陶芸を見るたのしみ 京都国立近代美術館で9/24(日)まで開催中
9/24(日)まで京都国立近代美術館で開催中の「走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代」。前衛陶芸が持つエネルギーと、かわいらしさ、クスっと笑える面白さが同居する展示となっています。前衛陶芸と聞いてちょっと身構えるという方々に、その魅力をお伝えします。
■うつわではないものをつくる
焼き物と聞いてまず思い浮かべるのは、器(うつわ)ではないでしょうか。実用的かつ日々の暮らしを彩る道具として古くから親しまれてきました。ところが、うつわではない焼き物を発展させていったグループが戦後の京都で立ち上がった走泥社でした。と言っても、うつわから離れるには少し時間がかかりました。まずは、陶の表面を立体的なキャンバスに見立てた作品から彼らの“前衛化”が始まります。
鈴木治の《クリスマス》と八木一夫の《白化粧》は、ともにうつわとしての用途というよりも、白いキャンバスに描かれたデザイン性に特徴があります。本展のビジュアルはこの二人の作品を融合させたものです。
■花を生けるの?生けないの?
うつわからどう離れるか?そのヒントをくれたのが生け花でした。一足先に“前衛化”した生け花に対し、花を生けられないような焼き物の制作が展開されていきます。
八木一夫の《ザムザ氏の散歩》は、かろうじて花を生けることのできる筒状の部分が残されています。うつわをつくるための道具として発達した轆轤(ろくろ)で、うつわとの境界線状にあるものを生み出した八木は、この作品にカフカの小説『変身』の主人公の名をつけたことから、のちに陶芸界の変身の意味も重ねられました。
一方、鈴木治の《作品》にも、花を挿し込むことのできる隙間がわずかながら生じています。これらが制作された1954年当時、うつわとしての用途はかろうじて残っていたのです。本展第1章は、うつわと決別するまでの作品群と言えるでしょう。
■オブジェ焼きの進展
第2章以降は、うつわの呪縛から解き放たれ、さまざまな作家がそれぞれのオブジェを生み出していく様子を紹介しています。山田光の《塔》シリーズは、立体の中の空間を意識させる繊細な作品です。
山田光《塔》1964年 京都国立近代美術館蔵
■現代アートの息吹
林康夫《ホットケーキ》は、焼きあがったホットケーキにナイフを入れたところを表しています。硬い陶器で、やわらかさを見事に表現、早速ホットケーキを食べたくなりませんか?
作家の意図を想像しながら、見るのもまた楽しいです。そして声優・梅原裕一郎さんの音声ガイドが鑑賞を深めてくれます。
いつも同じような作家の美術展を見てしまっているという声も聞きます。アート鑑賞の幅を広げる一歩に前衛陶芸はピッタリではないでしょうか。