お笑いタレントの小籔千豊が主宰する音楽フェス「KOYABU SONIC 2023」が9/16(土)~18(月)の3日間、インテックス大阪にて開催される。コロナ禍により2020年開催を断念しており、4年ぶりの開催となる今回。どのような胸中で開催に臨むのか。主催の小籔に話を聞いた。
--4年ぶりのコヤブソニックですが、現在の心境はいかがですか
もう4年もやってないから、ほかにもフェスはあるし誰も来てくれへんのちゃうかって思ってたんですけどね。チケットもいい感じに売れてるみたいで、本当に良かったですよ。みなさんから「コロナ禍が終わったら」みたいなことを言っていただいていて、アーティストの方も、企業の方も、芸人も方々も良く出てくれました。ゲームの人らも、まだどんな形になるか分からへんのに「いいですよ、出ますよ」って言ってくれて、本当にありがたかったです。
--本当にそうそうたるアーティストが揃っていますよね
レコード会社とかからしたら、コヤブソニックに出たってアーティストのプロフィールを汚すだけですからね(笑)。正直、ギリギリのところでやってるんで、ギャラもそんなに出せないし、断ってもいいところを「いいですよ」って出てくださる。そういう意味では、ほかのどんなフェスよりも"優しい"が詰まってると思います。
例えば、ちゃんみなちゃんは、うちの娘が一番好きなアーティストでね。それで、ジェニーハイはスケジュールの都合上、最初の2日しか出られないんですけど、ちゃんみなちゃんはダンサーさんの都合で3日目しか出れなかったんです。でもジェニーハイとコラボしているから、何とかコラボしに来てくれへん?って聞いたら、ええよって言ってくれて2日目もちゃんみなちゃんだけでコラボしに来てくれるんです。ちょっと申し訳ないですよね。石田ひゅーいさんは嫁がファンクラブに入ってるくらいなんで、嫁さん孝行ができたと思います。そういう感じで、もう1組1組に想いがありますね。
芸人さんたちも、もともとコヤブソニックに出てくれていた後輩たちが売れっ子になってきて、最初はオファー控えてたんですよ。千鳥やかまいたちとか、ダイアン、見取り図も忙しくなってるからやめとこか、って思ってヤングメンバーで行こう!って進めてたんです。そしたらノブがたまたま川谷Pと会った時に「僕らは、もうコヤブソニック呼んでもらえないんですかね」って言ってたらしくて。それを、こんなん言うてましたよ、って聞いてLINEしたら「全然、行きますよ!出たいです」って言ってくれて。そしたらもう、甘えようかって、声をかけさせてもらいました。
フォートナイトエリアも、お好きな方ならわかっていただけると思うんですけど、想像以上の豪華メンツが揃っていて、もうめっちゃ騒いでますよ。
--いろんな人たちの優しさでコヤブソニックはできているんですね
そうですね。ほんまに、僕が好きな人か、お世話になっている人、尊敬している人にしか出てもらっていないです。ベースは、僕とか僕の嫁はん、家族が一番行きたいと思うかどうか。僕も嫁はんも50にもなりますから、炎天下でやるのはもう無理なんですよ。とにかく過ごしやすいフェスを目指してますんで、屋内でやりますし、女性用のトイレの数ももともとの会場にあるトイレ以外にも16個増やす予定です。充電スポットも作って、子どもが中に入ってぴょんぴょん遊べるふわふわのやつも置きます。お子さん専用のトイレも置くんですよお子さんのトイレの行列って割とピンチだったりするじゃないですか? そういう感じで、来やすい、過ごしやすいフェスを心掛けていますね。駅からも近いですし、家族連れに優しいフェスやないかと思ってます。
--優しさで出来ているからこそ、来てくださったどんな人にも優しいフェスにしたいという想いが伝わってきます。それでいて、アーティストもお笑いもゲームも楽しめるなんて、ほかには無いフェスですよね
そもそもフェスのこともよくわかってなかったから、僕ら芸人がMCでオープニングに行って、アーティストのパフォーマンスが終わったら絡みに行くことにしたら「いや、こんなフェスは観たことないですよ」ってなって。芸人の数もアーティストと同じくらい出してるっていうのが、始めた当時は無くて、音楽とお笑いが一緒に観れるなんてすごいですねって最初の頃は言われていたんですよね。今となっては音楽とお笑いのフェスって山ほどあって、僕がやる必要も無くなってきてるかもしれないですけど。ゲームに関しては、僕がたまたまフォートナイトってゲームが好きだったから。音楽とお笑いとゲームのフェスが一緒になっているのは、まだ世界でもあんまりないから、そこら辺は他とちゃうところかも知れないですね。でも、ほんまに人との繋がり、優しさだけでできてます。

--ところで小籔さんはそもそも音楽に関してどんなバックグラウンドがあるんですか?
うちの母親は割と、ジェームス・ブラウンとかマドンナとかを観に行くような人やったんですよ。「あんたら今日はカレー食っとけよ、私は今から大阪球場でジェームス・ブラウン見に行くねん」ってね。掃除機かけながらレッドツェッペリンがかかってたり、ビートルズとかのレコードもたくさんあったりして。両親が良くいく店でも、ずっとボブ・ディランがかかっているようなところで、その店は憂歌団のみなさんとかが出入りしているような店でした。
--音楽好きの両親のもと、めちゃめちゃ音楽に囲まれて育ったんですね
それで、小学校5年のときにおばあちゃんが僕に「これからの時代は音楽と英語や」って言われて、ギターを習いに行ってたんですよ。ファミコンのカセット1個買ってくれるからってね。あと、妹がエレクトーンを習い始めるのに合わせて、僕も小学校3年からエレクトーンもやってて。だから、自分が音楽を好きになる前から、音楽まみれの家やったんですよね。そういう環境で習わされているから、好きじゃなかったんじゃないかな。好きになるきっかけが無かったんですよ。実家は自転車屋なんですけど、常に最新型の自転車を乗り回してこい!って言われてたんで、自転車にも全く興味が無かった。そんな感じで、音楽にも興味は無かったんですよね。
--音楽が当たり前すぎる中で育って、自分から能動的に音楽を楽しむようになったのはいつごろでしたか?
車に乗るようになってからですね。彼女……今の嫁と出会って、よく車で遊びに行ってたからカセット入れて聴いたり、FMを聴いたりしているうちに「これ、ええからライブに行こうか」みたいになってくる。それで渋谷系にハマったのが最初やと思います。それまでも、ジャケ買いとかして、ジャズやソウル、ヒップホップなんかは聴いていたんですけど、なんとなくBGMとしてかける感じやったんですよね。自分が好きで、ライブに行くとか、アルバムが出たら必ず買う、みたいにハマったのは、渋谷系の人たちだけやったかな。やから、語るほど音楽のことなんてわかってないんですよ。
--いやいや……。現在はジェニーハイのドラマーとしても活躍されていますが、ドラムをやるようになって音楽に対する考え方や捉え方って変わりました?
ミュージシャンって、自分が思っていたよりもすごいことをされてるんやなって思いましたよ。ドラムに関して言うと、街とかで見かけるちょっと不良っぽいバンドマンが舌とか出して"自分らは悪いんや"みたいな感じのポスターって貼ってあったりするじゃないですか。以前なら、不良からこんな感じになったんやなぁ、くらいにしか思わなかった。でも今は、いや嘘やん、って思います。ドラムスティックを持っている人が悪ぶってても、嘘やん、って。あなたはとんでもない基礎練習をくぐり抜けてそこに居るはずなんやから、真面目やんって思うんです。ガチの不良だと、ドラムは絶対にできない。もちろん、ギターもベースもね。めちゃくちゃ練習してて、めちゃストイックやから。すべてのミュージシャンに対するリスペクトは、ドラムを始めてから8倍くらいになりましたね。
--悪ぶってても、マジメに練習できないやつがプロにはなれないだろう、と(笑)。それくらい、小籔さんもストイックに練習されているということですよね
その点で言えば、もともと僕がゲスの極み乙女が好きだったので、川谷Pが作る曲が好きなんですよ。そういう意味ですごく練習しやすい。このジャンル好きじゃないな、この曲イヤやな、って思いながら練習するのってやっぱイヤじゃないですか。まずはそこが良かったですよね。それにメンツに鬱陶しいやつが一人もいない。だから、打ち上げやっても楽しい。その2つが揃ってるから、無事に続けられてると思いますね。お客さんも喜んでくれてるし、めっちゃ笑いました、音楽のライブでこんなに面白いとは、って言うてくれるんですよ。そういう副産物を感じてくれるんやったら、僕らが存在しててもいいんかなぁって、ちょっと思える瞬間があります。お客さんが喜んでくれるのは、やっぱめっちゃ嬉しいですよ。
--オーディエンスの喜びが、活動の糧なんですね。コヤブソニックをやるモチベーションにも、2008年から現在とでは変化があったのでは?
最初はレイザーラモンとやってたビッグポルノがサマソニに出れないから対抗して自分らでやろう、っていうのを広報的に言ってたんですけど、運営はサマソニさんと同じだったんで、実際はサマソニ=先輩っていう感覚なんですよね。でも、ビッグポルノが解散してもともとの理由がなくなったのに続けるのはキショいから、一旦は筋を通して終わったんです。でも、続けてほしいと言ってくれる人たちがいたから吉本新喜劇ィズってバンドを組んで、第2章としてやらせてもらってました。そしたらコロナ禍と同じくらいの頃にボーカルとベースとキーボードが同時期に赤ちゃんを産みまして、子育ての方向性の違いで活動休止になりまして……。2023には新喜劇ィズが無いからどうしようか、とも思ったんですけど、一応ジェニーハイがあるからええか、と。今は、ジェニーハイを広く知っていただくためにやっている、というのが一応の建前ではあります。
--観客としては、来年以降もコヤブソニックをやっていただきたいです!
そういう、来年もやってください!って言葉が、皆さんからの言葉の中でも一番、熱を感じますね。街で声をかけてくださる人の中には「小籔さんと音楽の趣味が全く一緒なんですよ!めっちゃええメンツを毎回集めてくれてありがたいです」っていって、若い女の人に頭を下げられたりもしました。それぞれのアーティストのファンの方にお礼を言っていただいたりもして、新大阪の駅で5人くらいに囲まれたこともありました(笑)。律儀なファンの方がいらっしゃるんですよね。
ただコヤブソニックをやるということは、いろんな人に迷惑もかけてるんですよ。アーティストの方々もお忙しいところに時間を頂戴してるし、芸人もコヤブソニックが無かったらもっと割のいい番組に出れたり営業に行けたりしたかもしれない。ゲームの方々だって、何のメリットもないのにわざわざ来てくださる。吉本の社員にしたって、業務が増えるわけです。お客さんにしたって、チケットも安くはないですよ。地方からだとホテルや交通費もかかりますから。それだけのデメリットがあるなかで、参加してくれた全方向の人が「まぁ参加してよかったな」とちょっと思ってもらえるんなら、次もやらせてもらおうかな、という感じですね。そこが大前提。みんな平等にね。もちろん大赤字やったら僕も大人なんで、無理にイベントを続けるのも良くないですけど。薄氷を踏む感じで、来年も……やっていいですかね?っていう感覚ですよ。
--主催側も、出演側も、観客側も、全員が優しい気持ちになれるフェスとして、続いていくことを願っています! 最後に、楽しみにしているみなさんに、メッセージをお願いします
本当に平和なフェスを目指しています。運営の方とか、業界の方からも、トラブルが少なくて本当に平和って言っていただけるんですよ。初心者の方も過ごしやすいフェスやと思いますんで、まだフェスに行ったことのない方も入門編としていかがでしょうか。
取材・文/宮崎新之
KOYABU SONIC 2023 公演情報