クラシック

【インタビュー】横坂 源

【インタビュー】横坂 源 ©Takashi Okamoto

横坂 源

©Takashi Okamoto

昨年3月、大阪・シンフォニーホールで初めてのソロリサイタルを開催した横坂 源。「elegy」と題したこのリサイタルが、1年を経てふたたび開催される。今回は伴奏をピアニストの津田裕也が務め、ショパンの「チェロ・ソナタ」をメインにメロディを届けていくという。どのような想いでステージに臨むのか、話を聞いた。


――昨年に引き続き、「エレジー」がテーマになっています。昨年の手ごたえはいかがでしたか?

本当に多くのお客様にお越し頂き、感謝の気持ちで一杯です。小品から始めて最後のラフマニノフのソナタへ向かっていく大きな流れを、大阪のお客さまと楽しむことができ、素晴らしい機会を頂きました。


――今回のステージは、その続編ともいうべきものとお聞きしました

今回は、ピアニストの津田裕也さんに弾いていただけることとなり、ぜひショパンの「チェロ・ソナタ」を演奏したいと思いました。前回と同様このソナタを軸に、名作の小品もたっぷりと皆様にお届けできたらと思っています。津田さんは、2010年のミュンヘン国際音楽コンクールの時に、ピアニストの伊藤恵さんにご紹介いただいたんです。それ以来、定期的に大事なコンサートでご一緒させていただいています。「チェロ・ソナタ」って、ピアノが大変なことが多いんです。前回のラフマニノフもそうですし、今回のショパンなど、ピアニストにイエスと言ってもらえない曲だったりするのですが、津田さんは快くお引き受け下さいました。共演が今からとても楽しみです。


――渾身の一曲になりそうですね。その他にも今回の選曲でこだわった部分はありますか?

今回は、チェロのオリジナルではないクライスラー(「愛の悲しみ」、「美しきロスマリン」)などヴァイオリンの曲も選んでいまして、普段チェロをあまり聴かないという方にも楽しんでいただきたいと考えています。


――本来はヴァイオリンの曲をチェロで弾く場合の難しさやコツなどはあるんでしょうか?

普段聴いているようなヴァイオリンのイメージを真似してしまうと痛い目にあいます(笑)。 ヴァイオリンとは響きや音のスピードが異なるので、チェロに置き換え楽譜を読み直すところに面白さを感じます。


©Takashi Okamoto


――チェロならではの魅力はどういうものだと感じていますか?

4歳から弾いているんですけど、やっぱりチェロの音域は素敵だといつも思いますね。チェロにしか出せないような声というか、音質があり、そこに魅力を感じます。幼い頃はこれほどまでに音楽には奥深い世界があり、どこまでも堀り進められる余地があるということに気がつきませんでしたが、演奏を重ねていく中で、音楽の無限の素晴らしさを体感し、改めてこの仕事に携わらせて頂いていることに感謝の思いでいます。


――いろいろなステージで演奏されていますが、今回のようなソロリサイタルにはどのような印象がありますか?

コンチェルトなどではなく、小品やソナタという形式で2000人規模の大きなホールで演奏させていただくことって、すごく特別なこと。大きなホールでどのように響きを作っていくかは、個人的にも大きな挑戦です。若い頃のヨーヨー・マやマイスキーが来日して演奏していた時、このような規模の演奏会をよくやられていて、小さな作品でもしっかりとお客さまを魅了することのできる素晴らしい技術がありました。


――今回、目指していきたいサウンドはどのようなものでしょうか?

今回のプログラムを、この大きなホールの中で音響的にどう作っていったら一番理想の形に近づくのかは難しい課題です。シンフォニーホールは柔らかくて響きが伸びる良さを感じているので、音の芯になる部分をしっかりと生み出し、双方のより良いバランスから音質を追求できたらと思います。


――シンフォニーホールでの演奏も何度か経験されていますが、ホールの特徴などはどのように感じていらっしゃいますか?

どこのホールもそうですが、時間の経過や、過去の演奏家の生み出してきた音の響きの影響を受け日々変化していきます。どのような人が演奏し、響きが振動してきたのか、その余韻のようなものがホールには残っているんですね。シンフォニーホールは、その素晴らしい足跡を沢山感じることができるホールですね。またお客さまとの距離も近く、一緒に音楽を楽しむことができます。


――お忙しい毎日かと思いますが、普段はどのようなことで気分転換などをされていますか?

最近は代役などで演奏の機会を多くいただいていて、練習時間が増えました。休める時には自然に触れる時間を作っています。川とか山が好きですね。以前ならば、演奏会の後に飲み会などがあって、そういう打ち上げの場でまたいろいろなことを話しながら生まれてくるものもあるので、そういう場が無くなっていることが寂しくもあります。山に登ったりもして、自転車を走らせるのも好きですね。40~50㎞くらい走ってしまうこともあります。電車で出かけて、現地でレンタサイクルを借りたりもしますね。距離感がつかめなくて、返す時間に間に合わなくなってしまったこともありました(笑)。


――それはすごいですね。自転車は自然の空気も感じられて、いいリフレッシュになりそうです

留学先のドイツでは、大自然に囲まれた場所で6年間生活していたので、日本に戻ってきてもまだその感覚が残っているのだと思います。そういうリフレッシュの時間が音楽に生きてくることもたくさんある。風や川の流れ、葉が一枚一枚色や形が違う様など音楽に共通する部分も多くあるように思います。やっぱり、当時の作曲家の環境に少し近づけたような気がして、嬉しくなる感覚もありますね。


――自然の中に、当時の作曲家たちの音楽の何かに触れられる瞬間があるんですね。今後、音楽家として挑戦したいことはなんでしょうか?

今年はコンチェルトの機会を多く頂いているので、オーケストラと対峙したときに求められるソリストとしての音や音楽を深めていけたらいいなと思いますね。チェロは低い音のバスから、高温のメロディまで同じ楽器でも作品により役割が大きく変わります。また、自分のレパートリーにない楽曲も予定されているので、時間をかけて挑みたいですね。


――最後に、今回の公演を楽しみにしていらっしゃる皆さんに聴きどころを教えてください

今回のメインはショパンの「チェロ・ソナタ ト短調」になるかと思います。繊細さや、美しいメロディなど多くの方に好まれるショパンですが、チェロ・ソナタは彼の亡くなる直前に書かれた作品で、背負いきれない孤独や悲しみが作品に渦巻いています。後半には聴き馴染みのある名曲もご用意していますので、大阪の皆さまにお楽しみ頂けたら幸いです。




インタビュー・文/宮崎新之


プロフィール

横坂 源(チェロ)/Gen Yokosaka (Cello)

シュツットガルト国立音楽大学、並びにフライブルク国立音楽大学で学ぶ。全日本ビバホール・チェロコンクール第1位(史上最年少)、全ドイツ学生音楽コンクール室内楽部門第1位、ミュンヘン国際音楽コンクール第2位。これまでに出光音楽賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞、ホテルオークラ音楽賞を受賞。
近年ではS.スヴィリドフ:チェロ協奏曲『つばき』の新作委嘱・世界初演をWürth Philharmonikerと、日本初演を東京交響楽団と行い、日本フィルハーモニー交響楽団とM.ルグラン:チェロ協奏曲の日本初演を果たした。2021年5月には、東京都交響楽団とP.デュサパン:チェロ協奏曲《アウトスケイプ》の日本初演を果たした。新潟市出身。

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