1940年の初公開から80年の時を経て開催される「ファンタジア・コンサート2021」。「ファンタジア」は今尚イマジネーションの源泉のような作品であり、観る者に想像的構想力を湧き上がらせるし、90年代のディズニー・ルネッサンス期を経て制作された「ファンタジア2000」もまた、ウォルト・ディズニーの遺産がしっかりと息づいていることを現代的なアップデートによって証明して見せてくれた。
「ファンタジア・コンサート2021」、プログラムの曲目は各会場に登場するオーケストラがそれぞれ何十年という歴史の中で演奏してきた作品たちであり、私たちは眼前のオーケストラが奏でる生の楽音によって、その日、その時間でしか体験できない一期一会の「ファンタジア」と出会うことができる。
いよいよ来週開催する東京公演のマエストロ、栗田博文に「ファンタジア」に魅力を語ってもらった。
栗田「ファンタジア」は、小学生の頃、ワクワクして劇場で観たことを覚えています。私より上の世代の指揮者や作曲家の方々も影響を受けたと仰っていましたが、それも納得するくらい「映像とクラシック音楽がこれほどマッチするのか!」と思いました。
中でもやはり「魔法使いの弟子」。他のナンバーはアニメーターやクリエーターの手腕に唸らせられるようなものばかりでしたが、デュカスの作品はもともとストーリー性の高いもので、その音楽に逆らうことなくミッキーがあのように大活躍するのは面白かった!
今になって見返してみても、子供向けというよりは、クリエイターの独特な世界があり、まさしく「ファンタジア」ですね。
幼稚園から小学校に上がる頃にテレビが白黒からカラー映像に変わったんですよ。今まで白黒で観ていたものがカラーで観られるようになって、それでテレビが大好きになってしまって。映画館でも同じことが起こっていて、フィルムが総天然色になり、モノラルサウンドもステレオ効果で聴けるようになって、驚きました。
現代では更に映像も綺麗になり、サウンドも鮮明になった。しかも今回のコンサートは生のオーケストラによる演奏であり、非常にスリリングだと思います。
デュカス「魔法使いの弟子」より
80年も前にディズニーがクラシックとのコラボレーションを思い付いたということに驚かされます。そしてその提案に乗った指揮者のストコフスキー。当時のストコフスキーとフィラデルフィア管弦楽団と言えばアメリカでトップクラスでした。ストコフスキーが創る音楽は非常に個性的。映画を通じて、あの、ある種のクセがある音楽を体験してきた人たちをどう飽きさせずに聴かせるかというのは大きなポイントですね。
今回、東京公演は日本フィルハーモニー交響楽団が演奏しますが、ストコフスキーが来日した際に指揮をしたオーケストラなので、私個人としては歴史的な深い繋がりを感じ興奮しています。
(1965年7月、日本武道館での公演。ビートルズよりも1年早く、ストコフスキーは武道館に初めて出演した外国人音楽家であった)。
また、「ファンタジア2000」を指揮したジェームズ・レヴァインが今年3月に亡くなりました。追悼コンサートという訳ではありませんが、やはり、個人的に思い入れはありますね。
レヴァインの指揮はとてもスマートかつストレート。一方でストコフスキーは割り切れないような、個性的な演奏です。対照的なふたりの音楽の要素を上手く取り入れて、お客様に味わってもらいたいという強い想いがあります。
ご存知の通り、オーケストラという形態は非常に多くの楽器と演奏家を必要とします。これだけ多くの楽器が一斉に奏でられる/コラボレーションするというのは唯一無二であり、同じオーケストラが同じ演奏を再現できないくらい複雑な表現だと思います。
今回の公演で難しいところは、指揮者の判断力です。なるべく「ファンタジア」「ファンタジア2000」のオリジナルに近いように音楽を作っていくのか、或いは自分自身の意図を差し込んでいくのか、その判断が非常に難しい!
ストコフスキーやレヴァインの演奏を聴きながら映画を観てきた人が違和感を覚えないようにしたいのですが、オーケストラが自由度を保って、息苦しさを感じないように演奏できるポイントを見つけたいです。映像と音楽がリンクするポイントごとの着地点は合わせないといけないので、オーケストラの個性を見極めつつどう演奏するのかというのはドン・キホーテのような気分ですね。やってみないと分からない(笑)。でもトライするのは面白いですよ。
今回楽しみにしているのは、ピアノの清塚さんとの共演。「ファンタジア2000」には新しい要素としてピアノが入ってくるんですよね。通常のピアノ協奏曲はもちろん、オーケストラをピアノに合わせていくわけですが、今回は映像と合わせながらという制約される中での駆け引きになってくるので、とてもドキドキします。
左)ガーシュイン「ラプソディー・イン・ブルー」より
右)清塚信也(ナビゲーター&ピアノ)
「007」や「鬼滅の刃」のような、私がこれまでに指揮をしてきたコンサートは映画やドラマのための音楽なので、ある意味映像と合わせるポイントははっきりしています。ですが、クラシック音楽はスコアに確定されている中での自由度があり、そこを活かしながらタイミングを決めていかないといけない。楽しみでもあり怖いところでもあります。
願わくは、このコンサートで初めて「ファンタジア」を体験する人からこれまで何度となく観てきた人までが「今日来て良かった」と思ってもらえるコンサートにできればと思っています。
エルガー「威風堂々」より
今回は演奏されませんが、「ファンタジア」のナンバーのひとつである「春の祭典」を作曲したストラヴィンスキーは、1930年代にアメリカへと渡って来ます(本公演では「ファンタジア2000」に取り上げられたストラヴィンスキー作曲「火の鳥」を上映)。若い頃はディアギレフというバレエ界の名プロデューサーと数々の作品を作ってきたストラヴィンスキーですが、アメリカにはディズニーという名プロデューサーがいたわけですね。
アニメーションを土台としてクラシック音楽に取り組むという、この時代にそれを考えたのはやはりすごい。「ファンタジア」と前後して「白雪姫」「ピノキオ」「ダンボ」「バンビ」と黄金期を迎えつつ、多くの試行錯誤と挑戦があったことが見て取れます。その当時の想いをライブとして届けたいです。そこから更に「ファンタジア2000」、そして現代。ここからどうなっていくのか?という光が見えてくれば非常に面白いコンサートになると思います。
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