ジブリ作品などへの参加でも知られるヴォーカリスト・麻衣。彼女が音楽監督を務める女声だけのコーラスグループ、リトルキャロルとともにコンサート「BEAUTIFUL HARMONY 麻衣 with リトルキャロル」を開催する。公演に臨む麻衣に、ステージへの意気込みや合唱への想いなどを語ってもらった。
――今回のコンサートはどのようなものになるのでしょうか?
去年に発売したアルバム「BEAUTIFUL HARMONEY」の曲を全曲お届けするコンサートです。私は5歳からNHK東京児童合唱団に入っていまして、その卒団生で作った合唱団のリトルキャロルと一緒にアルバムを制作しました。女性ボーカルと合唱のこういう組み合わせって、実は日本ではあんまりない組み合わせだと思うんですよ。私がメインで歌っているんですが、合唱もすごくフィーチャーされていて、とても珍しい編成だと思っているんですね。リトルキャロルの27年の集大成をお届けしたいと思います。
――ちょうどコロナ禍の中での制作となりましたが、ご苦労もあったのではないでしょうか?
PCR検査を受けてやっと参加できるという形でしたし、団員も子どもが居たりして風邪をもらったりですとか、それぞれに体調管理はしていても大変でしたね。全員がそろって歌えることがどんなに幸せなことかと思わされました。一方で、コロナ禍でなければできなかったこともありました。いい意味ではなかったかも知れませんが、ポジティブに捉えるとするならば、臨場感として、あの時にしか出せないものが録音として残ったということは、素晴らしいことなんじゃないかと感じています。
――オンラインでの合同練習もされていたそうですね
そうですね。あれは繋がっているけど、個人練習みたいなものでした。誰か1人を当てて、「誰々さん、ここからここまでの小節を歌ってみてください」みたいな。みんなも当てられるも知れないから緊張感をもってやれましたし、結構よかった面もたくさんありました。当たり前ですが、予習すると歌えるようになるんだと実感しましたし、それぞれに予習の癖がつきましたね。コロナ禍になっていなかったら、そういう練習にはなっていなかったかもしれません。
――アルバムにはたくさんの楽曲が紹介されていますが、少しだけご紹介をお願いできますか?
そうですね。「ひこうき雲」については、実は歌ったことが全然なかったんです。映画「風立ちぬ」で聴いて、ずっといい曲だなと思っていたんですけど…。例えば、どういう時に音楽を聴くか、私自身の場合も含めて考えたときに、楽しい時にももちろん聞いてもらうのもいいけれど、悲しい時に寄り添うようなものも必要だなって思うんですよね。それはずっと思っていることです。3分とか4分とかだったとしても、それで心がちょっと軽くなるような瞬間があればいい。それが私が歌う時の目標ですが、実際に歌う時にはそういうことを考えながら歌っているわけではなかったんですね。でも、「ひこうき雲」は歌うたびにそういうことを考えさせてくれるんです。生と死を見つめた歌詞ですが、それでいてどこか懐かしいし、温かい。すごく良くできている、素晴らしい作品だと思いました。
あと、「ひまわりの家の輪舞曲」という曲も、生と死を考えさせられる曲です。もともとは宮崎駿監督のお母さまがご病気になられたときに、ずっと「お料理したい、お洗濯をしたい」とおっしゃられていたそうで、そんな想いを歌詞に込められたそうなんです。「♪おむかえはまだこないから その間に一寸だけ歩かせて」という歌詞があるんですが、この「おむかえ」はお出かけしていてのお迎えとかではなく、天からのお迎えという意味なんですね。ただ、私がこの曲を初めて歌ったのはおそらく14~15年前だったかと思うんですけど、当時は今よりも若かったので、そういう私が歌うと「おむかえ」があんまり暗くならずに、幼稚園のお迎えとかそういう感じに聴こえたようなんですね。今、お聴きになるとどうなるか分からないですけど。そもそもこの歌詞は、曲を作る際にもかなり議論があったところで、「おむかえ」という表現が具体的すぎるんじゃないか、その時はまだ来ないから、とかオブラートに包んだ方がいいんじゃないか、と論争があったんですね。でも私が歌うことで、印象が明るくなったから「おむかえ」で行きましょう、となった部分だったんです。「おむかえ」は人間であれば誰しもが通らなくてはならないこと。そこに向き合いながらも、ポジティブにとらえられるこの曲は、改めていい曲だなと感じました。そういう感じで、1曲1曲にすごい発見がありましたよ。それに、これだけ合唱が入ると私がひとりで歌うよりも良いな、と感じることも多かったです。
――麻衣さんが歌に興味を持たれたきっかけは?
やっぱり「ナウシカ・レクイエム」ですね。すごく楽しかった。バレンタイン近くのすごく寒い日で、当時の私は中耳炎がすごかったので、鼻もあんまり調子が良くなくて。歌えるのかな…と思いながら恐る恐る、なんとか歌いました。1人でレコーディングブースに入ったら、怖くて泣いてしまって…きっと周りの大人はドキドキしていたと思います。それで母に隣に入ってもらって、そしたら怖かったのがだんだんとものすごく楽しくなってきました。歌った後にブースから出て、これはこういう場面で使われるものなんだよ、と教えてもらったんですが、その場面のナウシカが悲しそうで…私、すごく楽しく歌ったけど大丈夫なのかな?と思ったのを覚えています。それが私のルーツというか、音楽に関する最初の記憶ですね。歌が凄く楽しかったこと、そして楽しくないシーンにも音楽があるということ。そういうことを感じて、また歌いたいな、と思いました。その年の暮れに、NHK児童合唱団のコンサートを聴きに行って、入りたいと思ったんです。
NHK児童合唱団は環境としては最高です。定期的にコンサートがあって、先生もこのコンサートに向けて頑張りましょう、という感じで週3回くらいでNHKに通っていました。もう、そこに行けばよかったんです。お友達もたくさんいるし、好きな歌は歌えるし、とても楽しい状況でした。でも、高校2年生で卒団なんですよ。今まで用意されていた”歌う場”がなくなってしまうことに、改めて現実として突きつけられて、それで同級生と一緒にリトルキャロルを立ち上げました。高校3年生の4月にはリトルキャロルを結成してボランティアをやるようになりました。とはいえ18歳で右も左もわからないですから、友達が呼んでくれた幼稚園で歌ったり、いろいろな伝手をたどってボランティアで歌ったりしていました。そういう状態なので、誰が何をやるとかが決まっていたわけではないんですけど、私自身は選曲するのも好きだったし、父(久石譲)の影響もあってコンサート制作とかのノウハウもなんとなくはあったので、20歳くらいから自主公演をやるようになりました。そのあたりから、自分でコンサートを作って、皆さんに受け入れてもらえるような合唱として旅出っていく…そういうことをいろいろと考えるようになったら、もう辞めるという選択肢はなくなりました。それから気づいたらもう28年やっていましたね。
合唱って、個性は消すけれど、自分のできる最大限の個性を出さないと成立しないんですよね。この矛盾を合唱は抱えていて、最初のナウシカの話じゃないですけど、楽しそうに歌ったら悲しいシーンだった、とかそういう矛盾にもつながってくるんじゃないかな。そういう正反対のギャップを合唱って持っているんじゃないかと思います。
――今後、挑戦したことはどのようなことでしょうか?
やりたいことはたくさんあります。例えば、年齢的にも” 2世”が生まれてきていて、5歳6歳になる子も多くなってきたんですよ。その子たちにもちょっとずつ一緒に合唱ができるようになったらいいな、とか。一緒に親子コンサートができるようになったら嬉しいですね。昨年のコンサートくらいから子どものセクションを作ったりもしているんです。
きっかけになったのは、ARKキッズChorというイベントでした。ARK Hills Music Weekの一環でやらせていただいたんですが、子どもが合唱をする企画で、キッズコーラスを教えるというのはまた違う発見でしたし、私も合唱で育ったので未来の子どものためにもすごくためになると思ったんですよね。これからも、そういう子どもに触れる機会が増えていけばいいなと思っています。そして、私自身も、何歳になっても続けていたいですね。どんな形であれ、ずっと死ぬまで続けていけたらと願っています。何歳になっても、歌えますし、小さなことでも大きなことでも、続けること、そして受け継いでいくことはとても大切だと思っています。
――公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします
リトルキャロルが長い間培ってきた歴史が詰まったコンサートです。この声の集まりや声の厚さを、ぜひ幅広い年代の方に聴いていただきたいと思っておりますので、ぜひ会場にお越しいただければと思います。
取材・文/宮崎新之
麻衣 with リトルキャロル Beautiful Harmony 公演情報