© Yusuke Ozawa
クラシックギター奏者の猪居亜美が、実に個性的なアルバム「My Immortal」をリリースする。ロックやメタルのナンバーをアレンジして演奏するコンサートシリーズ「CLASSIC×ROCK」から、こだわりのレパートリーを音源化したもので、彼女のロック・メタルへの愛が込められた一枚となっている。4月・5月には、リリース記念ツアーも敢行する彼女に、楽曲への想いなどを聞いた。
――新しいアルバム「My Immortal」が4月10日にリリースされますが、こちらはどのようなアルバムになっているのでしょうか?
今回はすべてメタルバンドの楽曲を、クラシックギターアレンジして収録しています。私が10代の時から聴いていた大好きなバンドの楽曲を、クラシックギターで弾いたら綺麗な響きになったり、面白いアレンジができたりするんじゃないかという想いは以前からあって、どの楽曲も、どのバンドも大好きなものばっかりを詰め込んでいます。その中でも、タイトルにはEvanescenceの「My Immortal」を選びました。曲自体ももちろん大好きなんですが、自分の中で”不滅なもの”、”消えないもの”という意味合いとしても、タイトルとしてすごくいいと思ったんです。私はクラシックギターの奏者ですが、ロックもメタルも好き、という音楽への気持ちを込めたアルバムタイトルとして、つけさせていただきました。
――2022年からコンサートでクラシックとロックを掛け合わせた楽曲を手掛けるようになったとお聞きしました。コラボさせた楽曲を演奏するようになって、改めて気づいたロックの魅力は?
始めた頃は、クラシックギターでロックやメタルを弾くってどういう曲をやればいいんだろう、どういうアレンジをしたらいいんだろうと、頭を抱えて抱えながらスタートしました。でもやっぱり弾いてるうちに、激しい曲ももちろん好きなんですけれども、やっぱりバラード作品で心に訴えてくるものがある曲を、クラシックギターで表現するっていうのがすごくマッチするなと感じるようになりました。すごく繊細な色で分けることができる楽器だなっていうところを感じられたんです。そこから反対に激しい曲でも、エレキギターの歪ませたギターソロなどを、どうやってクラシックギターで表現してみようかと試行錯誤する期間が、すごく楽しくなりました。ボーカルラインの優しい歌声や、ちょっとシャウトするような声とかも真似してみたり、刻んだエレキギターを表現してみたり、とにかくすごく楽しくて…。もちろん、全く同じ音にはもちろんならないです。けど、クラシックギターの音ならではの表現でアプローチしてみるっていうのがすごくやっていて楽しいんですね。聞こえ方とかを考える、考えながらするそのアレンジっていうのもやりがいがありました。激しい楽曲の楽しさと、それぞれのアーティストが訴えるそのいろんな人間の心みたいなところが、すごく心にしみるように思えて、そこをクラシックでも表現できたらと思っています。
――実際にコンサートで披露して、オーディエンスの反応はいかがでしたか?
最初の頃はやっぱり、ロックアレンジやるの?っていう感じだったんですけれども。そこから本当にいろんな場所でやらせていただいたんですが、「クラシックギターをやってたけれども、実はメタルも好きなんだよね」とか、「クラシックギターをよく聴きに行ってるけど、本当はロックも好きだからコンサート探してた」とかを言ってくださる方がどんどん増えてきて、回数を重ねるごとにお客さまに届いていると感じられました。最近は、クラシックギターは全然知らなかったけど、YouTubeで弾いているのを見つけて聴きに来てくれたロックメタルファンの方も増えてきています。最初はクラシックギターを聴くけれどロック・メタルも好き、という人が中心でしたが、逆にロック・メタルは聴くけどクラシックは知らなかったという人がコンサートやサイン会にもどんどん来てくれるようになって、クラシックギターの入り口として、私の演奏が届いているんだなと思うようになりました。音楽業界の方でもクラシックを仕事にしてるけれども、ロック・メタルが好きっていう方多いんですよ。今回のレコーディングに参加してくださったスタッフの方やエンジニアさん、プロデューサーさんも、話を聞いてみると、みんな昔バンドやってたとかなんですよね。実は、私よりもすごくロック・メタルの知識が深い方に囲まれていました(笑)。「音楽の友」で連載をさせていただいているんですが、そこの編集長も実はロック・メタルがお好きなんですよ。今までお話しなかっただけで、クラシックに関わる人もロック・メタルが好きな人はたくさんいることに、この企画のおかげで実感できたように思います。
――クラシックもロックやメタルも両方好き、というのは案外多いのかもしれませんね。猪居さんはクラシックとロックの共通点をどのようなところに感じていますか?
そうですね、技術的なところでは細かい違いがあるんですけど、人に訴えかけたいところというか、精神性みたいな部分では大きく違いは無いように思います。クラシックでも結構、恋愛や恋人を想うような楽曲って多いんですよ。そこは、現代のロック・メタルのアーティストの方々が楽曲に込めている人の感情としてそう変わらない。アーティストや作者ごとに、その表現が違っていて、いろんな解釈でそれを表現していく。その心の部分は、一緒なんじゃないかと思います。ロックやメタルのアーティストも、クラシックに影響を受けている方はたくさんいますから。
――猪居さんは学生時代にバンドを組まれたりしていたそうですが、ロックに魅了された時の衝撃はどのようなものだったんでしょうか?
ハマった瞬間は、中学のときにX JAPANの「紅」を聴いた瞬間でした。私の家族はクラシック以外をほとんど聴かないので、家の中ではクラシックしか流れていなかったんですよ。そういう状態からいきなり「紅」を聴いてしまって、こういうジャンルもあるのか!と衝撃を受けましたね。もちろん、それまでにテレビなどから流れてくるポップスを耳にしたことはあったんですが、ここまで激しい歌声、歪ませたギターの音、そして超・超絶技巧で弾いていて…ほかにもドラムやペースの激しさなど、もうとにかくものすごいインパクトだったんです。ただ激しいだけじゃなくしっかりとした技術の基に成立している、すごく美しい作品だったので、どんどんとハマっていきました。
――猪居さんの演奏で「紅」を聴くと、メロディの素晴らしさを再認識できるような気がします。ロックやメタルをクラシックにアレンジする際に大切にしていることはなんでしょうか?
やっぱり原曲をとにかく崩さないことですね。原曲のイメージを崩さない。バンドで演奏してるものをクラシックギター1本に詰めようと思うと、やはり削るところは出てきてしまいます。演奏者が1人なので、コンパクトにしなければいけなかったり、音域的な問題で上げ下げしなきゃいけなかったりすることは、やむを得ないんです。でも、技術的な面で妥協はしたくない。なるべく原曲で使われている音は拾って、クラシックギターの中に詰め込んでいくことを常に意識しています。ソロが難しいからとか、音数が多いからとかを理由にせず、曲のフルの長さも絶対に崩さないようにしていますね。とにかく原曲リスペクトの精神で取り組んでいます。そこは私だけじゃなく、レコーディングのエンジニアさんなど、スタッフのみなさんにも同じ想いでやっていただいています。難しい曲ばかりですし、スタッフの方々も詳しい人が多かったので、かけ離れてしまっていないかなど、一緒にチェックしていただきました。
――クラシックギターだからこその聴きどころはどんなところでしょうか?
やっぱり一番大事なボーカルラインについて、単語の発音の仕方なども気にしながら、それをどうやってタッチなどの音色で表現するかというのは、こだわりました。ボーカルのメロディラインからギターソロのメロディにチェンジしたときの変化も楽しんでもらえたら嬉しいです。
――アルバムリリースに伴って、ライブの開催も決定していますが、どんなステージにしたいですか?
クラシックとロックを掛け合わせたプログラムでずっとコンサートをしてきているんですが、前半はクラシックコンサート、後半はちょっとライブに来たような雰囲気で、1回で2度おいしいステージになっています。休憩をはさんで、後半にもしお好きな曲があったらぜひ、ノリながら聴いていただきたいですね。
――収録されている楽曲の中から、少しだけ解説していただければと思います
これまでのコンサートシリーズでやってきた曲に加えて、数曲を新たにアレンジして収録しています。中でも、「Sweet Child o' Mine / Guns N' Roses」を1曲目にしたのは、この曲が一番、原曲リスペクトなアレンジができたんじゃないかと思ったんです。リフが有名なので、きっとご存じない方も耳にしたことのあるフレーズが出てくるんじゃないかな。最初はゆったり始まって、後半に結構展開が多いんですよ。転調して、どんどん盛り上がって、すごく個性が強いというか、世界が濃い、密度の濃い楽曲なんですね。そういう部分を邪魔することなく、思いっきり楽しみながら、そのまま表現しました。ほかの曲ももちろんリスペクトは忘れていないんですが、まさにこの曲でそのリスペクトを1番発揮できたんじゃないかと思っています。あとはやっぱり、表題曲となる「My Immortal / Evanescence」でしょうか。Evanescenceは2曲入っているんですけども、やっぱりボーカルの歌声がすごくクラシックギターと共感できるんです。繊細な歌い分けをクラシックギターで表現できたんじゃないかな。歌声のニュアンスを感じ取っていただきたいです。
――今後は、ギタリストとしてどのような活動をしていきたいですか?
ロック方面では、これまでやってきたようなアレンジで力を蓄えつつ、ジャンルを超えたロック奏者の方とのコラボにも挑戦してみたいですね。クラシックギター奏者でロックやメタルが好き、という部分の知識や好きな気持ちというのは、自分のオリジナリティやアイデンティティになりつつあると思うんです。そこは誰にも負けずに、極めて追求していきたい。そしてロックをやりながらも、クラシックという軸はブレさせたくないので、クラシックギターの世界でもちゃんとトップを走るような奏者でありたいです。
――コンサートを楽しみにしている方にメッセージをお願いします!
クラシックファンの方もロックメタルファンの方にも楽しんでいただけるコンサートにしたいですね。初めてクラシックギターを聴く方にとっては、入り口になるようなものになればと思いますし、ライブとコンサートの両方が味わえるようなステージにしたいと思います!
インタビュー・文/宮崎新之
猪居亜美 CLASSIC×ROCK 公演情報|ローチケ[ローソンチケット]