- チケットトップ
- クラシック・オペラ・バレエ
- 【インタビュー】東京チェロアンサンブル
【インタビュー】東京チェロアンサンブル

東京チェロアンサンブル
国内外で活躍する10人のチェリストが一堂に会し、チェロだけのアンサンブルを奏でていく東京チェロアンサンブル。その13回目となる公演が今年も紀尾井ホールにて開催される。今回は、メンバーの中から主宰の三宅依子をはじめ、荒井結、新倉瞳、中実穂、堀沙也香、宮田大の6人に、チェロアンサンブルへの想いを語ってもらった。
――2008年から始まり、今年で13回目となります。始めた頃と比べて、最近はどんな変化を感じていますか?
三宅 始めた頃は、16人で少しずつお金を出し合い、ホールを借り、切磋琢磨しておりました。みんなで力を合わせて、少しずつ少しずつ積み重ね、ようやく13回目を迎えることとなりました。当時は学生も居ましたが、みんなそれぞれに留学を経たりして、人間的にも大きくなりましたね。学生の頃はガツガツしたところがある人もいましたが(私もそのうちの1人です。笑)、今はそれとは違う魅力がひとりひとりに出てきたと思います。そういう、いろんな色が出てきたことが私はこの13年で大きく違ってきたことじゃないかと思いますね。
中 チェロ奏者って、学生の時はみんな仲がいいんですよ。集まってアンサンブルしたり、飲んだりっていう機会がほかの楽器よりも多い印象で、その延長線上で始まったようなところがあるんです。みんなで楽しいことしたいね、って。それがこんなに長く続いて、さらにみんながちゃんと意見を出し合えるようになったんですよね。最初の頃は、ただ演奏したい、っていうだけで、意見とかもあまりなかったですから。
三宅 最初は3回目くらいで途切れると思ってた(笑)。
荒井 僕は今回で2回目からの参加になります。ドイツの大学に行っていたんですが、たまたま日本で開催された講習会の場でみんなに出会ったのがきっかけでした。チェロアンサンブルって、めっちゃ楽しそう!って伝えたら「おいで、おいで!」って言ってくれたんです。チェロアンサンブルって経験したことがなかったし、メンバーも楽しそうだし、ってワクワクしました。講習会の雰囲気自体が楽しかったので、コンサートに参加するというよりも、このメンバーと演奏することが楽しい、みたいな感覚でした。ほんとうに、チェロ奏者ってマジで仲がいいんですよ(笑)。何か知らないけど、集まりたい(笑)。
三宅 普段バラバラだからこそ、というのもあるかも。チェロ奏者同士って、仕事でなかなか一緒になることが無いからね。
荒井 チェロという楽器は、弦楽器の中で一番音域が広くて、チェロアンサンブルでメンバーが集まった時にやっぱり感激しました。高い音、低い音、その間の音……その全体のバランスみたいなものを参加する毎に感じていて、それを別のアンサンブルに参加したときにも、高い音や低い音の重要さのようなところを感じるようになりました。東京チェロアンサンブルで得たことが、弦楽四重奏などにも活かされていると思いますね。
宮田 僕も最初から参加しているんですが、1回だけ参加できなかったことがあるんです。留学していた時期だったり、ほかのメンバーも海外から参加している人もいた時期でしたね。出演はできなかったけど、本番は日本に帰ってきて観たんですが、客観的に見て、今この団体に参加できていないことがすごく寂しかった。客席から舞台上を見ていて、東京チェロアンサンブルをホームのように思っているんだとすごく実感しました。それに学校を卒業して年齢を重ねていくと、先生に教えていただくのではなく、自分で何とかしていかなければならなくなってくる。そうやって教えてもらう機会が無くなっていく中で、ここで音楽で対話して、教え合うような、いろんなアプローチやアイデアを感じられたりするようなことがあるんです。そこがこのコンサートの、普段とは違うとことじゃないかと思います。
新倉 言葉にしちゃうともしかしたらチープに聞こえてしまうかもしれないんですが、本当に家族だと思っているんです。講習会の時も、みんなでマリオカートしたり、ウインクキラーをやったりね(笑)。そういう楽しさって、例えばひと夏の思い出とかそういう感じなのかも知れないんですけど、それがずっと継続している感じなんですよね。続けることってすごく大変ですし、お互いにガマンをしたり、言わなきゃいけないことがあったりもします。でもそれを続けていると、本当に家族みたいに感じられる。「ゴメン、今はこれ頼んだ!」みたいなことができるんです。その分こっちを頑張るから、って。そういう役割分担はできるようになりましたね。同じ楽器なんですけど、それぞれに餅は餅屋に任せる、みたいなところが最近はあって、ありがたいですね。
堀 1年に1回開催しているんですけど、最初の頃はみんな学生や卒業したてで”ただただ弾きたい!”という気持ちを全面に出してやっていました。でもぞれぞれがいろいろな現場を経験して、それを持ちよってひとつのアンサンブルにするようになったんです。それがお互いに刺激になる。メンバーから勉強することがたくさんあったし、その上でどんなアンサンブルにするかが楽しい。ここ数年でそれが変わっていくところが大きくなって、お互いに成長できているよね、っていう感覚を共有できているような気がしています。
荒井 それってお客さんも感じてくれているかも。
宮田 ずっと演奏を聴いてくださっている方は、そうかも知れないね。
――今回は、”~それでもチェロは歌う~”というテーマとなっています。このテーマに込めた想いはどのようなものなんでしょうか。
三宅 やっぱりコロナ禍ということがあって、音楽家は音を演奏して、それを人に伝えて初めて成り立つものですが、それがすべて無くなってしまった。まだこれからもどうなるか分かりません。今回、1階席は半数にするなど、いろいろな対策もしています。でも、私たちには”演奏を辞める”という選択肢はありません。そういう想いで臨んでいますので、今回メインの曲はモーツァルトの「レクイエム ニ短調K.626《ラクリモサ絶筆まで》」を選びました。鎮魂歌なんですが、そこから「アヴェ・ヴェルム・コルプス」で天上に行くというストーリーになっています。一度、演奏活動がストップして、まだまだ苦しい方たちがいるのも事実。それでも歌うんだ、歌わせてほしい。歌は本来、祈りなんです。そういう想いを込めました。
中 プログラムを決めるとき、いつもはみんなで集まって決めていたのですが、今回はコロナ禍。現在は音楽業界もやや動き始めましたが、その頃はまだ今後がどうなるか分からない状況でした。いろいろな案があって、特に鎮魂歌の祈りみたいなところを最初から考えていたわけではありませんでした。でも、「レクイエム」が案として出た時、まずチェロアンサンブルの形で演奏されたことは世界的にもほぼないよな、と思ったんです。それで、プログラム担当と長さなどを相談したら「そりゃ、オリジナルでやるでしょ」って言われたんですけど、「レクイエム」って完成させることなくモーツァルトが亡くなってしまっているので、途中で突然終わってしまう。それはコンサートとしてどうなんだろうか、と言う意見もありました。でも、あえてモーツァルトが続けることができなかったところまでにして、そこから「アヴェ・ヴェルム・コルプス」で祈りをしっかりと捧げて、お客さんとも共有しよう、ということになりました。
三宅 絶筆のところまで演奏するので、演出も照明をそこでパッと落とすとか、何か工夫をしようかとは思っています。プログラムをご覧になっていないお客さんもいらっしゃるでしょうし、突然、曲が終わる感じになってしまうので、そこは考え中です。
――当たり前に続けられていたことがコロナ禍で断たれたしまったことと、モーツァルトの絶筆の部分はどこか重なるところがあるかも知れませんね。
中 だからこそ、今「レクイエム」を演奏しようか、とみんなの中でなってきたんだと思います。
宮田 それを編曲してくださった方も、素晴らしい方なんだよね。
新倉 挾間美帆さんという、私たちと同世代の音楽家で、まさに今をときめく方です。どなたに編曲をお願いするか、ってすごくチャレンジングな部分でもあるんですけど、挾間さんはどちらかというと今の時代の明るさ、”陽”の部分をとらえている方。そういう方にあえてお願いすることで、「レクイエム」を前向きにとらえることができるのでは、と考えました。いろいろ悩みましたが、私たちチェロアンサンブルらしい編曲になったんじゃないかな。
三宅 やっぱり、アレンジの方ありきの部分もありますから。曲自体、ほとんどオリジナルで残っていないところもあるので、そこは10人だからこそチャレンジしていきたいですし、もっともっと全国ならず、全世界に広めていきたいと思いますね。
宮田 レクイエムは今回が、世界初演ですからね。素晴らしい作曲家の方に編曲を手掛けていただいたものを、広めていけたらと思います。
――今の時点で、どのような演奏会になりそうですか?
宮田 まだわからないけど、早く演奏をしたいよね。
荒井 想像がつかないもんね。オリジナルのものってやったことがないし。
新倉 そうそう、単純に楽しみ! 早くその時期が来ないかな、って思っている感じ(笑)。
宮田 よくあるような、前の日だけリハーサルをして本番、というコンサートではないんです。本当にすごい時間をかけてディスカッションをして、音楽を作りあげていくので。作品の本質的なところにチェロの歌を入れ込んでいく感じなんですよね。
堀 私たちらしく、私たちの想いを届けられたらと思っています。
中 そう、楽しんで演奏したいね。
荒井 あんまりコロナ禍だから、と考えすぎてしまうと、また違うような感じがするんです。音楽って、聴く人によってグッと胸に迫ったり、逆に明るく聴こえたりするもの。だから、押しつけがましくない演奏にしたいと思います。
三宅 やっぱり、今日この場所に来て良かった~っていう気持ちで帰っていただきたいですから。
――2021年もいろいろあったかと思いますが、お仕事でもプライベートでも、何か最近のできごとなどで自分の中ですごくホットな話題はありますか?
荒井 実はつい昨日、初めて無伴奏のソロリサイタルを終えました。普段、アンサンブルが圧倒的に多くて、もともと人と一緒にいるのが好きなので、ひとりぼっちの椅子がものすごく寂しくて。そんな気持ちで臨んだんですが、会場のみなさんの拍手が温かくて、みなさんに見守っていただきながら演奏を終えることができました。ひとつの挑戦でしたし、今後、自分の勉強のためにも続けていかなければいけないことだと感じましたね。……とはいえ、もう絶対やりたくない気持ちも半分(笑)。始まってしまえば、気持ちのいい時間なんですけどね。
新倉 2021年は、人前で演奏するようになってから15周年だったんです。記念のコンサートは、人を巻き込みまくって演奏させていただいたので、本当に私はたくさんの人に支えられているんだなと実感しました。私はアンサンブルが好きな人間なんだな、と改めて思いましたし、私ひとりでは生きていけない。周りの方あっての自分、というのを強く感じました。
堀 私は全然楽器のことじゃないんですけど、最近、パーソナルカラー診断をやったんですよ。ブルべのウインターでした。それで、自分に似合う色味とか洋服とかを教えてもらって、私は、原色で彩度が高めのものを選ぶといいみたいなんです。変えてみると、自分でも納得できましたし、雰囲気も変わりましたね。リップやチークも、自分が使っていたものと似合うものが違っていたので、買い換えました!
中 そういう話だと、私は最近とにかく腰痛が……(笑)。ちょっと体型も気になってきたので、筋トレに通い始めました。日頃全く体を動かさないのでけっこうキツいのですが、トレーナーさんの激励のおかげで、頑張って通っています。でも腰痛も楽になりました。最近はあんまり歩かなくなりましたし、チェロを弾くのも座りっぱなしですからね。腰痛はチェロあるあるなんです。ない人もいるんですけどね。
宮田 今年はいろいろと一年が早かったですね。今年の秋はキンモクセイの香りを嗅ぐことを忘れていました。ちょっと風が強かったのもあってか、なんだか季節感を感じないままに過ぎていってしまって。でも冬にはおいしいものもいっぱいあるので、それを楽しみにしたいです。去年は中止になったイルミネーションも、今年は見られるのかな? そういう季節感を大事にしていきたいですね。
三宅 東京チェロアンサンブルは13回目になるんですが、今回初めてチケットの管理などを外部にお願いすることにしたんです。これまでは制作も含めてすべて自分たちで行なっていたのですが、でも実は自分たちで発信することってすごく苦手なんですよ。外部にお任せすることで演奏のことに集中できますし、こうやって取材を受けたり、すでにチケットをたくさんご購入いただけていたり、これまで私たちを知らなかった方にも届いていることを本当に実感しています。本当に、ここまで違うのか!っていうくらい助かっているんですよ。これからもっともっとたくさんの方に聴いていただきたいし、頑張らなきゃ、と思っているところです。
――それぞれの時間で充実させたものを、ぜひステージで発揮していただければと思います! 最後に、楽しみしている方にメッセージをお願いします。
荒井 毎年、楽しみにしてくださっている方はもちろん、初めて聴いてくださる方もたくさんいらっしゃると思います。チェロの魅力、こんなに素晴らしい楽器なんだよ、というところをみなさんに聴いていただきたいですし、どんな時代も音楽があったから乗り越えてこられたというものを感じていただきたい。戦争の時代、苦難の時代、いろいろあったけれども、音楽が寄り添ってくれたからいろいろな困難を乗り越えてこられたんです。コロナ禍という今も、そんな時代だと思います。聴いてくださった方の心に、少しでも残るものがあれば――未来に向かう時間にしたいと思っているので、ぜひお越しいただければと思います。
宮田 今回はお昼からと夕方からの2回公演で、聴き終わって帰る時間が、まだ明るい時間と、夜になってからとになります。「レクイエム」を聴いた後に、浸るとき感情がこの時間によっても違ってくると思うので、お時間のある方はぜひ2回とも来ていただければ! 演奏家も初演と2回目では感覚的に違うかもしれません。そういう違いも感じていただけると嬉しいですね。
新倉 クラシック音楽を軸に演奏家として活動しているんですが、私たちは古いものをずっと続けていくためにあれやこれやと試行錯誤しているんです。そういう意味で、ある意味とても挑戦的ではあるんですが、根本にあるのは常に変わらず”いいものを伝え続けていきたい”ということ。今回も、そういう部分をみなさんと共有できたらと思っています。
堀 今の私たちのアンサンブルを楽しんでいただきたいですね。同じ曲を演奏したとしても、やっぱりいろいろなところが違ってくる部分ってある。2022年3月の私たち東京チェロアンサンブルが奏でるものがどういうものなのか、今後、どう変わっていくのかも含めて、ぜひお楽しみいただきたいですね。
中 私自身が演奏会に行った時に、聴いている時間は集中もしているので、いろいろなことを思うし、感じるんですけど、その帰りってものけっこう気分が軽くなっているんですね。すごくすっきりしているというか。よく免疫力が上がるとか言われますが、自分が思っている以上に、気分って大きく変わるんです。そういうお気持ちで帰っていただけるようにしたいので、帰り道の気分を楽しみにお越しいただければ嬉しいです。
三宅 本当に私たちはチェロが大好きで集まっています。主宰と言う立場ですが、動物園の園長さんの気分(笑)。そして、園長さんって一番楽しんでいる人だと思います。9人の個性豊かなメンバーをまとめていて、時にエサをあげながら(笑)、私自身もすごく楽しんでいて、バランスがいいのか悪いのか分からないですけど、そういう楽しさが皆さんにも伝わればと思います。そして、それをこれからも続けていきたいと思っておりますので、ぜひみなさんにお越しいただきたいと思います!
インタビュー・文/宮崎新之
