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【インタビュー】三宅純
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【インタビュー】三宅純
音楽は時間の芸術。時間そのものを操作できたら…儚い夢ですね
パリを拠点に、映画や舞台などの音楽を幅広く手掛けているサウンドクリエーターの三宅純。公開中のリチャード・ギア主演映画「嘘はフィクサーのはじまり」の音楽や、リオ五輪閉会式“東京プレゼンテーション”で演奏された「君が代」の大胆なアレンジなど、世界的な活躍を続けている。
「現在、日本で舞台『No.9-不滅の旋律-』の音楽監督を務めています。それと、昨年中に完成していたはずのフランスの映画音楽の仕事があって…延びに延びていた編集がようやく固まったとのことで、12月にベルギーでオーケストラを録るのですが、既に書き終えた曲を新たな映像に合わせて尺調整する作業が、時間的に僕自身ではできないので、NYのオーケストレーターに依頼し、それをさらに日本のマニュピレータに頼んでオーディオ化しています。結果、日仏米3カ国の時差に対応して確認作業をしなければならないので、もう大変です。あと、来年担当する日本のドラマと映画の仕事も始動していて…とても魅力的なお仕事なんですけど、コンサートを来週に控えた時期にしては同時進行が激しすぎる(笑)」
数多くの仕事を手掛ける中、三部作の完結編となるオリジナル・アルバム「Lost Memory Theatre act-3」を昨年リリースした。
「いろんな仕事が重なることで、この時代に欠落してるものに気づいて、創作へのヒントが生まれることもあります。極端な話、天気が変わるだけでもインスピレーションはあるので、それに反応していくこと自体が、音楽を作る源泉なのかもしれません。『Lost~』の構想自体は20年近く前からありました。「失われた記憶が流入する劇場」を音で表現できるのか、そこで聞こえて来る音楽はどういうものか…。act-1は過去と現在が交錯、混在するような音楽で劇場に導入するような1枚。act-2は、秘密の小部屋の扉をこっそり開けていくようなイメージ。act-3は失われた記憶が劇場に帯電して、劇場そのものが振動を始めるようなイメージ。act-1の最初の曲とact-3の最後の曲は同じメロディなんですが、歌手と歌詞が違うんです。3部作をそうして円環状にすることで、記憶というものが持つ不思議さを表現できたらいいなと思って。記憶って危ういもので、自分の中でループして都合よく形を変えてしまったり、誇張してしまったりしてることがありますしね」
記憶も、時間をも操れるようなサウンド。
「音楽は時間の芸術だと考えています。いずれは時間そのものを操作できるといいなと妄想していて。優れた音楽を聴いていると、1曲の中でも時間が速く流れたり、時間が止まったり、ある凝縮された一瞬に打ちのめされたり…一定にしか流れないはずの時間を、歪めることができるのは音楽かもしれない、そういう音楽を作れたら素晴らしいなと思います。儚い夢ですけど(笑)」
そんな彼の世界観を体現するような一夜限りのスペシャルコンサートが、KAAT神奈川芸術劇場にて開催される。
「曲順って不思議なもので、曲順が変われば景色の移ろいや時間の過ごし方、曲の聴こえ方も全く変わる。アルバムを聴いてくださった方も、耳馴染みのある曲がまったく違って響くかも知れません」
KAATでの公演では、同劇場の芸術監督を務めている白井晃による空間構成も施される。
「白井さんとは10年を超えるお付き合い。とても真摯に、丁寧に、ものづくりをされる方なので、どんな空間になるのかすごく楽しみにしています。KAATでは、4年前に僕の音楽を原案にした舞台版『Lost Memory Theatre』を上演していただいたので、そういう意味でKAATにはあの時の僕らの“失われた記憶”が宿っているかもしれません。当時参加してくれていたサックス奏者の宮本大路さんと、女優の江波杏子さんが亡くなられてしまって…。追悼の気持ちを込めてKAATでしかできないオマージュにできればと思っています」
この場所だからこそ表現できる、劇場に染みついた記憶のきらめき。是非その目と耳で、それを体感してほしい。
インタビュー・文/宮崎新之
Lost Memory Theatre <The Concert>
開催期間・会場
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