【インタビュー】中村佳穂

2025/3/15(土)

音楽室をのぞきにくるような気持ちでライブに来てほしい

20歳から本格的に音楽活動を始めたミュージシャン、中村佳穂。ソロ活動のほか、tofubeatsやRHYMESTER、蓮沼執太など、ジャンルの垣根を飛び越えたコラボでも比類なき存在感を示してきた。2021年公開の細田守監督作『竜とそばかすの姫』では、主人公すず／Belleの声とうたを担当し、同年末に、『NHK紅白歌合戦』に(millennium paradeと共に)初出場すると圧倒的な歌声とともにその存在が拡散した。唯一無二の歌声で多くの音楽ファンを魅了する中村が、現在全国ツアー『中村佳穂 PIANO SOLO TOUR 2025 “ひとりくない”』を開催中。4月に東京の追加公演も発表されるなど好評だが、「ソロコンサートは苦手意識があった」と打ち明けてくれた。

「ライブでは、お客さんにどう見てほしいかと思ってライブを作るのではなく、自分が音楽に対していかに面白く楽しく居られるかを考えていて、それがお客さんにとっても楽しいものであるといいなと祈るような気持ちで歌っているんです。共演者がいると、彼の演奏を目の前に聴いてほしいとか、彼らの演奏にワクワクしながら私も歌うことができます。でも、弾き語りライブは自分だけの空間で、ワクワクが起きづらく、私にとっては“つまらない”の極地という印象で(苦笑)。ただ、10年が経ったころから伝えたい歌の幅が広がった感じがして、続けてきてよかったなと思うと同時に、今の私ならソロライブも楽しめそうだと気持ちに変化が起き、かねてより要望のあったソロツアーに挑戦しようと思ったんです」

ツアータイトルの“ひとりくない”は関西弁で“1人じゃない”を指すという。京都人である中村らしいネーミングだ。

「ピアノは私とお客さんの間に必ず存在するので、ピアノの音を聴きながらそれに応えて弾いたり歌ったりすると、自分の調整がすごく跳ね返ってくるんです。時には自分に足りない部分が聴こえてきて、それに傷つきながら弾くことも……。ピアノは鏡のような存在で、自己完結するイメージが強かったんですよね。それはおそらく、ごく普通の公務員家庭で育ち、音楽に近い人が誰もいない中、1人で続けてきた感覚が強かったからだと思います。今回のツアーでは、自分で描いたライブのイメージ画をもとに、旅先で出会った友達に床へ敷くタペストリーを作ってもらったり、SNSで繋がったフォトグラファーにキービジュアルの撮影をお願いするなど、密にやり取りを重ねていきました。すると、ライブ中は舞台に私しかいなくても私を想像していろいろと尽くしてくれた友達がいるんだと思えるようになったんです。まるで、友達が手作りの誕生会を開いてくれるような、“ひとりくない”って感じながらライブができそうだと思いこのタイトルにしました」

“ひとりくない”は、会場に足を運ぶファンに向けた温かな言葉でもあるようだ。

「ときおり『1人でライブに行ってもいいですか？』と質問されます。確かに、誰かと一緒の方が心強かったりしますよね。でも、私は聴いてくださる一人一人を意識しているので、たとえ家族や友達が一緒でも個人に対して歌っています。また、私はお客さんやその場の空気と対話しながら歌うので、気負って予習しなくても大丈夫。昔から、休み時間になると音楽室でピアノを弾いて歌ってはクラスメートがそれを楽しそうに見ていました。ライブも、音楽室をのぞきにくるような気楽な気持ちで来ていただければいいのかなと。浸りたくなったら好きなように浸っていただいていいですし、こっちもいい感じに勝手に楽しく歌うので、こうじゃないとダメというルールは一切ありません。自分がこうしたいと思うままにその場を楽しんでいただけたらうれしいです」

誌面連動Q&A

• Q.
  手土産を選ぶポイントは？

A.
「私は家に手土産ボックスをつくっていて、段ボール箱いっぱいにいろいろな種類の手土産が入っています。いいなと思った日持ちするものを複数個買っておいて、ボックスに入れておくと、いざ手土産を持っていくときに便利なんです。今日はこの人と会うなってときに、そこから選んで持っていきます。酒、お砂糖、チョコレート、はちみつ。漢方やのどぬーるマスクまで。ミュージシャンに乾燥させないものは外せません。旅先でも買っておくので、福岡の地酒などもたくさんボックスに入れておいて、次のタームで会う人はお砂糖とお酒とか。なんでもいけるので任せてください！」