超絶なテクニックに裏打ちされた華麗で情感豊かなプレーで、ロックファンからの信頼が厚いギタリスト、マーティ・フリードマン。昨年は、かつて在籍した世界的ロックバンドのメガデスと共演したり、自身にとって3年ぶりとなる新アルバム「ドラマ~軌跡~」を完成させるなどして大いに話題を集めた。現在は、アルバムを携えてワールドツアーの真っただ中だ。
キャリアを重ねるほど、精力的に音楽活動を続けるフリードマンが、今晩夏の大阪と東京で「マーティ・フリードマン Marty Friedman Plays Piazzolla And More Concert Hall 2025」に挑む。バンドメンバーは、ピアノとトランペットを操るジャズ界の気鋭・曽根麻央、ラテンミュージックに精通したバンドネオン奏者・三浦一馬、そして、フリードマンとも共演歴のあるクラシックギター奏者・猪居亜美といった豪華な面々だ。なぜロック界のレジェンドが、タンゴに革命をもたらしたとされるアストル・ピアソラの楽曲をコンサートで演奏しようと思ったのか、その意義について語ってもらった。
――ピアソラの楽曲をメインにしたコンサートを企画したのはなぜですか?
そもそもは、僕がTango Nuevoの祖であるアストル・ピアソラさんのご家族、とくにお孫さんでドラマー、ピアソラ演奏家でもあるダニエル・ピピ・ピアソラさんとご縁ができたのがきっかけです。ピピさんは世界中で演奏活動を行う中で、アストル・ピアソラさんの楽曲もたくさん披露しています。僕は幸運にもピピさんと知り合うことができ、10年前にアルゼンチンで行われたアストル・ピアソラのトリビュートコンサートに招かれ演奏する機会を得ました。
そうしたことから、僕はアストル・ピアソラの音楽を深く学ぶようになり、どんどんとファンになっていったのです。今では、ピアソラさんの音楽が自分の音楽のセンスにおいて深いところに根ざしていると感じるまでになっています。なので、僕にとって重要な音楽要素の一つとなったピアソラをメインにしたコンサートをやってみたいと思うようになり、昨年やっと実現できました。そのコンサートが本当に奇跡的な夜だったので、絶対にまた実現させたいと思ったのです。
――今回のコンサートでは、ピアソラとロックを融合させるのでしょうか?
僕はアストル・ピアソラの音楽をリスペクトしています。ですから、今回のコンサートは、ジャンルを融合させるのではなく、僕なりに解釈したピアソラの音楽を皆さんに聴いていただきたいと思っています。もちろん、多くの方は僕からロックをイメージすると思いますが、だからと言って無理やりジャンルに押し込んだり、混ぜ合わせるのではなく、僕というフィルターを通して自然に生まれる「ピアソラ・マーティバージョン」を聴いていただけたらいいなと思っています。
――今回のバンドメンバーである曽根さん、三浦さんとは、昨年9月の「MARTY FRIEDMAN LIVE 2024「DRAMA Volume 3」~Plays Piazzolla~」で共演していらっしゃいますね
僕がいくらアストル・ピアソラの音楽と深いかかわりがあるといっても、僕一人ではコンサートは成り立ちません。三浦さんはバンドネオン奏者で“ピアソラ命!”みたいな方で、すごく知識が豊富です。リハーサルなどで僕がちょっとした問いかけやリクエストをすると、すぐに自分の引き出しからいろんな音を選びだして即興で弾くことができる頼れる存在です。しかも、そのセンスが抜群なんですよ。技術があり、譜面通りに弾くことはもちろん重要ですが、僕は……少し大げさかもしれませんが、それ以上にコンサートではタッチが大事だと思っているんです。その点も、三浦さんのタッチは僕が求めるバンドネオンの音そのもので、彼と共演していると「隣にピアソラさんがいるのでは?」と思うほどでした。昨年のコンサートは、自分のライブでありながら、僕にとって耳のごちそうをたくさん受け取ったような贅沢な時間でもありましたね。
曽根さんとは、昨年のライブで初めてお会いしました。僕にとってピアソラと言えば、初期の代表作「アディオス・ノニーノ」ですが、あの曲はピアノの長いイントロのようなパートから入ります。ですから、その部分を曽根さんに弾いていただいたんです。というのも、あのパートは、高い技術はもちろんのこと、長い即興のような側面もあるので演奏者が込めた感情を知ることができるからです。曽根さんの演奏を聴いたとき、僕は本当に鳥肌が立ちました。ライブ前のリハーサルでも涙が出そうなくらいに繊細で心揺さぶる演奏だったのを、今も鮮明に覚えています。
――ゲスト・ギタリストの猪居さんとは、これまでに共演を重ねています
はい。猪居さんは、若き素晴らしいガット弦のギター(以下、ガットギター)のマエストロだと思っています。彼女はガットギター奏者でありながら、ロックの心をきちんと分かち合えることが何よりもうれしいですし、非常に稀有なクラシックギター界の演奏者だと思っています。ときに、僕のようなロックギタリストもガットギターを弾いたりすることはありますが、ロックを愛しているからガットギターを追求していくことは難しく、彼女のようなマエストロにはなれないんですよね。だから、僕にとっての憧れの存在でもあります。
今回は、国内外に誇る素晴らしい音楽家の皆さんが、僕の企画したコンサートのために集まってくれます。僕のキャリアの中で最高のミュージシャンたちに囲まれながら演奏できるのは今から楽しみで仕方がないですし、僕自身そうした音楽を浴びながら演奏できることが信じられないくらいうれしい気持ちです。
――これまでのお話から、コンサートへの並々ならぬ情熱を感じます。コンサートで特に大切にしていることは何ですか?
僕にとって、コンサートは特別で、最も大事なものです。ありがたいことに、日本では様々な活動をさせていただいていますが、僕が圧倒的に集中し力を注いでいるのはコンサートなのです。実は、コンサートで演奏している最中は完全に無意識になります。たとえば、開始前に「ちょっと調子が悪いな」と思っていても、始まってしまえば全く関係なくなるんです。必ずや、1000パーセントの力で頑張ることができるし、毎回自分のベストを出し尽くしています。だって、その場にいるお客様と一緒に過ごせるのはたった2時間だけだから、精一杯楽しみたいし、楽しんでいただきたいという気持ちになるのです。
もちろんコンサートで演奏するには、たくさんのエネルギーを使いますが、その分たくさんいただいてもいるのだと感じます。そうやってお互いにエネルギーを分かち合っているような、すごくいい循環が生まれているのがコンサートなのです。
――今後も、ますます精力的に活動していくことになりそうですね
ええ。僕は、音楽のために生まれた気がしているんですよ。いつも自分の理想の姿を追いかけていますし、キャリアが長くなればなるほどその理想に近づけているという感覚や手ごたえもあります。そして、もっとうまくなりたいという情熱が芽生え、それが消えることがないのです。
いまは、昨年リリースした最新アルバム「ドラマ -軌跡-」の世界ツアーを行っているところなので、まずはその音楽をさらに多くの方々、そして、遠い所にまで広げていきたいと思っています。そうした音楽の旅を続ける中で、新しくチャレンジしてみたいと思えるものとも出会えると思いますし、そうした多様な音楽的な経験や発見を重ねて自分の音楽を高めていきたいと思っています。
ピアソラさんの音楽を演奏させていただくことも、僕にとってはとても大事な音楽的経験や挑戦の一部です。そして、先ほども言ったように、それは僕にとって素晴らしい共演者と一緒に奏でるご褒美のような時間でもあります。正直、「なぜ、こんな素敵な人たちと一緒に演奏できるんだろう。そんなラッキーなことがあっていいのか!?」って、夢みたいな気分なんですよ(笑)。本当に僕は恵まれているなと思いますね。
きっと、僕の音楽をずっと聴いてくださっている方には、今までに見たことがないような新鮮なマーティ・フリードマンをお見せできると思います。また、ピアソラさんの音楽に少しでも興味があったり、好きな方にとっても素晴らしい体験になると思います。ぜひ、夢のような時間を一緒に楽しんでいただきたいですね。
取材・文/橘川有子
掲載日:2025/6/6
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