2歳からピアノに親しみ、小学4年より取り組んだ連弾では、わずか3か月でコンクールの全国大会の切符を手にした、双子の山下順一朗&宗一郎による、ピアノデュオ・兄ーズ。
4人きょうだいのうち、2人が兄にあたることが兄ーズの名の由来。弟が重い病気であることから医師になることを志しながら、多い時には1日12時間もピアノの練習に打ち込んできた。2022年、大阪国際音楽コンクールの連弾部門での優勝に輝いたほか、コンサートや病院や児童施設でもボランティアによる演奏活動を精力的に重ねてきた兄ーズ。そうした姿勢が高く評価され、ソニー音楽財団子ども音楽基金に選ばれ、活躍の場はさらに世界へ。2023年にドイツ、2024年5月には米国クラシックの殿堂、カーネギーホールの舞台に立っている。
大いに世間の注目を集めたが、受験勉強に専念するため活動を休止。その努力が実り、2025年の春、2人はそろって医学部に現役合格を決めた。こうした、奇跡のような2人の足跡は、同年7月に出版された書籍『夢を奏でる ピアニストと医師の二刀流を目指す双子の物語』にも綴られている。そして、この8月からは約1年ぶりとなるコンサートツアー「Piano Magical Land」と、「ミュージション&SEE THE SUN プレゼンツ 兄ーズ感謝祭」で本格的に再始動する。医大生になった兄ーズに、ツアーや感謝祭の見どころや活動に込める想いを聞いた。
――コンサートツアー「Piano Magical Land」はどのような内容になりそうですか?
順一朗 これまでも僕らのコンサートでは、クラシックはもちろんのこと、ディズニーやスタジオジブリの作品をはじめとする国内外の映画などを彩った楽曲、さらにはエバーグリーンなJ-POPなど、多くの方に親しみのある楽曲も演奏してきました。今回のコンサートツアーは、ツアータイトルに“Magical”と題して、まるで魔法のような、テーマパークのアトラクションに乗っているかのような、どきどきワクワクできる会にしたいと考えています。
――ツアーの直前には、mini Album「Little Piano Land」でメジャーデビューも決まりました。その作品でも、竹内まりやさんの曲や「ドラえもん」、ミュージカル映画「THE GREATEST SHOWMAN」など、バラエティ豊かな楽曲を演奏していますし、ジャンルの壁のなさも兄ーズの魅力の1つなのでしょうね。
順一朗 ありがとうございます。コンサートツアーでは、1回目から「大人から子どもまで楽しめる遊園地」みたいなものをテーマにしてきたんです。去年は受験勉強に集中するため、「Piano Land」をいったん閉園しましたが、それは兄ーズにとってすごく大きな決断だったんです。
宗一郎 そうだよね。おかげさまで、この春に2人そろって合格できたときは、周りの方々から「奇跡みたいだね」「魔法にかかったみたいに素敵なことだよ」と言っていただきました。スタッフさんと次の活動について話し合う中で、「今回は、魔法の世界みたいなことをコンサートで表現できたらいいですよね」という話になったんです。
順一朗 うん。だから今回は、特にポップスを中心に“Magical”を意識した選曲にしています。演奏する楽曲の半分以上は、これまで皆さんの前で演奏したことがないものなので、いろんな意味でワクワクしていただけるんじゃないかと思います。
宗一郎 ただ、僕らはそのぶんたくさん練習しなければならないんですが(笑)。大学から帰ってきて練習をしているところですが、自宅が一緒なのでいつでも練習できるのはメリットですね。
――クラシックとポップミュージックでは、演奏するときにどんな違いを感じますか?
宗一郎 クラシックには、形式だったりある一定のルールのようなものがあるので、それを尊重しながら僕たちがその中でやりたい表現を追求していきます。ポップスもその延長にあるけど、ギターやドラムなど使う楽器が違っていて、ボーカルも含めてバンドサウンドをピアノで表現するのが大きな違いだなと思います。
順一朗 クラシックを2人で演奏していると、和音の変化などが滑らかで整然としているなと感じます。ポップスは逆に、急に転調したり、思いつかないような展開が起こるところが面白いし、魅力だなって思います。
――譜面に記されていない、感情の起伏やその場の盛り上がりに合わせて演奏できるところもポップスの醍醐味かと思います。だからこそ4本の腕、20本の指をぴたりとそろえるのが難しいと思うのですが、お2人はどうやってシンクロ率を高めているのですか?
順一朗 ひとつは、僕らは双子なので感情とかちょっとしたリズムとか、細かな部分でうまく揃えられるのかなと思います。
宗一郎 うん、合わせやすいよね。でも、サビや曲のラストでぴったりと着地するためには、本番までに2人で納得がいくまで話し合って、作り上げていくという過程を踏んでいるからだと思います。練習するたびに、些細なところも2人で意見を確認しながら、合わせるようにしているから本番できれいに揃うんです。
――息の揃った連弾は、兄ーズの大きな魅力ですが、コンサートではどのようなことを意識していらっしゃいますか?
宗一郎 僕らがいつも第一に考えていることは、お子さんから大人まで、垣根なく誰もが楽しめるコンサートを創ることです。そして、僕らのコンサートを見ていただいた後に、「ああ、楽しかった」と思いながら、帰路についていただきたいなと思っているんです。
順一朗 そうだね。そこに対する熱量は、本当に自信があります。誰にでも楽しんでいただけるよう、選曲をはじめ、演出や衣装まで、トータルで考えて作るのが僕らの特徴で、そこにすごく時間をかけているんです。
順一朗 最近だと、MCの内容も2人であれこれと考えていますし、どういうふうに弾けばお客さんは「来てよかったな」って思っていただけるか、毎日すごく話し合ってます。
宗一郎 ときには、2人だけじゃなくMCの内容を家族の意見も交えながら、よりよくできるように工夫もしているんですよ。そうやって、連日のように夜遅くまで話し合って本番に臨んでいるんです。
――コンサートにかける熱量の大きさがひしひしと伝わってきます。そうした気持ちが「ミュージション&SEE THE SUN プレゼンツ 兄ーズ感謝祭」という形にもつながったのでしょうね。
順一朗 はい。コンサートツアーで楽しんでいただくのとは別に、これまでにない形で応援してくださる皆さんに感謝を伝えたいと思ったんです。なので、僕らが選んだ曲を演奏して聴いていただくいつものスタイルとは別に、事前にリクエストを募って、それをプログラムに反映してみたいと思っています。
宗一郎 みなさんからいただいたリクエストを元に、僕らが選曲をして演奏するんです。「感謝祭」に来てくださるお客さんたちが、僕らにどういう曲を弾いてもらいたいと思っているのかを知ることができるとてもいい機会だなと思いますし、“皆さんに楽しんでいただく”という僕らのコンセプトをより発展させるためのきっかけ、新しい視点も得られると思うので、僕らもすごい期待しているんです。
――約1年、演奏活動から距離を置いたことで、何か違った感覚や気づきはありますか?
宗一郎 はい。1年ぶりにコンサートを開き、皆さんと楽しい時間が過ごせることに今まで以上にワクワクしています。あと、受験期間は半年近くピアノに触れることなく、勉強に集中していたんですが、受験が終わっていざピアノを弾いてみたら、ピアノに余裕が持てるようになったというか、いい意味で落ち着いて演奏できるようになったんです。それがブランクを経たからなのか、高校生から大学生になったっていう大人の階段をまた1歩踏んだからなのかは分からないんですけど、なんていうか、演奏してる自分を上から見てる俯瞰できるような感覚になったんですよね。
順一朗 僕は、まだ上から見ているような感覚には至っていませんが、それでもやっぱり演奏するときに曲にゆとりが生まれたな、心の余裕があるなって感じることが増えました。1つの曲の中で、ちゃんと間を感じられる演奏ができるようになってきたという変化に、今ちょうど僕自身が気づき始めているところですね。
――コンサートでは、そうしたお2人の進化も聴きどころになりそうですね。では最後に、兄ーズが今後目指すものを教えてください
宗一郎 一番大きい将来の目標は、医師と芸術家の二刀流を実現することです。医師をしながら、ピアノの演奏活動もコンスタントに続ける人はあまり例がないと思いますが、だからこそ挑戦したいです。
順一朗 そして、ピアノの演奏で心も癒せる医師になりたいなと思っているんです。心と身体ってつながっていますから。
宗一郎 近い目標では、大学生になったので国内のツアーで全国制覇したいですし、海外での演奏活動も積極的に行っていきたいです。
順一朗 コンサートだけでなく、病院や福祉施設での演奏活動も海外でできたらいいなと思っています。どんな環境にいる方でも、音楽を楽しんでいただけるようにしていきたいんです。8月のコンサートでは、僕らが目指す子どもから大人まで、誰もが楽しめるコンサートを心を込めて準備しているので、全身で兄ーズの音楽を楽しんでいただきたいです。
宗一郎 本当にそうだよね。また、今回のツアーでは、高校生の兄ーズとは違った、大学生になった兄ーズ…、僕らの夢である医師という目標に一歩近づいた、“少し大人になった兄ーズ”をお見せできると思います。また、「感謝祭」では、写真撮影のお時間があったり、僕らの受験中のお気に入りだった“SEE THE SUN”のお菓子がプレゼントとして付いていたりと、今までにはなかったお楽しみもあります。ぜひ、一緒に楽しい時間を過ごしましょう!
インタビュー・文/橘川有子
掲載日:2025/7/29
「Piano Magical Land」公演情報│ローチケ[ローソンチケット]
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