「人生、歌がある」(BS朝日)、「そのとき、歌は流れた」(BS日テレ)にレギュラー出演するほか、「歌声喫茶ともしび」で歌声を届けるなど、地に足の着いた活動も続ける正統派5人組コーラスグループ・ベイビーブー。2016年、ボニージャックスと共に「ボニーさんとブー」を結成し、2018年には両グループそろって小田原童謡大使に就任するなど、世代間をつなぐ役割も果たしています。
そんな精力的に活動するベイビーブーのリードボーカルを務めているチェリーこと、櫻井貴之さんが、10月19日に東京・有楽町のI’M A SHOWにてソロコンサート「僕こそミュージック」を開催します。これまでミュージカルのステージにも立った事のある櫻井さんですが、ソロコンサートはキャリア初のチャレンジ。なぜ今ソロコンサートを行おうと思ったのか、歌に対する熱くて真摯な思いを伺いました。
――ベイビーブーに加入して間もなく四半世紀が経とうとしています。このタイミングで、なぜ初めてのソロコンサートを開催しようと思われたのですか?
これまで5人で活動を続けながら、その折々に目標を立て、それに向かって邁進してきました。この8年ほどは、“日本武道館で1万人の大合唱祭を行う”というのが大きな目標です。そのために5人が力を合わせて一生懸命に活動を行い、ありがたいことに応援してくださる方々も少しずつ増え、テレビやラジオなどにもレギュラー出演させていただけるようになりました。
ベイビーブーは、5人で奏でる音をすごく大切にしており、僕自身はリードボーカルとしてそうした歌の形を研ぎ澄ませてきました。ですが、目標の確実な達成のためには、他のアプローチも必要だと感じるようになったというか。ソロのシンガーの方々のように、僕の歌だけでも魅力を感じていただけるような歌唱を身につけることも大事だなと考えるようになりました。そしてその経験は、5人で奏でる音にきっと役立つだろうと考えました。そんなとき、お世話になっている方から「ずっとソロコンサートを開催したいと思っていた」とお声がけをいただき、挑戦してみようと思ったのです。
――ベイビーブーの未来を思う気持ちが、ソロコンサートへの挑戦を後押ししたと。
はい。正直な話、ご提案をいただくまで、「僕がソロコンサート?」という感じで、自分では思いもしないことでした。ただ、今回のコンサートのタイトル「僕こそミュージック」にもつながる話ですが、以前、ベイビーブーの将来を考えてソロでミュージカルに挑んだ時期がありました。活動の幅を広げれば、ベイビーブーに興味を持ってくださる人が増えるのではないかと考えたからです。
そのときも、一歩踏み出すきっかけをくれた人がいました。僕らとデビュー時期が近く、ポップスのフィールドで活動していた中川晃教さんです。彼が突然、ミュージカル「モーツァルト!」の主演に抜擢され、新しい才能を輝かせたのを見てとても刺激をもらいました。「僕こそミュージック」は、その作品で歌われるなかで僕が一番好きな曲名です。ですから、新しいことに挑戦する自分にぴったりなタイトルだなと感じました。
また、初のソロコンサートを開くにあたり…、僕は46歳になりますが、この年齢になるまで本当に様々な音楽に触れてきて、今の櫻井貴之があるのだと思ったんです。ソロコンサートでは、僕が通ってきた音楽を体感していただけるような内容にしたいという気持ちもあり、「僕こそミュージック」がふさわしいと思いました。
――櫻井さんの音楽キャリアや音楽観にも触れられるコンサートになりそうですね。
ええ、そうなるよう頑張りたいですし、あれこれ考えているところです。今回は、ピアノ、ギター、パーカッションによるバンド編成でお届けする予定ですから、そういう点でも歌声だけで成立するベイビーブーのコンサートとは印象も異なるのではないでしょうか。
おかげさまで、現在ベイビーブーはレギュラー番組のほか、全国から歌ってほしいというお声をかけていただき各地で歌を届けることができています。ワンマン公演でも昔に比べれば随分と僕たちの歌を聞きに来てくださるお客様が増えました。だからこそファンの方々も、ソロコンサートを前向きに受け止めてくださるんだなと思っています。
――ソロコンサートは、具体的にどのような内容になりそうですか?
ベイビーブーでは、お客様と一緒に声を合わせて歌うことが多いのですが、今回はじっくりと音楽に耳を傾けていただけるような内容にしたいと思っています。
今回、演奏をお願いするピアニストの鈴木孝彦さんは…、僕は親愛の情を込めて「ウニ君」と呼んでいるのですが、あるお仕事で知り合いすごく素敵な演奏家だなと思い、お声をかけさせていただきました。
いま、「こんな曲をやりたいんだけど」といろいろと相談に乗ってもらっているところです。ウニ君いわく、「櫻井さんが選ぶ曲はしっとりとした曲が多い」らしく…、もしかしたら、僕の性格が出ているのかもしれませんね(苦笑)。たとえば、竹内まりやさん「いのちの歌」の歌詞は、この年齢だからこそ歌っていてすごく染みるなと感じる曲のひとつなんですよね。無理に明るい曲を選ぶのは、僕の通ってきた音楽を届けるという趣旨と異なる気がするので、そこはウニ君のアレンジなどに助けていただきながら、皆さんに心地よく聴いていただけるコンサートになるよう一生懸命に頭をひねっています。

――コンサートに向けたリハーサルなどで、新たな気付きや発見はありますか?
5人で声を重ねることでしか生まれない歌がある一方で、ひとりだから成立する歌もあるんだなと感じますね。たとえば、繊細な歌詞のニュアンスをより丁寧に伝えるには、コーラスのように声を重ねて力強く響かせるよりも、一人で届けるほうが伝わりやすいこともあるんじゃないかなという気付きがありました。
あと、魅せ方も5人でいるときとは全然違いますね。告知のチラシで着用している花柄のスーツは、ベイビーブーでは絶対に選ばないタイプです。だって、5人でこの衣装を着ていたら、視覚的にうるさいでしょう(笑)。なので、普段はシックな衣装を選ぶことが多いのですが、ソロコンサートではそれとは違う櫻井貴之の姿を見ていただけるのではないでしょうか。
――25年近く歌い続けても、まだまだ新しい発見があるのは素晴らしいことですね。
はい。きっとベイビーブーの5人全員が歌に対して、すごく貪欲なんだと思います。僕は先ほども申し上げたように、5人の歌声が一つ塊となって聞き手に届けることがベイビーブーでの一つの到達点なのですが、まだまだ道半ばだなと感じます。
その点、敬愛するボニージャックスの皆さんは、それができているんですよ。つい先日、旅立たれた鹿島武臣さんは、僕らの手本であり、僕らを励ましてくださる偉大な先輩でした。ですから、胸にぽっかりと大きな穴が開いたような気持ちですし、ボニージャックスのような素晴らしい音楽を受け継いでいかなければという気持ちを強くしたところです。
思い返せば僕らは、順調な音楽活動が出来ていたわけではありません。「うまくいかないな」「この先どうすればいいんだろう」とたくさん迷いました。ボニージャックスの皆さんや、由紀さおりさん、五木ひろしさん、川中美幸さんといった素晴らしい先輩方の苦労話をお聞きして、僕らももっと頑張らないと全然駄目だなと思い、応援してくださるファンの皆様のためにも、ベイビーブーの歌声をずっと届けられるよう、 努力していきたいです。
――では、最後に今後の目標を教えてください。
先ほどもお話したように、日本武道館での大合唱祭はぜひとも叶えたい目標です。また、NHK「紅白歌合戦」への出場も、僕らの長年の夢なので実現したいと思っています。そのためには、グループの力をもっと蓄えていかなければいけないと思いますし、ソロでの活動にも力を入れていくフェーズなのかなとも考えるようになりました。表現力をより磨くために、またミュージカルにも挑戦したいなと思いますし、「モーツァルト!」で「僕こそミュージック」を歌ってみたいという夢も持っています。今のところ、ダンスはあまり得意とはいえませんが…、求めてくださる声があるなら、これからもいろんな表現に貪欲にチャレンジし、自分の歌声に厚みを増していけたらいいですね。
取材・文/橘川有子
櫻井貴之ソロコンサート~僕こそミュージック♪~ 公演情報