会い、1つ1つの積み重ねは自分でもすごく実感しています。一足飛びに20年が経ったという感じではなく、少しずつ積み重ねて今に至る20年でした。行きつ、戻りつですね。


――2002年にチャイコフスキー国際コンクールで1位になれられたことは、ピアニストとして大きなきっかけになったかと思います。日本人としても女性としても初の快挙となりましたが、当時の思い出をお聞かせください

予選はすごく緊張していて、まぁまぁ位の手ごたえでした。ただ本選の演奏は、オーケストラとのリハーサルがあったのでかなり落ち着いて弾くことができましたし、その本戦での演奏が1番楽しかったので、それが結果につながったのだと思います。そのタイミングで自分がそういう状態になれたことは、すごく運がよかったんだなと思いますね。本選での時間は、今でも思い出すことがあるくらい、楽しかった時間として印象に残っています。

ですが、コンクールを受ける前は、コンクールまでにはもっと自分が上手くなっているだろう、って思っていたんですよ。でも、別に思ったほど上手くはなっていなくて(笑)。あのコンクールの後、たくさんの舞台で演奏させていただく中で、家で一人で練習しているのでは見えてこなかった曲に対する視点や、音の感覚、他の音楽家から音楽を通して直に学べることの素晴らしさを感じて、毎回のコンサートでそれまでにないぐらいの学びを得られました。


――あれほど大きな評価を得ても、まだまだ上手くなりたいというお気持ちでいらしたんですね。今回のコンサートは、上原さんのデビュー20周年とザ・シンフォニーホール開館40周年のアニバーサリーと重ねたプレミアム・リサイタルとなっています。ザ・シンフォニーホールでの思い出や印象はありますか?

シンフォニーホールではこれまでにも演奏をさせていただいてきましたが、お客様がたくさん入るホールなのに、舞台に立っていて、その広さをあまり感じさせないというか…例えば、一番後ろの客席が遠い印象だと、響きもすごく遠いところまで届かせなきゃいけない、と思ってしまうのですが、自然な響きが後ろまで行って舞台に返ってくるんですね。大きなホールなんですけど、ちゃんと自分で掌握できる。たくさんの人に聴いていただいているけれども、そのすべての人に自然にお届けできている印象がありますね。


――このようなリサイタルの形で演奏をされるのは少し久しぶりとお聞きしました。楽しみにしているところはありますか?

そうですね。ムソルグスキーに関しては、今までたくさんのホールで演奏してきた曲なので、私にとっては馴染んでいる楽曲です。ただ、リストに関しては大きなホールでは演奏したことがなく、小さい規模のホールでしか弾いたことがないんです。この曲はスケール感も大きいので、大きなホールで弾いたときに普段弾いている感覚とは絶対に違うと思うんですね。違う良さがたくさん出てくると思うので、自分でもそこは楽しみにしています。シューマンは、大好きな作曲家で、ここ数年様々な曲を弾き続けていますが、幻想小曲集は最近取り組み始めた作品で、小さな曲が8曲集まっている組曲ではあるんですが、1つ1つを聴いていただくというよりも、全体として夢の中にいるような、夢の中でいろいろなシーンが登場するような、そういう繋がりを感じられる曲だと私は感じています。なんとなくパステルカラーで、すべてがはっきりしているわけじゃないんだけど、目が覚めたあとに「いい夢だったな」とイメージが浮かぶような。そんなイメージで演奏したいと思います。


――アニバーサリーなプレミアム・リサイタルということで、選曲にもその想いはあるのでしょうか?

やはり私にとってもザ・シンフォニーホールでリサイタルをさせていただけるのは特別なこと。なので、ホールならでは、という視点で選んでいます。小さなホールでも迫力があってその良さはあると思うんですが、やっぱり大きなホールで聴いたときにより鮮やかさを増すようなところはある。ザ・シンフォニーホールでリサイタルをさせていただけるのであれば、挑戦したい。そういう想いで選曲しました。


――ピアノを演奏するために、普段から意識していることはなんでしょうか?

やっぱり、あまり元気ではないときのピアノはあまりよくないんですよ。別に運動選手ほどのことをする必要はないのですが、自分が出したいことに体が反応してくれるということはものすごく大事なんですね。そのためにも、ちょっと走ったりとか、体を動かしたりということはしています。特にコンサート前は気を付けていますね。


――ピアノを弾く時間だけじゃなく、ピアノを弾くまでの時間でどうコンディションを整えるか、ということなんですね。少ない時間で集中して練習しないといけないようなこともあるかと思いますが、集中するコツはありますか?

時間が少ない時は、練習するまでに今日は何をどう練習するのかをある程度イメージしておくことが大事ですね。でも、なんとなく時間が過ぎてしまうような練習がダメという訳でもないんですよ。何も考えず、決めずに練習して弾いていると新しい発想ができることもあります。


――現在、東京藝術大学の早期教育リサーチセンターにて、これからの世代の育成にも力を入れていらっしゃいます。そんな世代にメッセージを贈るとすればどんな言葉になりますか?

私も教え始めて4~5年ですからまだまだ経験は浅いんですけれども、教えていて感じるのは、やはりピアノは相当に難しい楽器だということですね。音も多いし、メロディーも伴奏も、何もかも1人でやらないといけない。本当に弾きこなすのが難しい楽器だと思います。なので、目の前の結果だけじゃなく、もっと長い目で自分が成長していくことを考えながら勉強するのが一番大事だと思いますね。ピアノを学ぶことは、楽しいことばかりではありません。壁にぶち当たることの方が多いのですが、そういう時に助けになるのも私たちが相手にしている音楽なんです。音楽の力を感じてもらえると、すごく楽しく勉強できるのではないかと思います。


――ピアニストとして、30年、40年とこれからも演奏されると思います。今後挑戦したいことや叶えたい夢はありますか?

コンクールからしばらくはヨーロッパなどに行かせていただいていましたが、その後は家庭もできまして、基本的に日本でずっと活動してきました。もちろん、日本での生活も楽しみながら過ごしてきましたが、子どもも大きくなってきましたし、また海外に行けるチャンスがあれば、という夢はありますね。

ピアノを人前で弾くことって、ただ聴いていただくだけではなくて、そこにいらっしゃるお客様のエネルギーのようなものを受け取る部分がものすごくあるんですよ。それはやはり、雰囲気や香りなど、その場所ごとに違いがあるんですね。その違うものを私たちは受け取りながら演奏している感覚があって、違う場所で弾くとやっぱり違うインスピレーションが湧くこともあるんです。またそれを感じられる機会があればと思いますね。


――ひとつの節目となるプレミアム・リサイタルを楽しみにしていらっしゃるファンに、最後にメッセージをお願いします

ザ・シンフォニーホールとプレミアムな年が重なったということで、本当にこれまでもザ・シンフォニーホールでたくさんの経験をさせていただいてきました。そのことを誇りに思いますし、このようなリサイタルができることを心から幸せに感じています。大阪の皆さんには、コンチェルトなどでたくさんのコンサートを聴いていただいているかと思いますが、ソロだとまた違う面を感じていただけると思います。オーケストラとの演奏では、華やかさや鮮やかさを感じていただけると思いますが、ソロリサイタルでは、音楽のより内面的な部分が見えてくると思います。ぜひお楽しみいただければと思っております。



インタビュー・文/宮崎新之

上原彩子 ピアノ・リサイタル

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