15歳でフランスに渡りパリコンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)に満場一致の首席で入学。パリエコールノルマル音楽院の最高課程を修了、スコラカントルム音楽院コンサーティスト課程を満場一致の首席で修了。フランス市立地方音楽院のピアノ科で教鞭を2年間執り、12年間の留学生活を終え日本に帰国。以来、国内外で演奏活動を続ける、栗原麻樹。
赤髪のピアニストとしてSNSでも人気を博しており、歯に衣着せぬコメントとさっぱりとした性格でも支持を集める。
2025年4月に東京にて、ラヴェル生誕150周年を記念して、オール・ラヴェルプログラムのリサイタルに挑む栗原に話を聞いた。
――栗原さんは、ほかの日本の演奏家よりも、ずいぶん早い時期からパリ国立高等音楽院で学んでいらっしゃいます
中村紘子先生から「一日でも早く海外へ行きなさい」と、背中を押していただきました。
――今回のリサイタルは、すべてラヴェル作品によるプログラムですね
ずっとフランスに留学していたこともあり、ドビュッシー、ラヴェル、それからプーランクなど、フランス人作曲家の作品を最も得意としています。今年はラヴェル・イヤーということもあり、この機会にラヴェルを一挙に演奏できることを、とても嬉しく思っています。
――ラヴェルの作品から、リサイタルでは5曲が披露されます
ずっと演奏している大切な曲たちです。
私は15歳でパリに留学しましたが、《ソナチネ》などは日本でもずっと弾いていました。若い頃から演奏してきて、留学して培った感覚的なものや経験などを経て、その時よりもまた違った解釈になるなど、その変化や成長を自分自身で感じることができるのも面白いですね。
音楽って、1回弾いたら終わりというわけではありません。演奏するごとにとても変化しているし、その成長は時間芸術ならではの音楽の面白さ、深さだと思っています。
――リサイタルのタイトルは「ラ・ヴァルス」。プログラムにも《ラ・ヴァルス》がありますね
17~18歳のころに初めて弾きました。《鏡》も、10代で演奏した作品…思い出深いですね。
このプログラムの軸となっているのは、やはり《ラ・ヴァルス》。この作品には、ラヴェル自身の管弦楽版がありますけど、このリサイタルでは私自身が音を加えるなどしてアレンジして演奏します。
私は、もともとオーケストラ作品を聴くのがとても好きです。これまでのリサイタルでも、チャイコフスキーやリムスキーコルサコフらのオーケストラ作品をピアノ1台で演奏してきました。その経験を踏まえ、オーケストラ特有のサウンドをイメージしてアレンジしました。ラヴェルは「オーケストラの魔術師」と言われていますけれど、そこを意識してアレンジしました。特に、曲の終盤は華やぎに満ちています。うまくできていると思うので、ぜひ聴いていただきたいですね。
――フランス音楽の魅力を教えてください
空気感や音色の多彩さは、フランス音楽特有です。
例えば、ドイツ語は、私とあなた…ふたりで会話しているような、何か物語性を感じるのですけれど、フランス語は、私ではなく、第三者の物語を見ているような感じがしています。
フランスで生活していると、フランス人って近い関係なのに少し冷めていると言いますか、皮肉っぽくて、クールを気どっているのですよね。そういうところがフランスの音楽にも反映していると感じます。どっぷりその感情に入っているのではなく、そこを俯瞰で見ている感じですね。むしろ、その距離感が心地良いと思います。
フランス音楽には、気候や季節、自然などの絵画的な風景が感じられます。
――読者の皆様にメッセージを!
リサイタルで演奏するのは、私がずっと弾き続けてきた作品です。その演奏は、もちろん大きく変化していると思います。また、私でしか表現できない色彩感はあると思います。フランス音楽について、淡いイメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。私の感覚では、ラヴェルの音楽はしっかりとしているし、色合いもマーブル調と言いますか、パリっとしています。その色彩感を、「道化師の朝の歌」などもそうですが、オーケストラ編曲されている曲もありますので、オーケストラのイメージも含め、ピアノ1台で多彩な音が出せることを楽しんで聴いていただけたらと思います。
「ラヴェルの作品を知らないけれど大丈夫かな」「クラシック音楽のコンサートってどうかな」と思う方はとても多いと思いますが、私にすべてを任せてほしいという気持ちですね。曲にはそれぞれの物語があります。その一つひとつの物語をぜひ聴いていただきたい…そのことを強く思っています。
取材・文/道下 京子
掲載日:2025年3月1日