クラシック

【インタビュー】ロー磨秀

【インタビュー】ロー磨秀

動画

[7STARS in 王子ホール] ロー磨秀(ピアノ) The Pianist

昨年、デジタルアルバム「Mélangé」をリリースし、クラシックのピアニストとして活躍するロー磨秀が、初のソロリサイタル「The Pianist」を開催する。
クラシックのピアニストである一方、シンガーソングライターとしても活動し、最近ではドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の挿入歌で作詞を手掛けるなど、マルチな才能を発揮。そんな彼にとっての”ピアノ”とはどのようなものだろうか。


 日本では初めてのソロリサイタルを紀尾井ホールで開催することになりました。決まった時は、率直にどんなお気持ちでしたか?

リサイタル自体は海外などで経験はありましたが、今回のような本格的なソロリサイタルは初めて。ちょっと久しぶりですし、うれしい気持ちと、正直少し怖いというか……ビビっているところもありました(笑)。ひとりで弾くのは勇気がいるし、自分との戦いで、自分の場合はほかの楽器とかと一緒に演奏をするほうが自由に、気楽にできるんです。なので、ちょっと自分を奮い立たせる必要がありました。でも、本番が近づくにつれて、不思議なもので楽しみになってきました。今の自分を聴いてもらえたら嬉しいし、自然体な自分で演奏したいと思っています。いろいろなものがちゃんと咀嚼できて、ちょうど本番の日に一番いい状態で演奏できたらいいですね。


 本番に向けて準備を重ねるにつれて、リラックスできてきたのかもしれないですね。

開催が決まってから、いろいろなほかの仕事もしましたし、プログラムを決めたりしていく中で、だんだんと気持ちがほぐれていきました。今回はプログラムも半分以上が初めて演奏する曲。そういう意味では緊張感もあります。一方で、すごく新鮮な気持ちで取り組めています。細かいところが決まってくると、内容に目が向き始めて、楽しみだったり、曲と向き合って伝えたい気持ちが強くなったりして、そういうワクワクの方が上回った感じです。


 半分以上が初めての曲となると、曲の解釈など準備も大変そうです。

そうですね。メインとなるのも初めての曲です。割とそれが良かったんじゃないかな?もちろん、初挑戦にはリスクもある。でも、同じ曲ばかりを続けてやっていてもマンネリを感じることもあるし、同じようなアイデアになってくる。やっぱり、同じ曲を演奏するにしても、何か今までと違うことを見つけないといけない。そういう強迫観念のようなところも、実はちょっとあるんです。新しい曲は、そういう気持ちもなく、新鮮な思いで迎えることができるので、結果として半分が新しい曲というのは良かったように思います。発見の喜びがすごく多いので、緊張感よりも喜びが勝るんですよ。


 ピアノの演奏そのものを楽しんでいらっしゃるんですね。もともと、ピアノを始めたきっかけは?

親がピアノを演奏できたので、アップライトのピアノが家にあったんです。小さいころから、母親の膝に乗っかっておもちゃがわりにピアノを弾いていたらしいです。楽しそうにしていたので4歳になったときに「レッスンを受けてみる?」と聞かれて、受ける!と答えたそうです。僕は覚えていないんですけどね(笑)。正直、小さい頃はピアノの練習が嫌で、泣きながら親に練習をさせられてた記憶しかないんです。でも、家にお客さんが来た時に、耳コピした曲とか、その時に流行っていた曲を聴かせたくて、お客さんを座らせてピアノを弾いていました。そういうのは好きだったんだと思います(笑)。


 練習は嫌いだけど、ピアノを聴いてもらえることは嬉しかった。

ピアノそのものは好きだったんですよね。練習が好きじゃないだけ(笑)。それはみんなそうなんじゃないかな。ピアノを聴いてもらえることは、ずっと大好きでした。


 その後、高校大学と音楽の道に進まれて、フランスでもピアノを学ばれます。日本とフランスをはじめとしたヨーロッパで、ピアノを演奏することの違いはありましたか?

けっこう物理的な部分で、日本で弾くときとヨーロッパで弾くときに決定的な違いがあるんです。それが音の通り方。日本はやっぱり湿気がすごくある国なので、ヨーロッパにいた時はあまり意識しなかったんですけど、留学中にたまに日本に帰ってきて演奏をすると、全然音が通らなくて……すごく意識しましたね。必然的に、演奏を変えていかないといけない。ヨーロッパだと、けっこうスコーンと通るんですよ。その違いを経験できたのは、すごく面白い発見でした。日本で演奏するときは、自分が演奏する手元の段階で、イメージを作って届けないといけないというか……。返ってくる音も違うから、それをベースに作り上げる、っている作業がけっこう違いますね。


 そんなに感覚的に違うんですね! 学生時代は首席でご卒業されたり、国際コンクールでグランプリを獲ったりと、大きな活躍をされています。自分の演奏を評価してもらえることについては、どう感じていらっしゃいましたか?

コンクールで賞をとっていたといっても、もっとすごい賞をとっている人もいらっしゃいますし、その部分については途中からは意識しなくなりました。でも、日本にいた頃――大学で成績が1番、とかに対しての重圧は、けっこうありましたね。そこから逃げたい、と感じていた時期もありました。それが無くなったのは、留学してから。心機一転、新しい進み方ができるようになったと思います。首席だって毎年1人はいるんですよ。字面にするとすごいことのように見えますが、その後にどんなことをするか、どんな演奏をしていくかの方が大事。首席で卒業できたことはありがたいことだし、それが自分のプロフィールになっていますが、もう5年も前のことですから。そこに囚われてしまってはいけないし、その時点の評価でしかない。それよりも、今の自分を大事にしていきたいですね。


 ピアノという楽器の面白さはどういうところだと考えていますか?

ピアノってすごく大きいんです。グランドピアノって、ほかの楽器ではあまりないくらい、すごく大きい。そして、音域もすごく広い。オーケストラの演奏を、ピアノ1台でやろうと思えばできてしまうんです。それって、実はすごいこと。それぞれの楽器にそれぞれの良さがあると思いますが、僕自身はピアノは王様だと思って向き合っています。あと、ほかの楽器は構えを知らないと演奏できなかったりするんですけど、ピアノは誰が鍵盤を押しても音は出るんです。老若男女、いろいろな方がピアノを学ぼうとするのは、そういう部分ではとっつきやすいからじゃないかな。ただ、その分ものすごく奥が深くて、使われている部品とかもすごく多いのに、できることは割と少ないんです。音を鳴らしてしまえばビブラートもかけられなくてペダルしかない。基本的に、鳴ったら鳴りっぱなしで、音を出した後に何かができるわけじゃないから、案外すごく少ない材料の中でピアニストは勝負しているんです。でもそこが、ひとつの魅力でもある。誰でも音が出せる、でも同じピアノを弾いても十人十色の音が出る。冷静に考えると、すごいですよね。


 そういわれると、ピアノって大がかりだけど、すごくシンプルな楽器でもあるんですね。そんなピアノを演奏する楽しさって、どういうところにありますか?

やっぱり楽器の魅力に近しいところなんですけど……実は僕自身は、ピアノっていろんな他の楽器の音を出せると思っているんですよ。ピアノ自体の音色と言うよりも、例えばオーケストラの音色をピアノで出せるというところが、最大の魅力だし、最大級に楽しいところ。作品と向き合う時に、ここはどうやったらその楽器の音色が出るだろうか、どういう弾き方をしたらそんな音色になるだろうか、を考え出したら、すごく楽しくなる。ちょっと矛盾しているかもしれませんが、ピアノの音じゃない音がピアノで出せる。そこが魅力です。ピアノにはそれだけの音域があるので、いろいろな楽器の音を一人でやらないといけない。ピアニストは奏者でもあるし、指揮者でもあるんです。ピアニストは、ちょっと多角的にとらえないといけない部分があって、達観していないといけない部分があるんです。たくさんのことを一度にやらないといけないので、一つのことに集中してしまうと全体のバランスが取れない。そこはマスタリングとかミキシングとかと繋がってくるかもしれないですね。


 今回のリサイタルはピアニストとしてのステージですが、シンガーソングライターとしても活動していらっしゃいます。ご自身の中では、2つの活動について線引きのようなものはありますか?

多分、周りの方が思っているほどの線引きは無いかも。自分としては、両方大好きだし、両方とも本気で、一流として活動していきたい。だからこそ、2つをむやみに混ぜたくないんです。もし、混ぜるんだったら相当な質で混ぜないと、と思っていて、でも別にクロスオーバー的なことがやりたいわけじゃないんです。2つの柱としてやっていきたいという想いでいます。でも案外根底にあることはそんなに変わらないんですよ。演奏して、届ける。今っぽい言葉で言えば、どちらも”エモい”かどうかというところに終始するんです。違いがあるとすれば、クラシックはほかの方が作った作品を演奏すること、という部分ですね。もちろん、シンガーとしてもカバーをしたりということはありますが、クラシックの場合はすごく古い曲を演奏したりするわけで、準備段階は全然違います。でも舞台に出てしまえば、そんなに変わらないと思いますね。あとはやっぱり、シンガーとしてはクラシックの時とは別の見せ方をしていかなければ、と思っているので……そこはまだ研究中ですね。


 今回のリサイタルはどのようなものになりそうですか?

最初にもお話しましたが、当初はちょっとビビってたんですけど、新しい曲もたくさん入れて、しっかり悩んで選んだことで、今自分がやりたいことを体現できたプログラムになったと自負しています。クラシックってプログラムに個性が出るんですよ。1曲1曲はたくさんの人が演奏してきている曲だったりしますが、その中でこの曲と並べた、と言う部分にストーリー性のようなものが生まれると思うんです。そこは、プログラムを選んだ時点で、ある程度伝わるんじゃないかな。あとは、当日に僕がどれだけ表現できるか――2年前とも2年後とも違う、今現在の自分を聴いていただきたいです。


 今この瞬間だけの、等身大の演奏を楽しみにしています!

大変なご時世ではありますが――僕だけじゃなく、誰もが一心不乱にやってらっしゃると思います。そして僕も、音楽の力を信じて、やっています。僕の演奏も聴いてほしいですし、ほかの方のコンサートにも可能な範囲で足を運んでほしいです。やっぱり、生の音楽って素晴らしいものですから。僕の今の時間というものも”その日”にしかないし、聴きに来てくださる方の今も”その日”にしかありません。その2つの時間を共有することができたら、それはとても幸せなこと。よろしければ、ぜひ聴きに来ていただきたいです。




インタビュー・文/宮崎新之

お気に入り登録

「お気に入り登録」して最新情報を手に入れよう!
【インタビュー】ロー磨秀
【インタビュー】ロー磨秀