クラシック

【公演レポート&ミニ・インタビュー】俺クラ・マチネ

レポート&インタビュー 俺クラ・マチネ

【公演レポート&ミニ・インタビュー】

進撃中!
うっとり/硬派な/燃える/本格派
三人の男たちが、そのすべてを響かせる

渋い大人の・カッコ良くって・愉しいクラシック。存在感もきりっと冴える男たち三人が奏でるのは、うっとりと美しい名曲から、リズムも燃えるダンサブルな人気曲の数々まで、初めてのかたも肩ひじ張らずに楽しめる、それでいてロマンティックなメロディも王道クラシック曲も、最高級の本気でお届けする公演だ。

俺クラ・マチネ_ステージ

この〈俺のクラシック〉略して〈俺クラ〉は、硬派でこわもての風貌がクラシック界では異色の存在感を放つ、凄腕ヴァイオリニスト・石田泰尚と、タンゴをはじめ広く演奏を繰り広げて人気高い世界的バンドネオン奏者・三浦一馬の二人を軸に、ピアニストを迎えて組まれるユニットによるコンサート。
2026年1~3月は、全会場が午後開催のマチネ公演でツアーを開催、題して〈俺クラ・マチネ〉だ。
今回は、初参加となる京増修史をピアノに迎えて、全5公演がスタートしている。さっそく(客席も大いに沸いた)コンサートの模様をお伝えしつつ、最後にはアーティストたちからのコメントもご紹介しよう。

◆あくまで音楽で勝負 愉しくも硬派で、飽かせないプログラム!

ツアーの前半戦から、東京・調布公演を拝見してきた(1月30日/調布市グリーンホール)。
はじめに「渋い大人の」と記したけれど、耳なじみの良い人気曲が軸となった演目を、途中にお喋りなど挟まず奏してゆくのは、客席との距離感を無理に縮めようとしない硬派なスタイル。あくまで音楽で勝負なのだ。

はじめは、京増修史のピアノ・ソロから。ショパンの〈アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ〉は、ゆったりと詩的な歌の流れから、後半の流麗なきらめきの奔流へ……。ピアノの華やかなテクニックと豊かな音楽性がとけあった、聴きごたえのある名品をたっぷりと愉しませてくれる。

客席の温度もぐっと上がったところで、今度はピアノにヴァイオリンも加わる。
独創的なファッションで立ち姿も美しい石田泰尚。多彩な活動を繰り広げるなか、もう10年以上にわたってアンサンブル〈石田組〉を率いていることもあって〈組長〉の愛称でも知られる名ヴァイオリニストが颯爽と登場。
清澄な祈りのメロディを息ながく美しく奏でる〈アヴェ・マリア〉(バッハ/グノー)、いにしえの典雅な宮廷舞曲を模してヴァイオリンの音色をさまざまに繰り広げる〈テンポ・ディ・メヌエット〉(クライスラー)と、曲名を知らずとも、演奏を聴けば「ああ!」と耳覚えのあるような人気曲をふたつ。すっと胸に溶けてゆくような美しさだ。

◆ヴァイオリン、バンドネオン 多彩さ、色気、艶の爆発!

この石田泰尚というひとは、ソロや室内楽での活躍だけでなく、ふだんは神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ソロ・コンサートマスターの重責を担っている。世界的な指揮者たちと共に、古今の広大な演目でオーケストラをリードしている人だから、もちろんテクニックも表現も万全だ。あらゆる演目にしなやかな適応力を示すだけでなく、凛と立つ存在感が半端ない。そして何より、その美音!
そんな石田のヴァイオリンと京増のピアノ。ふたりのデュオは、続く〈火祭りの踊り〉(ファリャ)でも、スペイン舞曲のほの暗い情熱を激しく昂ぶらせて見事!

石田組長がさっと引っ込むと……コンサート前半をしめくくるのは、三浦一馬のバンドネオン&京増修史のピアノによる、〈ラプソディ・イン・ブルー〉(ガーシュウィン)。
この曲は、20世紀はじめのアメリカで、ジャズとクラシックが融け合って生まれた傑作だ。もとはピアノとオーケストラの協奏作品なのだが、バンドネオンとピアノという組み合わせで演奏されるのも珍しい。
というより、バンドネオンという楽器でこの曲の多彩さやスケール感を味わえるというのは、凄いことなのだ。その哀愁とロマンを湛えた表情ゆたかな音色に、キレも鋭いリズム感を刻むバンドネオン。三浦一馬の(凄まじい!)技量と音楽性が、ピアノと呼吸もぴたりと合わせつつ、しかし自在に、洒落たジャジィな響きを深めてゆく。まさに「縦横無尽」だ。

◆背中で泣いた男たちが、三人揃ったそのとき

休憩を挟んでの後半は、また組み合わせを変えて、今度は石田泰尚のヴァイオリンと、三浦一馬のバンドネオンという二重奏。これがまた、いいのだ。
〈私を泣かせてください〉(ヘンデル)、〈シンドラーのリスト〉テーマ(ジョン・ウィリアムズ)と、哀切な名作がふたつ並ぶ。きりっと美しい音色に、艶も深く輝くヴァイオリンが、哀しいメロディを息長く歌う。そこにバンドネオンの哀切な響きが、音楽の陰翳を広げ深めてゆく……。
硬派な男たちが、甘さを封じた音楽を真摯に響かせる。ヴァイオリンとバンドネオンはそれぞれ、背中で泣いているようだ。

さまざまな組み合わせの二重奏を繰り広げてきた〈俺クラ・マチネ〉もいよいよクライマックスへ。最後は、石田泰尚、三浦一馬、京増修史の三人がいよいよ揃う。
〈月の光〉(ドビュッシー)、〈白鳥〉(サン=サーンス)と、フランスの作曲家たちが生んだロマンティックの極みのような名曲たち。これを、ヴァイオリン+バンドネオン+ピアノという三重奏で聴くと、原曲をご存知のかたも、その懐かしくもまったく新鮮な感覚に驚かれるだろう。
弦楽器のしなやかで艶ふかい歌心と、蛇腹楽器の呼吸も音色も豊かで声のような響き。そしてピアノの柔らかな光輝くサウンド。
それぞれの特質が見事に融け合った、〈俺クラ〉でしか聴けない音楽なのだ。

◆この三人でバッハを! その素晴らしい音色感と音楽性!

驚くのは,最後だ。ヴァイオリン+バンドネオン+ピアノの三重奏で、J.S.バッハが書いた〈2つのヴァイオリンのための協奏曲〉を弾いてしまうのだ。これには、相当のクラシック愛好家の皆さんもガツンとやられてしまうはず。

というのも、もともとヴァイオリンの独奏者二人とオーケストラで演奏されるこの曲、難しいソロのパートを、ヴァイオリンとバンドネオンがそれぞれ担当。オーケストラ部分をピアノが弾くわけだが、バッハを弾き馴れている石田や京増はもちろん、三浦一馬も古典中の古典であるこの作曲家をしっかりと手がけて来ただけに、これまた見事なのだ。

しかも、バンドネオンの音色がバッハに良く合う。バッハの時代にはまだ存在しなかったバンドネオンだが、蛇腹を押し引きして音を出す(アコーディオンと同じ)のは、古い時代のオルガンとも発音の原理は似ているだけに、意外なくらいバッハに良く融けるのだ。
全曲ノーカットでの演奏は、三人の高度な音楽性が瑞々しく出逢い、高め合う至福の時間。その充実感は、初めてバッハ作品に出逢われたかたにとっても、忘れ難いものになったことだろう。

俺クラ・マチネ_ステージ

◆京増修史が語る、〈俺クラ・マチネ〉の魅力

鳴り止まぬ拍手に応えてのアンコールは、これからのツアーに来場される皆さんのために、内緒にしておくのがよいかと。ただ、ここで初めて男たちがマイクを取って喋る(三人それぞれの個性が如実に出ていて面白かった)、ということもこっそりお伝えしておこう。

そして終演後、アーティスト三人に質問をさせてもらい、快く答えてもらえた。

俺クラ・マチネ 石田泰尚/三浦一馬/京増修史

まず、今回が〈俺クラ〉初参加となった京増修史。

はじめに石田の印象についてお尋ねしてみると、
「今回が初共演でしたが、その場、その瞬間に生まれる音楽を、とても大切にされている方だと感じました」とのこと。「最初は、どのようなアプローチで演奏されるのか、ハラハラドキドキでしたが、今後さらにアンサンブルの質を高めていけるよう頑張りたいと思います」。
いっぽう、バンドネオンの三浦とは、これまでもピアソラ作品などで「何度か共演させていただいていますが、ピアソラの作品に不慣れな自分に対しても、とても丁寧に演奏のアドバイスを下さいます」と、その信頼は今回のツアーでも深まっている。

「自分のレパートリーにはないジャンルの作品に挑戦できることも、大きな魅力のひとつだと感じています」とも言うように、演奏家それぞれが新たな挑戦を響かせている、その新鮮さも〈俺クラ〉の魅力のひとつだろう。
「多彩なプログラム、ここでしか聴けないアレンジ、そして三者三様の個性が重なり合うことで生まれる化学反応こそが、〈俺クラ〉の何よりの魅力だと思います。それぞれの会場で生まれる音楽を、ぜひ全身で浴びていただければ嬉しいです!」と話す。

◆三浦一馬が語る、バンドネオンで弾くバッハ──そして……

続いて、バンドネオンの三浦一馬。

この楽器でバッハを!と驚かれる人もいるかと思うので、そのあたりについて聞いてみると……
「バンドネオンは、当然のようにアルゼンチン生まれの楽器だと思われることが多いですが、ドイツ発祥の楽器です。とはいえ、バッハが生きた時代には、バンドネオンはまだ存在していなかったので、今回こうしてバッハの作品をバンドネオンで弾くということは、『もし、バッハがバンドネオンのための作品を書いていたとしたら?』という、ある種のパラレルワールドを想像するようなことでもあります」と言う。
「そして、その想像した世界と自分の音が上手くマッチした時には、あたかもその時代にバンドネオンが存在したかのように感じられて……それはとても楽しく喜びを感じられる瞬間です」と語る。

まさにその瞬間を、今回のツアーで我々観客も体験することができる。
「ツアーの良いところは、回を重ねるごとに、どんどんアイディアが足され、内容がブラッシュアップされてゆくところ・実は、それは我々演奏家だけの力ではなく、なにを隠そう、聴いて下さる皆様がたのお力添えがあってこそ!……ぜひ、同じ時間・空間を共有しましょう。皆さまのお越しを、会場にてお待ち申し上げております!」と呼びかける。


さて、最後に石田泰尚に話を聞いてみると、これがまた(石田組長らしい)ふたこと。

「頑張ります。待ってます」

石田のキャラクターは、このふたことに尽きている。会場でその真摯な音楽を聴けば、納得してもらえることだろう!


取材・文/山野雄大

掲載開始日/2026年2月20日


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