クラシック

【インタビュー】ピアソラ没後30周年記念プロジェクト 三浦一馬キンテート2022 熱狂のタンゴ

【インタビュー】ピアソラ没後30周年記念プロジェクト 三浦一馬キンテート2022 熱狂のタンゴ ©Toshinori Iida

三浦一馬

若き演奏者の中でも目覚ましい活躍を続けているバンドネオン奏者の三浦一馬が、ザ・シンフォニーホールで「三浦一馬キンテート 2022 熱狂のタンゴ」を開催。ピアソラ没後30周年記念プロジェクトとして、初披露曲を含むピアソラの多彩な楽曲をキンテート(五重奏団)で演奏する。三浦とともにピアソラを奏でる面々は、石田泰尚(ヴァイオリン)、黒木岩寿(コントラバス)、大坪純平(ギター)、山田武彦(ピアノ)。果たして三浦は、どのような音を響かせるのだろうか…。話を聞いた。


三浦一馬キンテート2022 熱狂のタンゴ

――バンドネオンは比較的珍しい楽器かと思いますが、バンドネオンをはじめられたきっかけってなんだったんですか?


バンドネオンを知ったきっかけはテレビ番組でした。小学校4年生の時に、たまたま「N響アワー」がテレビでやっていて、ちょうど映ったのを見て「あれなんだろう?」って興味が出て…。だんだん画面が引いていって、伸び縮みして音が鳴る…楽器なんだ、って。演奏されているところを聴いたと言うよりも、ビジュアルでしたね。割とメカ少年でドライバーとかラジオペンチが宝物って子供でしたから、機械仕掛けでメカニックなところに惹かれたんだと思います。なおかつ、その楽器から流れてくる音がすっごい大人の音楽でね。ませた少年だったのか、大人の世界へのあこがれも強くて、その漠然とした憧れを具体的に示してくれたような感覚がありました。もう、シビれましたね。バンドネオンのすべてが、どストライクでした。いざ始めてからも面白くって。ドレミも順番に並んでいるわけじゃないし、押しと引きで音も変わるし、もう神経衰弱をやっているような感じですね(笑)。学校に行く前、5時くらいから起きてバンドネオンで遊んでいました。


――テレビでバンドネオンを知ってから、すぐに小松亮太さんに師事されています。演奏会に突撃して弟子入りされたそうですが、小学生ながらにすごいバイタリティですね

子どもの頃は割とそういう勢いがあった方だったかも知れません。というより、この楽器を知るためにはそうするほかなかったみたいなところはありますね。今でも残念ながら、楽器屋さんに普通においてある楽器ではありません。テレビで観てから半年くらい、いいないいな、かっこいいなと思い続けていても、どうすることもできなかった。周りにバンドネオンを知っている人もいない。じゃあ、もうその人のところに行くしかない!っていう感じでした(笑)


――とにかくバンドネオンが好き、というところから演奏家としてやっていこうとお気持ちが変わられた時期はいつごろでしたか?

そんな、俺はこの楽器でやっていこう!みたいなカッコいいものではないですよ(笑)。小学生で始めると、中学生になる頃にはある程度レパートリーというか一応は弾けるようになって、当時は我ながら忙しい学生生活だったんです。ママさんコーラスなどの小さい合唱団の前座とか、ちょっとした公民館のイベントの合間とか、結構いろいろなところに呼んでいただきました。そういう感じで忙しくしていたので、僕が通った中学は部活動が強制参加だったんですが、僕だけは特例で入らなくてもよかったんです。高校生になってくると、自分がプロなのかアマチュアなのかセミプロなのか、よくわからなくなって…。でも周りは進路とかの話も出てくるし、これははっきりさせようと、半ば無理やりではありましたが、プロデビューコンサートなんて大々的な名前を付けてやりました。往復はがきを評論家の先生にお送りしたり、チラシを自分でデザインしたり、音源を自分で焼いたりしてね。ちょうどそのころ、家庭でもホームページを作ったりCD-Rを焼いたりできるようになった頃だったので、パソコン好きなこともあって自分でやりました。気持ちを決めて頑張れば、なんとなくそれっぽいことができると、ちょっと自信もついて。でもどこかで、そうなりたいと憧れを抱いていた自分もいたんだと思います。自分なりのテクニックを模索していた時期でもあったし、今じゃできない気がしますね。


――最近では、大河ドラマ「晴天を衝け」(2021年・NHK)の後に放送される「大河紀行」で演奏され、大きな注目を集められましたね

バンドネオンという楽器を知ってもらえる機会をいただけたことが、本当にありがたいですね。失礼ながら、本編の後ですしどれくらいの人が観るんだろう?くらいの感覚だったんですが、放送後にどれだけの世の方々が観ている番組なのかを思い知らされました。高校以来、会えていない友達とか、相当いろいろな人からご連絡をいただきました。連絡先を変えていなくてよかったです(笑)。1回目の放送の時は、九州かどこかに公演に出ていて、家じゃないところの部屋でテレビを点けて…自分の演奏と名前のクレジットを見て、うまく言えないんですが、うわーって思いました。嬉しかったですね。ちょっと新しい世界の感じというか、なんかワクワクするじゃないですか。こういうご時世で宴会とかもなく、公演主催の方が用意してくれたちょっといいお弁当を前にして、静かな空間で浸っているような感じでした。


――バンドネオンという楽器についてはどのような想いでいらっしゃいますか?

自分にはこれしかなかっただろうな、と思います。音楽は好きですが、ピアノやギター、ヴァイオリンでこんな感覚になれただろうか。楽器と一体になった時の感覚って最高なんですよ。1年に何回あるだろうか…ってくらいですけど、信じられないくらいにもう自由になれる瞬間があるんです。自分の気持ちをストレートに乗せられるということも大きいですね。自分の呼吸が乗るんです。本番なのに平常心で、普通の心拍数で、それがどんどん加速して乗っていく――いろいろな楽器がある中でそれができるのは、自分にはバンドネオンという楽器しかなかったと思います。いま手元にある楽器も、1938年に作られたもので、代々いろいろなところで演奏され、ようやく僕の手元にやってきているんです。愛着というか、楽器に助けられているところ、楽器を弾きながらリスペクトしているところもあります。この楽器じゃなきゃ、こんなに上手く弾けていない。コントロールにストレスがないんですよ。繊細なところにも反応してくれるんですよね。


――5月8日にはピアソラ没後30周年記念プロジェクトとして、「三浦一馬キンテート 2022 熱狂のタンゴ」がザ・シンフォニーホール(大阪)にて開催されますね!

ザ・シンフォニーホールにはありがたいことにここ何年も立て続けに立たせていただいておりまして、節目となるような公演をさせていただいております。ピアソラ没後30周年という節目の年にできることが、やっぱりありがたいし、うれしいですね。いつも楽しみにしてくださる方が待ってくださっているので、だからこそ他ではやらないような特別なことをやりたい気持ちです。「ルンファルド」「レビラード」「カリエンテ」「ムムキ」は、我々が初めて取り組む曲で、この公演が初披露となる予定です。この新しい4曲はどれも名曲ぞろいで、でも一般にはあまり聴かれることのない曲なんですね。「リベルタンゴ」など有名な曲と並べても遜色ない、それ以上なんじゃないかと思うほど。2021年はピアソラ生誕100周年でしたので、メジャーどころはお聴きになっていた方も多いと思いますし、今回やる曲たちは、これから先の新時代ピアソラスタンダードになっていいんじゃないかと思うくらいなので、ぜひ聴いていただきたいですね。

※曲目は変更の可能性があります


――キンテート(五重奏団)は、ピアソラが生涯にわたってこだわった編成だそうですね。三浦さんはこの編成についてどう考えていらっしゃいますか?

やっぱり一番スタンダードですよね。究極だと思います。これって4人でも6人でもダメで、この5人だからというのは凄く感じています。それぞれの楽器がグラデーションのように役割を果たしていて、すべてを抑えている。隙間を人数で埋めていくんじゃなくて、この5人で埋める面白さがこの編成にはあると思います。例外はあるんですけど、ピアソラのタンゴは基本的に打楽器を使わないんですけど、みんなそれぞれにパーカッション的に、いろいろと駆使していて、そこにリズムが生まれて、グルーヴが生まれる。そういうところってすごいですよね。


――ピアソラの魅力をどのようなところに感じていますか?

本当に色気があって、セクシーですよね。本能のようなところに、直接ダイレクトに響く。1回聴いちゃったら終わり、みたいなことにならないんですよ。僕なんか、これだけ年がら年中やっていて、日本の中でも相当ピアソラをやっている方だと思うんですけど、それでもやっぱり聴きたくなってしまいます。お酒を飲んでいても思うし、何なら演奏後の帰りの車の中で気づいたらかけちゃうくらい(笑)。そういう不思議な魅力、魔力をもっていますよね。それは、初めてピアソラを聞いた時と今とで変わっていないです。魔力というか吸引力は今なお、ある感じですね。今日の自分として聴いているつもりでも、ふとした時に10歳のころに戻ることもあります。あの時の昂ぶり、ざわつき、締め付けるような何か。そこはずっと変わりません。


――今後、バンドネオン奏者としてどのような活動をしていきたいですか?

ピアソラについては、こういう2年連続のアニバーサリーとして特に盛り上がりを見せていますが、なにか不思議な宿命のようなものがどこかにあるような気がしているんですよ。アニバーサリーイヤーの先も、深いところまでピアソラを見つめていきたいと思っています。今までもそうだったし、多分これからも、ライフスタイル、ライフワークのようなもの。弾きたいものもいっぱいあるし、聴いてもらいたい。その気持ちは、小学生のときから変わっていません。できることがあるなら、コラボでもなんでもやりたいですし、バンドネオンという楽器に触れて、みんなにもうちょっと広く知ってもらえたら。ちょっと変わった…いや、変わりすぎた楽器ではあるんですけど、もっといろんなところで聴いてもらえるものなんじゃないかと思っているので、そのためにも頑張っていきたいですし、いろいろな可能性を探っていきたいです。この楽器の素晴らしさをこう演奏を通して広げていく中で演奏してみたいなとか、そうです。やってみたいなって思う人が増えていって、実際に演奏できる場所がどんどん増えていく。そうなったら最高ですね。


――公演を楽しみにしていらっしゃるみなさんにメッセージをお願いします

もう毎年のようにお邪魔させていただいていて、第2のホームみたいな感じに思ってる場所です。そしてあの聞いてくださる皆さん、ほんとに毎回あたたかいんですね。弾いていて毎回とても幸せです。今回は新曲もありまして、とにかく皆さんに聞いていただきたくて、意気込みも十分!ぜひお越しいただければと思います。



取材・文/宮崎新之



「ピアソラ没後30周年記念プロジェクト 三浦一馬キンテート2022 熱狂のタンゴ」
公演ページはこちら

【インタビュー】ピアソラ没後30周年記念プロジェクト 三浦一馬キンテート2022 熱狂のタンゴ ©Toshinori Iida
【インタビュー】ピアソラ没後30周年記念プロジェクト 三浦一馬キンテート2022 熱狂のタンゴ