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【ライブレポート】the engy

【ライブレポート】the engy

【20250510】the engy LIVE TOUR 2025 "C.U.T."@大阪・246 LIVE HOUSE GABU

2025年5月10日(土)、the engyが大阪・246 LIVE HOUSE GABUにて『the engy LIVE TOUR 2025 "C.U.T."』の6本目となる公演を開催した。3月にリリースしたEP『Night Kids』を引っ提げた本ツアーは、バンド初となる東京・Zepp Shinjuku (TOKYO)でのワンマンへと繋がっている道であった。the engyにとって最大キャパシティとなるZeppでのワンマン開催をアナウンスしたのが、前作『EFN』さえドロップされていない2024年6月のことなのだから、このツアーに並々ならぬ思いが込められていること、彼らにとって今回の旅路が大きな挑戦であることは言うまでもないだろう。それでも、4人は決して気負う訳ではなく、伸び伸びと、しかし確かにスケールアップした楽曲たちを見せつけてくれた。

the engy

EPのアートワーク同様、純白の衣装に身を包んだメンバーは「Hello」を開幕にチョイス。押韻を盛り込んだリリックの推進力でじっくりと熱を加えると、「N」から「Tonight」を束ねていく。テンポを落とした間奏部をバネにハイフレットで攻撃的な濱田周作(Ba)のベースが蠢く「N」も、ミニマムなイントロから電子音を絡めていく「Tonight」も肉体性とエレクトロかつダンサブルな手触りを両立。どちらかに傾倒することのないバランス感も見事ながら、歪がかった山路洸至(Vo,Gt,Prog)の歌がthe engyをロックバンドたらしめていることを改めて思い知らされる。「I Miss U」を経て、一層ディープな夜へ誘った「She makes me wonder」では、そんな山路のロングトーンが冴え渡った。最初期からthe engyの活動を支えてきたこの曲も、「歌えますか、Everybody!」とアジテートされた通り、すっかり一大アンセムに。しかし、あえて言うならば内省的でベッドルームミュージック的でさえある「She makes me wonder」をここまで広大に成長させる道のりは決して容易ではなかっただろう。にもかかわらずそれを実現したのは、一糸乱れぬブレイクの強靭さと配された余白によるものではないか。人懐っこいメロディーを自由に口ずさめる懐の大きさがあるからこそ、気づけばチャントが完成していくのであり、そのフリーダムはテクニックを求める以前に、「自分が歌えば全てがthe engyの曲になる」と自覚した山路のフロントマンとしての自負と態度に由来している。

思いのままに、デカい音を鳴らす。こんな近年のモードを何百回も披露してきたナンバーで示したところで、ボイスチェンジャーを駆使したボーカリゼーションと16ビートが牽引する「Hurts a Little」やアフロビーツを組み込んだ「Not Today」、ファンキーなメロディーを中心に据えながらも響き渡る藤田恭輔(Gt,Cho,Key)のプレイや境井祐人(Dr)のマーチングビートが腹の底をフツフツと煮立たせた「夜明けも夜なら」を乱れ打ち。以前のインタビューで山路は「ジャンルのど真ん中を狙うことに恐れがなくなった」という旨を語ってくれたが、『EFN』と『Night Kids』の楽曲群を連ねたこのブロックはまさしくその自信に満ち溢れていた。「夜明けも夜なら」を終え、思わず山路が呟いた「気持ち良い……」の一言は、サウンド的な高揚感のみならず、やりたいことを泥臭くやれるようになった開放感とも不可分だったのだ。

「Heartache」から雪崩れ込んだ「Prank」では、間奏中に「僕、私、口笛上手いよ~って人?」なんてMCを挟み込む。惜しくも口笛猛者はいなかったため、「みんなでやりましょう」と不格好な口笛からメロディーをシンガロング。口笛でなくともこの曲を完走できたことに対し、山路は「逃げ道は重要。人生において」と溢していたが、偶然にもこの言葉はthe engyの音楽を象徴していたように思う。日常から非日常へのささやかな通用口として、そして逃避行として日々を描き、踊りで彩るのが彼らの音楽なのだから。ともすれば、「それじゃ、」が繋げてくれたのはもう取り戻すことのできない過去のはず。泣き叫ぶみたいに幾度もリフレインされる<それじゃ、またいつか>の一行が、置いていかれてしまうあの瞬間を、空白だけが残った部屋の気配に呆然とするあの時間を出現させていく。<あぁ、>の嘆きと同時に浮かび上がる4人のシルエットは、届かない存在に手を伸ばす空しさと切なさで充満していた。

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フィードバック鳴り止まぬ中、エンディングを彩ったのは「Night Kids」。ここ一番の大熱唱によって、2人だけの世界がフロアの至る所に拡大していく。Kidsのsは肩を寄せ合った2人を指すだけではなく、ある街の片隅に残された誰もを指示していた。眠れなくて、夜更かしが好きで、「このまま時が止まれ」と、「この夜を独り占めしたい」と願った経験のある全ての人の歌。青と赤と黄のライトに包まれたライブハウスを完全なダンスフロアに仕上げるあまりに美しい光景を描き、ゴールテープを切った。

アンコールで山路は「あまり構えないように」と前置いて、こんな言葉を続けた。「音楽っていうものを誰でも逃げ込める場所にしたいから、その時に自分の考えが邪魔にならなきゃ良いと思っています。僕の仕事は夜の一番暗いところに曲を作って置いておくことだと思うんですよ。最低の夜に拾った音楽が、最高の夜まであなたを連れていってくれますように」。先刻の「Night Kids」が圧巻だった理由は、the engyが夜の淵に残した音楽を各々が掬い上げ、持ち寄った結果、生まれたひとコマだったため。4人が音楽を鳴らす理由を刻み付けたところで、ラストナンバーに捧げたのは「Hold You Again」だった。そう、the engyは夜の底で結んだ手を決して放すバンドじゃない。フロアへと乱入し、文字通り熱い抱擁を交わした山路と3人の姿は、もう一度だけこの夜を超えるためのエネルギーをぶちまけていたのである。

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こうして舞台を降りたthe engy。このタイミングで彼らが夜の片隅に最後の助けとなるようなお守りを置き続けると宣誓した背景には、「Night Kids」を契機により多くの目に触れている実感があっただろう。もしかすると日の目を強く浴びることで、影が薄れてしまうという心配もあったかもしれない。それでも、4人の根底は変わらなかった。気取ることもなく、どこまでも相手思いで、徹頭徹尾温かった。ソリッドなワンフレーズが煌めく最新型のthe engyは、東京・Zepp Shinjuku (TOKYO)でのツアーファイナルを終え、アリーナクラスと形容したくなるスケールとどこまでも一対一を欠かさない姿勢を兼ね備えたバンドへ更なるアップデートを果たしたはず。私たちの足元を照らす4人の音楽は、今日も夜の奥底で両手を広げている。

文=横堀つばさ
撮影=Taisuke Kuriyama

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