演劇
『肉声』
チケット情報
『肉声』
原案:ジャン・コクトー
構成・演出・美術:杉本博司
作・演出:平野啓一郎
節付・演奏:庄司紗矢香
出演:寺島しのぶ
※未就学児入場不可
この秋あの4人がおくる“妾・語り”
異色の4人のアーティストがおくる実験的パフォーマンス。ジャン・コクトーの『声』を原案に、作家・平野啓一郎が舞台設定を太平洋戦争前後の東京に置き換えて新作『肉声』を書き下ろす…。舞台美術は、現代美術作家・杉本博司が“杉本空間”を演出。庄司紗矢香の奏でるバイオリンと、寺島しのぶの語りで観客に迫る……。これ以上の贅沢は、他では味わえない。
■『肉声』に寄せて 杉本博司
ジャン・コクトーの一人芝居「声」は1930年頃のパリを舞台に書かれた。携帯電話の普及した現代では考えられないことだが、電話は混線を極めた。肉声が電気信号となって、遠くにいる恋人へと伝わっていく。人の心が機械を通して伝わるという近代社会の悪夢が、この頃始まったのだ。
私はこのコクトーの「声」を、日本の昭和15年に置き換えてみようと思った。そしてモチーフとして建築家堀口捨己の設計したモダニズム邸宅に住む愛人を設定した。堀口は実際、資産家の施主の為に妾宅を設計している。そこに住む愛人は、その趣味がフェンシングと水泳という、当時のモダンガールだった。私は平野啓一郎氏に「声」の翻案と脚本化を依頼した。はたして完成した台本は原曲から遠く飛翔したものとなった。私はこれを翻案ではなく本歌取りと呼ぶことにした。本歌取りとは時に原曲を裏切り、別次元に昇華させる、日本文学の古典に伝わる麻薬的手法だ。
この年、日本は建国二千六百年を祝う祝祭ムードに酔いながらも、国の滅び行く予感も漂っていた。はたして電線で結ばれる男女の声は、人間の魂の声を伝えるだろうか。人間の魂は電気信号化できない。さすれば残るのは「肉声」のはずだ。
■『肉声』梗概 平野啓一郎
1940年の晩夏。――
女は、ひとしきり、自宅の庭のプールで泳いだあとで、ぼんやりと蓄音機に耳を傾けていた。
ル・コルビュジエ風の本格的なモダニズム建築。世に妾は数多あれど、こんな妾宅はまたとない。そこは、二人の男女の美と欲望の人工楽園だった。
日米開戦前夜、不安な予感に苛まれつつ、二人は電話で、いつもの〝風変わりな遊び〟に耽る。……
そして、1945年3月。
度重なる空襲によって、焼け野が原となった東京で、彼らは再び、電話口にいた。世界の破滅を予感し、肉体への渇望を、愛へと昇華しようとする男。その時、女の「肉声」は、彼女の心の「虚」と「実」を、金色の言葉の糸で縫い合わせてゆく。そして、語られた思いがけない言葉。
彼女の真情は、一体、何だったのか? そして、二人の運命は……?
