故郷・徳島を皮切りに、名匠シェレンベルガー率いる名門オーケストラとのツアー
今年6月から7月にかけて、ドイツの名門オーケストラであるベルリン交響楽団と共演するピアニストの石井琢磨。東京藝術大学を経てウィーン国立音楽大学で研鑚を積んだ石井は、「クラシックをより身近に」のコンセプトのもと、YouTubeでも話題と人気の気鋭のピアニストである。今回演奏するのは、石井の魅力が存分に味わえるに違いない、シューマンのピアノ協奏曲。そのツアーを前に、意気込みを訊いた。
◆初めてづくしのシューマン
――ツアーのスタートまでに数ヶ月ありますが、シューマン作品への思いやオーケストラとのアンサンブルなど、いろいろなヴィジョンが頭の中に湧き出ているのではないでしょうか?
自分にとって初めての海外オーケストラとの共演で、しかも日本でのツアーの前に、先ずベルリン・フィルハーモニーホールでの公演があるんです。ベルリンの、あのホールで弾けるなんて、演奏家にとっては聖地とも言える場所なので、気持ちが引き締まる思いでいます。
――そのベルリン・フィルでは首席オーボエ奏者だったハンスイェルク・シェレンベルガーとの共演は、カラヤン時代からシェレンベルガーを聴いている私としては羨ましい限りです(笑)。今は指揮者としても活躍しているシェレンベルガーに関しては、どのようなイメージを持たれていますか?
昨年お会いする機会があって、ランチをご一緒したんです。なのでオーケストラとのタイミングや部分的な表現など訊きたいことがいっぱいあって、質問をたくさん用意していたんです。ところがイタリアに家を新築したとかで、何だか話が逸れて、具体的なことは上手くはぐらかされました(笑)。ただ一つ、毅然とおっしゃったことは、『若く弾いては駄目。君は若いけど、若々しく弾いては駄目だよ』と。その真意を考えながら練習しているところです。
◆ウィーン仕込みのピアニストと大国ドイツのオーケストラ
――ベルリンは旧東西ドイツの中心地で、かたや石井さんは“音楽の都”と言われるオーストリアのウィーンで学ばれました。ともにドイツ語を話す両国ですが、やはり違いも感じられるでしょう?
本当におっしゃる通りで、ドイツの中でもベルリンは、古いものと新しいものが共存した、コスモポリタンな感じです。反対にウィーンは、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスの時代の香りがいまだ残る街。今回のシューマンのコンチェルトに関しても、ドイツ人は音節をハッキリ明確に弾きますし、ウィーン人は自由。そういう意味でも、今回はオーケストラとのアンサンブルもとても楽しみにしているんです。
――そのシューマンのピアノ協奏曲ですが、どういうところが魅力でしょうか?
シューマンの性格が随所に感じられる、いろいろな思いがモティーフとして絡み合った複雑なところでしょうか。いろいろな思いのモティーフというのは、いろいろな心情や表情ということで、一瞬も聴き逃せない面白さがあります。特に好きな箇所は、第1楽章の主題。妻クララへの思いが感じ取れるので、弾いていても聴く立場でもグッときます。でも、クララのことが好きなのに、何で短調なんでしょうね(笑)。そういうところです、シューマンの不思議な魅力は。クララへの思い、恋心など、聴きながら見つけてほしいです。
――シューマンはショパンと同じ1810年生まれですが、二人のピアニズムに関して、ピアニストとしてはいかがでしょうか?
シューマンはとても弾きづらいんですよ。そこはピアニストとしてピアノという楽器を熟知していたショパンとの大きな違いでしょうね。オーケストレーションを見ても、たとえばシューマンの交響曲『ライン』など、何でこういう編成に?という箇所もあります。そうは言っても、弾きづらいからこそ、そこにシューマンの強い思いを感じます。でもホント、弾きづらい部分もあって(笑)。
――では例えば、シューマン、ショパン、シューマン夫妻とも親交が深かったブラームス、この3人から同日同時刻のランチの誘いがあったら、誰と行きますか?
うわぁ、難しいなぁ!でも一旦、シューマンに返事をするかな。曲について訊きたいことがたくさんあるし(笑)。ショパンには『シューマンに会えるよ』、ブラームスには『クララも来るよ』と言って、結局みんなと会いたいです(笑)。
――さて、ツアーは石井さんの故郷、徳島から始まります。徳島の魅力を教えて下さい
今回の公演は、自分の故郷からスタートするというのも嬉しく、また誇らしい思いもあります。というのも、後半に演奏されるベートーヴェンの『第九』(交響曲第9番)。この曲は、日本で初めて演奏されたのが徳島なので、とても感慨深いです。そして徳島は海鮮が豊富でとても美味しいので、あ、すだちも特産なので、音楽でも食でも徳島を堪能していただきたいです。
――ツアーのご成功祈念と、また公演も楽しみにしています
ありがとうございます。自分でも、今からワクワクしています。
取材・文/上田弘子(音楽ジャーナリスト)
掲載日:2025年3月13日
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