クラシック

【インタビュー】宮田大 チェロ・リサイタル2021

【インタビュー】宮田大 チェロ・リサイタル2021

チェリスト 宮田大

宮田大

 2021年の始まり、チェリストの宮田大がリサイタルを行う。共演は、福間洸太朗。響きが大好きだという紀尾井ホールで人気ピアニストと初共演するにあたり、ロシアものを中心に、世界をロマンティックな音楽で旅する作品を選んだ。


宮田「新年を祝うムードがあり、また2020年の大変さを一度リセットできる曲をと思い、グラズノフ「吟遊詩人の歌」で始めます。久々の演奏会だという方には、チェロならではの人の歌声のような音をまず浸み込ませていただけたら」


 続くリムスキー=コルサコフ「シェエラザード」より「アラビアン・ウェーブ・ファンタジー」は、宮田の依頼により山本清香がアレンジした楽曲で、世界初演となる。


宮田「コロナ禍の直前、ベトナム国立交響楽団と演奏して気に入ったので、チェロとピアノ版に改めて編曲していただきました。全楽章の“いいとこ取り”をした曲です。音楽のウェーブで、シェエラザードの世界に引き込みたいと思います」


 レスピーギ「リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲」も、チェリストの小林幸太郎による編曲作品。「弦楽合奏版のスケールとはまた違い、チェロとピアノならではの親密な世界観が魅力」だという。
 そして後半のメインが、ラフマニノフのチェロ・ソナタ。優れたピアニストだったラフマニノフらしく、ピアノも対等に活躍する作品だ。


宮田「福間さんは、共演はもちろん、ちゃんとお会いするのも初めて。ソリストとしても優れたピアニストです。甘いマスクの内側にどんな熱さや感性をお持ちなのか、また、ピアノ協奏曲第2番とほぼ同時期のチェロソナタで、どんな音楽的会話をさせてくれるのか、とにかく楽しみです」


 宮田はこの曲が、チェロソナタのなかでも一番好きなのだという。


宮田「4楽章に特に好きなところがあって、弾いていると自分でも感極まります。しかも毎回別のシーンが思い浮かぶ。広い大地や、山頂、朝や夜、夕暮れなど、見える景色が変わり、一期一会の感情が生まれるのです。それを聴く方に押しつけることなく、自分の歌として表現できたらと思います」


宮田大


 宮田は本番前、楽屋を一度暗くすることで、「色ののったパレットを一度洗った状態にして舞台に出る」という。


宮田「ラフマニノフのソナタは特に色彩豊かなので、まっさらな状態から、今日は何色をつけていこうかな?という感覚が合います。こうしようと決めていくと、全部後追いの音楽になってしまう。常に新しい表現を目指しています」


 このソナタは「チェロは少ない音で朗々と歌い上げる」ことが特徴だという。宮田ならではの歌う表現の秘訣はなんだろうか。


宮田「今音にしている小節の、次の小節の感情について考えていることでしょうか。そうやって先の音楽を考えることで、例えば嬉しい気持ちの表現も、褒められて嬉しいのか、傷ついた心が解放されて嬉しいのか、細やかなニュアンスの違いまで歌い分けられるのではないかなと思います」


 それでは、理想とするチェロの音とは?


宮田「“いい音”の中にも、たくさんの種類の音を持てるようでありたい。きれいな音を際立たせるためには、聴きづらい音を鳴らすことが必要なときもある。人生経験を増やすことで、いろいろな感情を持つ音色を増やしていきたいです」


 その年齢でできる限りの表現こそが、理想だ。


宮田「そしていつか、すごくおいしい塩ラーメンとか、おでんみたいな感じになりたい(笑)。自分の努力でできることもあるけれど、やはり歳を重ねて自然と備わるもの、そぎ落とされるものがあると思うんです。いつも、これが今のベストだと思えるようであり続けたいと思います」



インタビュー・文:高坂はる香

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