クラシック

【インタビュー】兄ーズ│「Piano Land Spring」

【インタビュー】兄ーズ

【インタビュー】兄ーズ(山下順一朗・山下宗一郎)

春のピアノランドに、音の花が咲きほこる!
双子のユニット〈兄ーズ〉が響かせる
ピアノ連弾の優しくも心おどる世界へ‥‥

忘れられないネーミングのふたりから、春の響きがはずみだす。双子のピアニスト〈兄ーズ〉(読:あにーず)のリサイタル『Piano Land Spring』は、山下順一朗&山下宗一郎の双子による連弾ピアノが、春風をまとうように歌い走るコンサート。
モーツァルトの朗らかな《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》から、《ハリー・ポッター》《アラジン》組曲や《人生のメリーゴーランド》(『ハウルの動く城』より)など心おどる人気作まで、ピアノのコンサートは初めてというかたも優しく惹きこむプログラムだ。


宗一郎 僕たちのコンサートでは、クラシックやポップスなどいろんなジャンルの曲を演奏して、老若男女どんなかたでも楽しんでいただけるように演目を考えています。今回は3月のコンサートということもあって、卒業ソングなど〈春〉にまつわる曲も演奏します。

順一朗 クラシックは〈音の組み合わせ〉がとても綺麗な曲が多いイメージがありますし、ポップスには、もちろん綺麗なだけでなく、特にメロディやそのサビのつくりかたで、人の心をわしづかみにする凄さがあります。

宗一郎 クラシックには、スーツをしゃきっと着ているような〈端正な美〉というイメージがありますよね。その長い蓄積の先に生まれたポップスや、ディズニー映画の音楽などは、もっとカジュアルな感じになっていったイメージで。ですから、ポップスを弾くにはクラシックを勉強する必要がある、と僕は思っています。


◆〈兄ーズ〉にしか出来ないこと――双子ならではの深い意思疎通

物心つく前からピアノに向かってきた二人は、厳しい練習を重ねて才能を磨き、早くから連弾でコンクール入賞を重ねてきた。いつからか〈お兄ちゃんズ〉と呼ばれていたのが、成長してからは〈兄ーズ〉と名乗るようになり、高校2年生でプロ・デビュー。現在は、なんと二人とも現役の医大生として研鑽を積みながら(!)音楽家としての活躍も続けている二刀流だ。双子の連弾ならではこそ、という他人同士ではないからこそのメリットもあるのでは?

宗一郎 たとえば『ここは柔らかい感じだから、指の腹でねっとり弾く感じで‥‥』と言うだけでも、いざ二人で合わせてみると、やはり表現の雰囲気が似ていて、『あ、いいんじゃね?』ってなります。また、二人で演っているからこそ、順一朗が提案してくれる〈自分では気づけない表現〉にも気づかされます。二人で話し合いをしていても、〈この考えがあったか!〉と発見もあったり。

順一朗 うんうん。

宗一郎 コンサートでも、会場が熱く盛り上がって来ると、無意識のうちにテンポがアップしてきたりすることもあるのですが、それに順一朗が完璧に合わせてくれる。それが僕ら〈兄ーズ〉のスタイルなのかも知れません。ただ、双子だからこそ、お互いのどんどん意見を言い合える関係でもあるので、逆にそれがあだとなって、ケンカが勃発することもあるのが双子のデメリット(笑)。


◆音楽は心を強くする――ピアノと医学の二刀流を貫くふたり

ところで、先ほどちらっとご紹介したように、〈兄ーズ〉はピアニストであると同時に、二人とも2025年春に医学部に現役で合格。現在は医大生ピアニストとして、勉学に音楽にと多忙な日々を過ごしている。
どうして二人が、ピアノの腕を磨きながら医学の道も志したのかは、二人が生い立ちからデビュー後の活躍までを丁寧に語った著書『夢を奏でる ピアニストと医師の二刀流を目指す双子の物語』(KADOKAWA)にも詳しく記されている。二人が8歳のときに誕生した弟が難病を持っており、家族で助けあうなかで自然に兄たちも医療の道を志すようになったという。

順一朗 二刀流をやりきっていく、というのが僕たちの根底にある思いなので、今後も頑張っていきます。

宗一郎 悲しいことがあったら、ハイテンポな曲を聴いて前向きに頑張ろうと思ったり、過去を振り返るときにしんみりした曲を聴いて自分の世界観に入り込むことがあったり。〈音楽の力〉は無限大だと思います。

順一朗 僕は勉強するとき、集中するためにBGMで医療ドラマのサウンドトラックを流したりしているんですけれど、それを聴くと心が落ち着いて頭も使いやすくなる、という気持ちの変化があります。音楽で心がすっきりしたり綺麗になったり‥‥やはり音楽の効果は大きいのではないかと思っています。

宗一郎 がん細胞に対抗するNK細胞(ナチュラルキラー細胞)というのがあるんですが、これは笑うことによって活性化されるという話があったり、気持ちは病気も左右することがあります。その気持ちに影響するのは、やっぱり〈音楽〉かな、と思います。


◆ピアノで歌う、ピアノで響かせる――連弾に必要なテクニックとセンス

心に届き、心を深く動かす音楽を――そんな〈兄ーズ〉の二人が肩を並べて奏で続けてきた連弾は、ピアノの鍵盤の前に二人ぴったり並んで弾くもの。4本の手で同時に奏でるぶん、ソロよりも出せる音が倍になるだけでなく、弾ける音域も広くなる。

宗一郎 僕はいつも、連弾では〈プリモ(第1)〉という高いほうのパートを担当するんですが、オーケストラ曲でいうと、ヴァイオリンが演奏するところを、僕が弾くわけです。逆に、オーケストラではコントラバスなどが担当する低い音は、ピアノ連弾では〈セコンド(第2)〉という低いほうのパートを弾く順一朗が担当します。


いまオーケストラの例えで語ってくれたように、〈兄ーズ〉のふたりは、クラシックからポップスのヒット曲、アニメの人気作まで、幅広い作品をピアノ連弾で聴かせてくれる。なんでも連弾で、と言うのは簡単だが、人の心をつかむ演奏として響かせるには、やはり相当のテクニックとセンスが必要だ。

順一朗 たとえばポップスの曲を弾く前には、その作品のミュージックビデオを観て、世界観をピアノの世界へ落とし込むように考えて弾いたりしています。――歌は、発声した後でも抑揚がつけ放題ですから、それを、音がすぐ減衰してしまうピアノで完全に再現することは不可能なんです。その代わり、歌っている人の表情や声の大きさ、その歌が描写しているものなどから〈ここはこういう気持ちなのかな?〉といったことを、僕ら二人で汲みとって、ピアノで表現していくんです。


◆ピアノ連弾の豊かさ、繊細さ――〈兄ーズ〉の追究する表現

声のようには音が延ばせないピアノで、ヴォーカルの美しさも再現してしまう。どんなジャンルの音楽にも、ピアノ連弾の表現で親しく近づいてみせる。それが〈兄ーズ〉がデリケートな工夫を重ねているところでもあり、二人の演奏がコンサートやSNSを通して、広く共感を集めてきた音楽性の軸でもある。

宗一郎 歌がサビに向かってクレッシェンド[だんだん大きくなる]するところなども、原曲をよく聴くと歌いかたが微妙に違っていたりします。そうした細かい部分もピアノの表現に反映させていこうと、二人で追究しているんです。

順一朗 大きい音を出すときも、すぐに消えてしまう弾きかたもあれば、ちょっと伸びてゆくような響きなど、ペダルの踏みかたを工夫することで、いろいろな表現ができます。そういったところでも、歌の世界観を表現できるように頑張っています。

宗一郎 オーケストラ曲をピアノで弾くときも、より元のイメージに近い演奏を、と心がけています。ピアノは弾いた瞬間から音が減衰してゆくので、ヴァイオリンのように音を保って歌うことは不可能なんです。そこで、トリル[隣り合った音を素早く交互に鳴らす]で盛り上げていったり、元から大きな音を出しておいて、減衰しても綺麗に聴こえるように‥‥など工夫をしています。逆に、オーケストラではコントラバスなどが担当する低い音は、低いほうのパートを弾く順一朗が、短く弾くのか長めに弾くのか‥‥など、響きが原曲のイメージに近づくように工夫しているんです。


双子の二人は、このように繊細な表現を磨き上げ、誰でも知っているポピュラーな名曲たちを、この二人でなければ奏でられない表現で、響かせる。
クラシックから卒業ソングまで、〈春〉にまつわる曲も取り入れた今回のプログラムも、ピアノの魅力を楽しく体感させてくれるだろう。

宗一郎 〈春〉にまつわる音楽は、僕らも柔らかい音色で演奏します。


そんな微妙な音色の変化を実感できるのも、生演奏だからこそ。ライヴにしか生まれない躍動感に、春の到来を楽しんでみたい。


取材・文/山野雄大

掲載開始日:2026年3月19日


【インタビュー】兄ーズ
【インタビュー】兄ーズ│「Piano Land Spring」