津軽三味線とチェロの日本発、世界初のセッション・ツァーを全国展開中
津軽三味線の第一人者、上妻宏光と日本が世界に誇る名チェリスト、宮田大が日本発、世界初のセッション・ツアーを全国展開中だ。津軽三味線とチェロ。同じ弦楽器とはいえ、まるで性格の異なるこの二つの楽器による驚きのコラボレーションは、そもそも、どうして実現したのだろうか?
宮田 上妻さんとは何年か前、テレビ朝日の『題名のない音楽会』の出演時に最初にお会いしました。そのときは別々の演奏でしたが、2022年に上妻さんのリサイタルに呼んでいただいて、今のセッションツアーでも演奏している『セゴビアの夜』と『NIKATA』の2曲をご一緒したのが共演の始まりです。『NIKATA』というのは、民謡の秋田荷方節の上妻さん編曲版です。上妻さんの三味線は、一撥一撥に魂が込められていて、まさに「一音入魂」だと感嘆しました。打ち上げの席でお酒と美味しい物をいただきながら話がはずみ、それがこのセッションツアーのきっかけとなりました。上妻さんはグルーヴ感をとても大切にされる方なんです。その時その時のセッションによって、微妙に異なる音のうねりが生まれて、上妻さんがその渦の中心にいらっしゃる感じですね。そこに惹かれています。
上妻 宮田さんの生演奏は前から聴いたことがあり、素晴らしいチェリストだと思っていました。津軽三味線は本来、即興演奏を由来とします。縦の線ははっきりしていますが、ハーモニーはほぼないと言えます。チェロは旋律線を横に歌っていくことのできる楽器で、ハーモニーも作れます。この二つの異質の楽器の共演はやってみないとわからないことも多く、実際に合わせてみていろいろな発見もあり、お互いの相性の良さにもびっくりしました。津軽三味線とチェロの音が重なり合い、交じり合って、それまでにない音響効果が生まれるというのは、世界中で例をみないコラボレーションだと思います。それで、太陽光に照らされてできた地球の影が月に映って、月の形に思いがけない変化の生じる現象になぞらえ、このセッションツアーのタイトルを「月食」としました。
上妻宏光
宮田 チェロにはさまざまな奏法もありますが、基本的には、弓で弦をこすって音を出す擦弦楽器ですから、音が横へ柔らかく流れます。一方、三味線は撥で弦をはじく撥弦楽器ですから音の出方が縦で鋭角的です。伝わるスピードもチェロよりもずっと速いんです。ですから、僕たちはそこを考えに入れ、互いによく聴き合って、例えばですが、上妻さんがわずかに撥のスピードを加減したり、僕がほんの少しだけ早く出たり、というようにして調整し合っています。そこがライヴ・セッションの面白さでしょう。チェロの弦は4本、三味線の弦は3本です。このたった7本の弦の共演は、少ない粗材による極限の小規模アンサンブルです。それだけに、お客様たちも音に集中して身を乗り出すようにして聴いてくださっています。
上妻 セッションでは、先ほど話に出た『セゴビアの夜』や『NIKATA』、それから僕のソロ曲では『紙の舞』といった自作曲も採り上げています。曲をつくるときに意識しているのは、津軽三味線本来の即興性も生かしながら、100年後でも再現でき、聴いていただける曲ということですね。
宮田 作曲家の篠田大介さんに書いていただいた『絃弦相搏』という曲も演奏します。これは「げんげんそうはく」と読み、中国故知からきた熟語「龍虎相博」(竜と虎が戦うように強い者同士が激しく戦うこと)に由来します。糸へんの「絃」というのは三味線の絃、弓へんの「弦」というのはチェロの弦のことなんですが、同じ弦楽器でも性質の異なる三味線とチェロが出会った時に、博覧会か博物館のような、多彩で無限な相乗効果が生まれる、と言う意味から名づけられたタイトルです。作曲の篠田さんはこれまでにもさまざまな楽曲の編曲をお願いしていた方で、僕たち二人のそれぞれの長所をしっかり汲み取って、それを生かした曲に仕上げてくださいました。今までにない奏法も採り入れられて、衝撃的な曲になっています。今年の5月に初演したときは爆発的な反響を呼びました。僕は西洋クラシック音楽楽器の奏者ですが、日本に生まれ、日本人のソウル(魂)を持てたことを心からよかったと思っています。それを演奏に反映させたいですね。
宮田大
上妻 自分でない人が作った曲を演奏するのはなかなか難しいですが、作曲の仕方やあらゆる楽器の演奏法を熟知している方の書いてくださった作品を演奏するのは、思わぬ発見もあり喜びもあります。
最後に2人に、これからのセッションツアーに来てくださる聴衆に、どんなところを聴いて欲しいか、一言ずつ語ってもらった。
宮田 三味線とチェロが組んで、これまでになかった新しいことをする、その歴史的現場の生き証人となっていただきたいと思います。
上妻 日本人ならではの新感覚を是非味わってください。会場でお待ちしています。
取材・文/萩谷由喜子(音楽評論家)
掲載日:2024/11/20
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