井上道義ラストイヤー
N響&服部百音との
最後のショスタコーヴィチ
少し気が早いが、2025年はショスタコーヴィチ没後からちょうど半世紀となる。20世紀が生んだ最大の作曲家の一人であるこの人物の作品は、こと日本においては、近年ではプロ・アマチュアを問わず、演奏会のプログラムに取り上げられることは珍しくない。だからこそ、ショスタコーヴィチを愛する聴き手は、初めてその音楽に触れたときの衝撃をコンサートで追体験すること、劇薬のようなカタルシスで打ちのめされることを、心の底で常に期待しているに違いない。
その渇を癒すべく、現在どの演奏家を聴くべきかと問うならば、指揮者・井上道義をおいて他にない。自身のレパートリーの中心にショスタコーヴィチを据え、特に1990年代以降、実演・録音双方において、数々の熱演を繰り広げてきたマエストロだ。「ショスタコーヴィチは自分自身である」とまで語る井上の演奏は、この作曲家だけが持つ独自の語法、それぞれの音価やフレージングの意味、はては「隠語」まで、共感という次元では到底たどりつけない、壮絶に肉薄した作曲家像を伝えてくれる。
そして、もう一人。日本を代表する若手ヴァイオリニストとして人気を博する服部百音は、「これほど自分自身に矛先を向けている作曲家はいない」と語るショスタコーヴィチとその作品を自らの核としてきた。なにかが憑依したかのような緊張感漲るその奏楽は、世の凡百の演奏を蹴散らすエネルギーを放つ。また、服部は17歳のときに初共演して以来、井上を「音楽の真実を教えてくれる先生」として敬愛し、これまでも数々の共演を重ねてきた。
そんな二人の初共演を当時支えたのが、日本を代表するオーケストラであるNHK交響楽団。井上は2024年での引退を宣言して以降、各地のオーケストラと「最後」の共演を重ねているが、今回がNHK交響楽団との最後の共演となる。曲は服部をソリストに迎えての、ショスタコーヴィチの大傑作――ヴァイオリン協奏曲第1番と同第2番。この三者の組み合わせと曲目を目にして、誰が期待できないでいられようか。
役者は揃った。心して、その衝撃に対峙せよ。
指揮
井上道義
管弦楽
NHK交響楽団
ヴァイオリン
服部百音
曲目
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 作品77
ロッシーニ:歌劇「ブルスキーノ氏」序曲
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第2番 嬰ハ短調 作品129
都合により出演者、 演奏曲目が変更になる場合がございます。 予めご了承ください
公演スケジュール
公演日 |
会場 |
2024/6/29(土) |
東京・サントリーホール |
2024/6/30(日) |
大阪・フェスティバルホール |