【インタビュー】葉加瀬太郎
恐竜のような「巨大生物」に立ち向かう30周年ツアー
「僕が初めてオーケストラのコンサートを観たのは小学校に入ってすぐ。それからは何度も、クラシックのコンサートに行くのが好きでしたね。よく行ったのが大フィル(大阪フィルハーモニー交響楽団)の定期演奏会です。朝比奈隆先生のベートーヴェンがカッコ良かった!」
オーケストラとの出合いについて尋ねると、葉加瀬太郎は幼少期の、それでいていまなお瑞々しい思い出を語り始めた。
「オーケストラとして演奏をしたのは10歳の時です。毎週土曜日の午後、学校の授業が終わったあとに大阪の相愛学園の音楽教室に通い始めたんですよ。そこでは聴音や視唱、楽理といったレッスンがあるんですが、そのあとにオーケストラの授業が2時間ほどあったんです」
ヴァイオリン以外で何か気になる楽器はありますか。そんな問いかけをしたところ、葉加瀬はほのかに照れながら「クラリネット」と教えてくれた。
「これは僕の高校時代の恋愛に関係しているんです。大好きだった先輩がクラリネット奏者で。それ以来、オーケストラでもクラリネットが重要な役割を果たす交響曲や、ヴァイオリンとクラリネットが一緒に演奏できる室内楽の名曲は、僕にとって特別なナンバーになっています。ブラームスをこよなく愛することになったもの、それと深い関係があるかと(笑)」
甘酸っぱい青春時代を経て1990年、当時22歳の葉加瀬はヴァイオリニストとしてデビューを果たす。
迎えた今年。葉加瀬がデビュー30周年のアニバーサリー企画として開催するのが『オーケストラコンサート2020』である。4/4(土)の福岡公演を皮切りに5/15(金)の東京公演まで、全国11ヶ所16公演が予定されている。
オーケストラとのコラボレーションに向けて、心の持ちようを尋ねたところ、葉加瀬の口から漏れたのはまるでアスリートが発するような言葉だった。
「僕にとってコンサートを作ることは、とてもやりがいのある仕事です。でも、そのぶんとても大変な仕事でもあります。たとえばピアニストと二人きりのコンサートでも、バンドのコンサートでも、その編成にしかない大変さがある。もちろんオーケストラとなれば、また違った大変さが生まれてくるに違いないでしょう。僕はそのたびにひとつずつ学び、楽しみ、成長していきたいと思っています。
だから、どのコンサートでも大変さがあるという意味では同じですし、異なる大変さがあるという意味では1回1回違うんですが、今回のオーケストラコンサートについてひとつ言えることがあるとすれば、人というのはおしなべて人の数のパワーにやられがちだということ。僕は今年のお正月、初詣に行った時にそれを感じました。ただ並んで歩いてお参りしただけなのに、とっても疲れて(笑)。人の気を受けるからです。今回のツアーでは僕にとって前面、つまり客席に加えて背後から相当な人の気を受けることになります。ゆえに、フィジカルもメンタルも鍛えて臨まなければと思っています」
あたかも巨大生物が放出するかのような音という名の息遣い。葉加瀬はこう続けた。
「オーケストラって、恐竜のような大きな生き物だと思うんですよ。それぞれのパートが絡み合い、反応し合い、戦ったり交わったりしながら音楽を奏でていく。コンピューターで制御する音楽と違って、実際にはピッチもリズムもズレる。でも、そこがオーケストラの醍醐味と言っても過言ではない。人と人との熱量、揺らぎ、波、温度、心、感情、息、それらがすべて音楽に関与して、人間同士でなければ到達しないひとつの形を形成していくのだと思います」
一昨年の1月、所属する芸能事務所「オフィスウォーカー」の会長、大谷勝已氏が亡くなった。オーケストラコンサートは大谷氏の悲願であったことを、葉加瀬は明かした。
「一緒に仕事をしてきた大谷会長の夢でしたし、その遺志を継いだHATSマネジャーの夢でもありました。そうした皆の熱い思いをしっかり形にするべく、悔いの残らないよう全力で臨むだけです。僕にとっては一世一代の大仕事。オーケストラには堅苦しいイメージもあると思いますが、僕のコンサートですから(笑)。かつての僕のように小学生のお子さんもぜひ一緒に、夢のような時間を過ごしましょう」
恐竜に立ち向かいながらも、クラリネットの音色に思わず頬を緩ませるのであろう、葉加瀬太郎の30周年ツアーが、まもなく開演する。
プロフィール
ハカセ タロウ
'90年にクライズラー&カンパニーのヴァイオリニストとしてデビュー。自身のレーベルHATS主催のHATS MUSIC FESTIVALや夏の野外コンサートを開催するなど、1年を通して100本近い公演を行っている。
公演情報
日医工 創立55周年特別協賛 30th Anniversary 葉加瀬太郎オーケストラコンサート2020~The Symphonic Sessions~
4/4(土)17:00 福岡サンパレス
4/5(日)17:00 熊本城ホール メインホール
4/11(土)17:00 富山オーバード・ホール
4/17(金)18:30 埼玉・川口リリア・メインホール
4/18(土)17:00 埼玉・川口リリア・メインホール
4/21(火)18:30 神奈川県立県民ホール
4/24(金)18:30 大阪・フェスティバルホール
4/25(土)15:00 大阪・フェスティバルホール
4/29(水・祝)18:00 愛知県芸術劇場 大ホール
4/30(木)18:30 愛知県芸術劇場 大ホール
5/1(金)18:30 愛知県芸術劇場 大ホール
5/4(月・祝)17:00 ロームシアター京都 メインホール
5/5(火・祝)17:00 兵庫・神戸国際会館こくさいホール
5/8(金)18:30 北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
5/14(木)18:30 東京国際フォーラム・ホールA
5/15(金)18:30 東京国際フォーラム・ホールA
インタビュー・文/市瀬英俊
構成/月刊ローチケ編集部 2月15日号より転載