和楽器の若手アーティストとして、大きな注目を集め続けている箏曲家・LEO。彼が自身初となる”全曲箏独奏によるフルコンサート”を開催する。「LEO 箏リサイタル2022 -うたと間 -」と題し、箏の過去・現在・未来を繋ぐような壮大なプログラムに挑むという。なぜ彼は今、このような挑戦をするのだろうか。話を聞いた。
――今回は全曲、箏独奏によるフルコンサートとなっており、ご自身でも初めての試みとお聞きしました。どんなお気持ちで臨むコンサートになりそうでしょうか
まずは、体力的にも、集中力という意味でも、チャレンジングなものになると思っていますが、今は楽しみな気持ちですね。これまで避けてきた楽曲などにも挑戦しますし、自分の中でも心境の変化があったので、このような形で臨むことにしました。
――どのようなお気持ちの変化があったんですか?
大学で学んでいるときも、「なぜ、そんなに頑張っているんですか?」と聞かれることがよくあって、ずっと『お箏が好きだから』と答えていましたが、その割には自分の中にモヤモヤがあったんです。それで、今年の頭くらいにあるコンサートでフルート奏者の多久潤一朗さんとご一緒する機会がありまして、その時のお話の中で気づいたんです。僕は、お箏だけが好きなんじゃなくて、音楽が好きだったんだな、って。「お箏が好き」だけじゃなく「音楽が好き」でいいんじゃないかと思えたんですね。
もちろん、お箏は自分の表現したい音楽を出すには、欠かせない体の一部になっています。でも、自分の中で”好き”の固定概念を1度崩すことができたら、また違った見え方ができるようになったと思うんですね。今まで避けてきた楽曲たちも、また違った視点で、”音楽が好き”な今の視点で見えてきた気がしたので、今回はこのような内容のコンサートになりました。
――今まで避けていたという曲も含め、お箏の古典から新作、バッハのようなクラシックまで非常にバラエティに富んだ選曲になっています。プログラムに関してはどのような想いで選ばれましたか?
宮城道雄先生の曲に関しては、今までもたくさん弾いていますが、今回の「手事」はその中でも本当に名曲というか…難しくて、弾くときには覚悟を持って弾く曲です。そのほかにも、同じように覚悟が必要な曲があります。今回、コンサートの副題に「-うたと間-」としています。僕自身が経験として身に染みている音楽の感覚は、日本の音楽そのものです。中高生の頃から、大学に入ってからも、ずっとそのような音楽を第一に学んできたので、間の感覚、音色の感覚、フレージングの感覚…感覚として染みついているのは、邦楽の表現方法です。
それと同時に、僕は昔からクラシックをはじめジャズやポピュラーミュージックも聴いてきました。最近は、クラシック奏者の方とご一緒する機会のほうが多いくらいです。そのように共演を重ねる中で、クラシック的な抑揚のつけ方や歌い方も自分の中に表現として染みついてきました。その両方を、自分なりの配合、自分なりの解釈で演奏できれば、と考えています。「うた」は日本の「うた」という意味合いとともに、西洋的なメロディーを歌う、という意味のニュアンスも込めています。対して「間」は日本的な音楽の価値観ですね。その2つを今までも融合させてきたんですが、それをどのように調和させていくのかが今回の自分の中の課題ですね。これが日本、これが西洋とかじゃなく、新しい1つの音楽ジャンルとして調和させることを、目指しているプログラムです。
お箏も13絃、17絃、25絃の3種類を演奏します。音色の違いはありますが、2時間のプログラムを、(伴奏や共演者を入れず)お箏だけで全て聴いていただくのは、自分としては本当に初めてなので、そういった点でも大きな試みです。日本の音楽は音の無いところがすごく大事というか、音の無いところに宿る命のようなものがあるので、そういう部分も無伴奏だからこそ感じていただける部分じゃないかと思います。
――いろいろなチャレンジと言えば、テレビ朝日「題名のない音楽会」では、いろいろな方とコラボしたり新たな楽曲に挑戦されたりしていますね。23日の放送ではアニソン特集にご出演されているようですが、アニメはお好きなんですか?
実は、おそらくクラシック界で一番のアニメオタクで、誰にも負けない自信があります。なのでアニメソングの良さを語り始めたら、もう止まらなくなってしまうんですけど…(笑)。そうですね…アニメではないんですけどYOASOBIさんの「夜に駆ける」という楽曲がありますが、あの曲は小説を基に書かれているんですね。楽曲を聴くだけでもなんとなくは想像がつきますが、小説を読んでみると、曲への理解や表している感情がすごく明確になる。想像力も膨らんで、歌詞の意味や音楽の構成が何倍も楽しめるんですね。音楽とストーリーがリンクしていると、本当にすごく膨らむんですよ。アニメソングではそれがより出ていて、アニメのストーリーやキャラクターの心情と、歌手の方の歌い方や音楽の流れを重ねて聴くことで、普通の楽曲とは違う楽しみ方ができると思います。これまであんまり出していなかったんですけど、今回の放送でバレちゃいますね(笑)。いつもの3倍くらい饒舌にしゃべっているので「あれ?」と思われる方がいるかもしれないです。
――LEOさんはファッションもお好きとのことで、衣装もご自分で選ばれることが多いとお聞きしました。今回のコンサートでは、どんなイメージをされていますか?
今回は、調和がキーワードになっているので、古典と西洋とが、どっちとも取れるような洋服でいけたらいいですね。でもあまり主張が強すぎず、余白があるものにできたらと思います。そして、音楽の邪魔にならない洋服ですね。曲の世界を伝える、添え物というか一つのツールになればと思います。
――今、感じている音楽家としての今後の課題はなんでしょうか
今まで以上に、ジャンルにとらわれる必要はない、ということですね。ひとつのサークルに入れていることは、安心感があって居心地もいいんです。でも、僕が尊敬している音楽家は、そのサークルには入っていない。例えば坂本龍一さんが僕は大好きなんですが、彼と音楽を一緒にやってきた仲間や彼を追ってきた人はいるかもしれないけれど、最初からどこかのサークルに入ろうというよりは、自分だけの音楽を作ろうとしてやってきた結果だと思うんですよ。
だから、自分の音楽だ、と言えるものしかやりたくはありません。全然違うジャンルのものを持ってきて、ただ一緒にやりました、というだけでは自分の音楽とは言えない。それをどうやって拡大していけるか、こちらから広げていこうという意識を常に持っています。まずは自分の中から生まれてきたものを大事にしたいですね。
自分の世界をつくるためにも、いろんな要素を取り入れて、自分の音楽にしていく。それは、融合させるというよりも共存させる、調和させるんです。そのバランス感覚が今回のコンサートにもつながりますし、今後磨いていきたいところですね。そこが、ちょっとずつ見つかってきたような感覚でいます。
でも、生のまま、お箏1本だけでやることを捨ててしまったら、演奏家としては向上できない。それは10代の頃からずっと、お師匠から言われていることで、実際に僕もそう思います。そこがコアで、0地点。それを忘れずに、今後もやっていきたいと思います。
――最後に、コンサートを楽しみにしているファンにメッセージをお願いします!
僕の中でもまだ模索中ではあるんですけれども、古典と現代の融合ですとか、西洋と東洋の邂逅とか、色んな捉え方があると思います。その意味を僕なりに解釈して、1つのコンサートのなかで表現できればと思っています。日本人としても聞きどころがあると思いますし、人種だったり時代だったりを超えて1つの純粋な「音楽」として聞いていただければ、何か面白さを感じてもらえるんじゃないかなと思っています。ぜひ、お越しいただけますとうれしいです。
インタビュー・文/宮崎 新之