クラシック

【インタビュー】細川千尋|7STAR ARTISTS in 浜離宮朝日ホール 細川千尋ピアノトリオ プレイズ・スタンダード・ジャズ

【インタビュー】細川千尋|7STAR ARTISTS in 浜離宮朝日ホール 細川千尋ピアノトリオ プレイズ・スタンダード・ジャズ ©Kentaro Miyazaki

細川千尋

クラシックの素養を持ちながらジャズの世界に飛び込み、現在は国内外で活躍を続けているジャズ・ピアニストの細川千尋。クラシックとジャズのクロスオーバーなどを演奏してきた彼女だが、今回のステージでは、スタンダード・ジャズに真っ向から取り組むことを決めた。その胸中はどのようなものなのだろうか。話を聞いた。


――浜離宮でのコンサートは2017年12月以来になりますね。

そうですね。その公演がちょうどデビュー公演だったので、すごく思い出深いホールです。緊張して舞台に立ったなと。あれから4年くらい経ちましたね。今まで主としてやっていたシリーズはクラシック×ジャズだったので、クラシックな響きを使って引き出したいという部分にすごくバッチリとはまった記憶があります。ジャズはクラブとかで弾くことも多いのですが、また違った響きになるのが面白かったですね。


――コロナ禍でなかなか思うように活動ができなかった期間もあったかと思います。今回のステージも久しぶりになりますね。

確かに、東京での演奏が久しぶりです。昨年1月末に紀尾井ホールで公演させていただいたんですが、その直後にコロナ禍の影響が大きくなってきたので…久々に東京で演奏です。


――海外での演奏経験もありますが、場所によってオーディエンスの違いを感じることはありますか?

海外に限らず、日本でも土地によって違いは感じます。私の地元の富山だと、割とみなさん真面目に座って聴いてくださる感じで、目立った反応は無かったりするんですけど、感想を聞いてみると実はものすごく心で聴いていてくださっているんですね。それが大阪の方だと、すぐにイェイ! と反応をしてくださる方が多かったりします。海外の方はすごく正直な反応を下さる方が多い印象ですね。


――今回のステージは、公演タイトルからスタンダード・ジャズに触れていくのかなと思いますが、どのようなステージにするのでしょうか。

今まで、私はクラシック×ジャズというのをホールで演奏することをシリーズとしてやっていたんですが、今回は今一度、私の好きなジャズ・ナンバーをやりたいと思っています。私はスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバル・ソロ・ピアノ・コンペティションでファイナリストになることができたんですが、実はその時に初めてステージでジャズを演奏したくらいの感じだったんです。本当に遊びで友達とセッションしていたのを、ジャズ科の先生が見てくださっていて「これを受けてみたら」と言ってくださったんです。なので、その時はまだ自分がどのジャンルでやっていくのか、自分の中でしっかり決まっていない状態のまま、進んでいった感覚でした。自分はジャズ・ピアニストと名乗るのか、ただのピアニストなのか、一体何なのか。そういう状態だったんです。大学はクラシックだったんですが、ジャズがすごく好きでハマったのですが、今回は私が大好きなジャズ・スタンダード・ナンバーを、改めて自分を通して表現したいです。


――選曲も、ご自身の好みが反映されているんですね。

とにかく、私の好きなものしか入っていません(笑)。「この曲、めっちゃ聴いていたな」とか…けっこう激し目の曲が多い感じがします(笑)。今までスタンダード・ジャズを演奏する機会があったときでも、案外やってこなかった曲を選曲しました。すごく好きなんですけど、これまではちょっと違うジャンルのことをやっていたので、改めて王道と呼ばれるところを弾きたいんです。お客さんにとっても、ジャズがお好きな方ならきっとご存知の楽曲ばかり。それを私がどう表現するのか、それを聴いていただきたいなと思います。


――そもそも、ピアノをはじめられたきっかけはなんだったんでしょうか。

私は母がピアノの先生で、2歳ごろからレッスンには通い始めました。家にピアノがあったので、ほかのおもちゃでは全然遊ばなくて、ずっとピアノばっかり弾いていたそうです。それで、即興というか……その当時はただ、ワチャワチャと弾いていただけなんですけど、それを母が楽譜にしてくれていたんですね。「これが今の気分ね」って感じで弾く、みたいなやりとりをしていました。でも、習っていたのはクラシック。そこから、クラシック・ピアノはずっと続けていました。


――弾き方を覚えるのが先ではなく、気持ちをピアノで表現することのほうを先に学んでいた感じなんですね。

とにかくピアノが好きで触っている感じだったので、そうだったのかも知れないですね。


――その後、大学もクラシックで進学されますが、ジャズとの出会いはどのような形でしたか?

大学に通っているとき、大学内にジャズコースができたんです。そこで仲間に出会って、ジャズコースの子たちとセッションするようになったのがきっかけです。クラシックだと、例えば「ここのハーモニー、この響きでも綺麗だな」なんて思っても楽譜に書いてある音を忠実に奏でる世界。一方ジャズだと、そういうところを自由に変えていける。いろんな響きをその時その時選んで、音楽を創っていく。私、先の予定を決めるのが苦手で、その時にやりたいこと直感で選ぶタイプなんですけど、ジャズはまさにそれなんです。音楽の世界で、ジャズは直感で選んでいくものの頂点だと感じていて、自分としても合ってるなとその時から思ってはいました。


――そこから、先ほどのスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルにつながるんですね。

そうです。そこをきっかけに、コンサートのお仕事をいただくようになりました。ジャズをやっていくのか、自分で決める前にどんどん進んでいった感じでしたが、自分の決意が固まったのはまさにステージの上。ステージでひとりで弾いていて、そのときの空気を感じて「あっ、ジャズ・ピアニストになろう」と思いましたね。何か、肌で感じたんだと思います。


――それくらい、ステージの上で演奏するジャズの世界が自分にフィットしていたんですね。

でも、ステージに上がるまではずっと緊張しています。今でも。楽しみになってくるのは、ステージに上がる何分か前くらいの感じですね。上がってしまえば緊張はほぐれるんですけど、それまではガチガチに緊張します。コンサートの1週間前くらいからステージに立っていること以外は考えられなくなってきて、他のことができなくなるので、ずっと緊張状態なんだと思います(笑)。弾き始めるときの息遣いとか、そんなことばかり考えてしまいます。


――そんなに前からもう、フォーカスがステージに合ってしまうんですね。ステージ上の細川さんは、楽曲によって音の表情の振れ幅が大きくて、聴きごたえがある気がします。

そういうお声をいただくことは多いです。でも、人間の中にはいろいろな性格がいるじゃないですか。コンチクショウ! って思う時もあれば、キレイだな、カワイイなっておだやかな気持ちの時もある。それがひとつのステージの中に出てくるので、いろんな性格が出ているように見えるんだと思います。


――自由に弾けているようで、ピアノの特性を十二分に発揮している音を放つのは、やはりクラシックでピアノという楽器をよく理解されているからのような気がします。逆に、ジャズの難しさはどのようなものがあると思いますか。

難しさ、ですか……。考えたこと無かったかもしれません。難しさとは違うかもしれませんが、ある意味、その時の気分が200%反映されるので、メンタルの持っていき方にそういう部分はあるかも。ずっと暗いコンサートはイヤじゃないですか? やっぱり、私は楽しい時間にしたいので、そうなるためにも自分は前向きに明るく。そうしていれば、自然と演奏に繋がってくると思っています。


――今後、音楽を通して伝えていきたいことは?

コロナ禍があって、私たちも若干の制限をされていて、いろいろなことが変わったと思います。それでも、やっぱり音楽が聴きたいな、とか思うことがあるじゃないですか。誰かのプラスになれるようなものを、ひとりでも多くの人に伝えていきたいですし、私がその時に思ったことを曲にしていきたい。とにかく、続けていきたいですね。すっごいおばあちゃんがピアノ弾いてるぞ、みたいな見え方になってくると思うんですけど、それでも幸せなことや楽しいこと、一緒に涙が流せること……そういう人のつながりをずっと持ち続けたい。人のつながりってすごく大事だったんだな、と最近特に気付いたので、それをずっと続けていきたいですね。


――では、具体的に何かチャレンジしてみたいことはありますか?

私はジャズ・ピアニストですが、素晴らしいクラシックの方と譜面のあるものでご一緒してみたいですね。そこで、私だからこそ書けるというものにチャレンジしてみたいです。あくまでジャズ・ピアニストとして、ですけどね。私、世の中で一番尊敬しているのは、クラシックのピアニストなんです。同じ曲を何回でも弾くって、とてつもない練習量が必要だし、弾くために楽譜を読み解いていくわけじゃないですか。それってすごく面白いことなんですよね。楽譜があることで、いろんな人がその曲を通ることができる。それってすごく素敵なことで、私にとっては憧れでもあるんです。


――クラシックを続けてきた経験があるからこそその難しさもわかる。そんな細川さんが、ジャズに出会って今があるからこそ、細川さんならではの音が生まれてくる気がします。最後に、今回のステージを楽しみにしている方にメッセージをお願いします!

私はジャズ・ピアニストと名乗ってはいるんですけど、スタンダード・ジャズのセレクトは私にとっては新しい試みです。今まで聞きに来てくださっている方には、新鮮な感じに思ってくださるんじゃないかな。楽しい曲たちが揃っていますし、楽しいコンサートになると思います。1曲、1曲と向き合って、編曲していこうと思います! 今回は、ベースの井上陽介さん、ドラムのセバスティアン・カプテインさんと一緒に演奏するんですが、陽介さんのウォーキングベースが今からウキウキですし、いつもスマートなセバスティアンがどんなプレイをしてくださるかわくわく。私はこれから、1枚の譜面を作っていくわけですが、そこからお2人のエキスをいただいて、どんなスタンダード・ジャズになっていくのかが、自分としても楽しみにしています。私がスタンダード・ジャズに挑むところを見ていただき、楽しんでいただけたらと思います!




インタビュー・文/宮崎新之


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