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【インタビュー】 高野百合絵(メゾ・ソプラノ)&黒田祐貴(バリトン)
[7STARS in 王子ホール] 高野百合絵(メゾ・ソプラノ)&黒田祐貴(バリトン)The Players
今年7月、佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021「メリー・ウィドウ」で共演したオペラ歌手の高野百合絵と黒田祐貴の2人が、9月19日、王子ホールにてデュオ・リサイタルを開催する。次代のクラシック界を担う活躍が期待される2人が、歌声を重ね合わせるステージとはどのようなものになるのだろうか。リサイタルへの想いを、たっぷりと語ってもらった。
今回、デュオでのリサイタルとなりましたが、決まった時はどのような心境でしたか?
高野 2年ほど前に初めて黒田さんの演奏を聴いたんですが、すごく魅力的な方だと思って、ずっと共演してみたかったんです。歌の素晴らしさはもちろんなんですが、ユーモアもあって、舞台人だと感じました。放つオーラも別格で、プロデューサーにもその感動を伝えていたので、夢が叶って嬉しかったです。
黒田 僕たちは2人とも、日本コロムビアのOpus OneというレーベルからCDを出させていただいているんですが、百合絵さんのリリースが僕のちょうど1年前くらい。プロデューサーから、リリース記念のリサイタルをやっていきたいというお話はいただいていたんですが、コロナ禍もあって百合絵さんの企画がまだできていなかったんですね。そういう経緯もあって、一緒にできませんかというお話を頂いたんですが、僕としても願ったり叶ったり。「本当に一緒でいいんですか?」と確認してしまったくらい(笑)。歌声はCDで聴いていましたし、今は「メリー・ウィドウ」の稽古で一緒なんですが、百合絵さんはいろいろなことに機敏に反応して、引き出しがすごく多い。何を求められているのか、じゃあこれはどうだ、という探求心もすごく感じています。とてもリスペクトできるし、音楽的にも素晴らしいですね。デュオでリサイタルをやれるということ、本当に幸せな限りです。
今、まさに喜歌劇「メリー・ウィドウ」の稽古中で、高野さんはハンナ役、黒田さんはダニロ役で出演されます。稽古はどのような手ごたえですか?
黒田 僕にとっては、この「メリー・ウィドウ」が大学を出てからの本格オペラデビューなんです。共演者はすごく素晴らしい先輩ばかりで、ある意味で大船に乗ったような気持ちでのびのびとやらせてもらっています。みなさんの歌はもちろん、立ち振る舞い、空気の感じ方、そういうことを毎日吸収して、糧になっています。僕と百合絵さんは、僕のほうが年齢は1つ上なんですが、学年は同じなんです。プロダクションの全体から見ると、すごく若い。役どころもハンナとダニロで絡みもすごく多いですし、この辺ちょっとやりにくい!?みたいなちょっとした話も、すごくやりやすいんです。本当に恵まれた環境でやらせていただいています。
高野 もう、本当にその通りですね。演出家、演出助手、振付、振付助手、音楽監督、3人の副指揮、プロデューサーなど、たくさんスタッフがいらっしゃるんですが、みなさんが多くのアドバイスをくださいます。音楽のみならず、振る舞い方、動き、ダンス、手の所作まで詳細に言っていただける。なかなかそんな現場は無いと思うんです。毎日、一分一秒が今後の糧になると感じています。
黒田 キャストの先輩方もいろいろ言ってくださいますし、そういう環境を作ってくださっていることが本当にありがたいんです。
高野 すごく支えられている感じがします。本当は主役の私たちがちゃんとしないといけないんですけど……。
黒田 立ち位置としては、僕らがグッと引っ張っていかなければいけないんですが、そこは若者のパワーで、やれることはやって、どんどん軌道修正をしてもらう。とにかくぐいぐいと進んでいくことだけは怠らずに。そうすることで、全体の士気を高められたらと、ちょっとは思っています(笑)。
高野 やりたいことはすべてチャレンジさせてもらえるし、それが変だったらちゃんと指摘をしてもらえる。軌道修正してくださるので、本当に伸び伸びと楽しく稽古をしています。幸せですね。
リサイタルの前に、舞台の稽古という形でコミュニケーションが取れていることも、演奏へのいい影響になりそうですね。
高野 コロナ禍もあって、本当に黒田さんをはじめ「メリー・ウィドウ」のスタッフさん、マネージャー、あとは家族くらいとしかコミュニケーションを取っていないんですよね、最近(笑)。特に黒田さんとは一緒の機会が一番多いんですが、世の中が普通の状態だったら、もしかしたらここまでお話したりしていなかったかも知れません。
黒田 やはり行動が制限されている部分はありますし、これだけ大きな舞台となると責任感として、積極的に外に出ていくことも控えています。最初は二人だけの音楽稽古が何度かありましたが、その頃は、本当に挨拶程度の知り合いな感じでしたよね(笑)。
高野 今はもう、何でもお互いに言い合える関係です。ここはどうしよう?って相談にも乗ってもらえるし、なかなかそういう関係性を作れる機会って無いと思います。
稽古を重ねていく中で、お人柄が見えたり意外なところを発見したりはありました?
黒田 僕はYouTubeとかでいろいろ見せてしまっているので、どう見られているか…もしかしたら引いているのかもしれませんが(笑)。ちゃんとお会いして仲良くなる前は、CDジャケットのようなクールな印象が強かったですね。僕は割と身長が高い方なんですけど、彼女も身長があって、すごくキレイでカッコいいイメージ。今もそういう部分はもちろんあるんですが、ちょっと一息ついた時の素の部分でキュートな一面もあるんだな、というのは稽古の合間で気づきました。
高野 黒田さんの前では既に、オフのところもさらけ出してしまっているので(笑)。カッコよく、強い女性でいたいというのは私自身の憧れとしてあるので、あまり弱い自分を見せたくないというのは実はあります。それは昔からそうですね。だからなのか、周りから怖い印象を持たれてしまうんです。
黒田 僕は最初、怖いとか話にくいとかはなかったな。彼女はヒールを履くと180㎝くらいになるので、僕と目線が合うんですよ。そういう女性は多くないので、「おおっ!」と思った部分はあります。でも、お会いする前よりも、やわらかな部分もあるんだな、と思っています。
今回のリサイタルについて、今はどのようなイメージを描いていますか?
高野 前半のステージでは、今の私たちが表現したいもの、目指しているもの、やりたいものをすべて出せるようなものを選んでいます。後半はL.バーンスタインの重唱曲「アリアと舟歌」をやります。40分くらいの曲なんですが、恐らくみなさんもあまりイメージが無い曲だと思うんですね。多分、あまり日本で演奏されていない曲なので、それをできることが私たちもすごく嬉しいんです。2人でゼロから作り上げてきたもの、私たちの世界観を楽しんでいただきたいと思っています。
黒田 プログラムとしては、前半にはCDに収録した曲も入れて、後半のバーンスタインは重唱ありソロありの8曲で構成されています。彼女はCDリリースから1年半、僕はまだ1年経っていませんが、それでもCDに入れた時とは違うエッセンスを入れられると思います。CDには僕の好きなものが詰まっていますし、ドイツ・リートは僕にとってすごく大事なもの。それを生演奏で聴いていただけること、少し時が経って、今回はこういう演奏するんだという新しい出合いも味わっていただけたらと思っています。
後半のL.バーンスタイン「アリアと舟歌」については、どのように決められたんですか?
黒田 彼女に教えてもらって初めてこの曲を知りました。調べ切れていないんですが、日本で演奏されたことがあるのかどうか、という曲です。高野百合絵という表現者と、黒田祐貴という表現者が先入観の無いバーンスタインの世界観を作っていく――お客様にとっても、先入観なく、ダイレクトに受け取ってもらえる楽曲なんじゃないかと思います。すごく楽しみですし、皆様にも楽しみにしてもらいたいですね。どんなものができるか、僕らもワクワクしています。
高野 私は曲探しがすごく好きで、常に面白い曲があったらメモしているんです。今回、二人でリサイタルをすることになって、黒田さんと何かできるはず、挑戦したいと重唱曲を集めていたんですね。でも、他の曲は“こういう感じ”、と言うイメージができるんですけど、このバーンスタインの曲にはそれがなくて。黒田さんだったら一緒に挑戦してくれるんじゃないかと思いました。ほかの方だと「若手だから…」って賛同してくれないことが多くて(笑)。でも黒田さんなら、面白そうって言ってくれるはず、と思って提案しました。そしたら、すぐに「面白い、やろう」って即答してくれて。
黒田 最初の打ち合わせで、どんなプログラムにしようか、何曲か候補がある中、百合絵さんがこの曲を出してくれて、その場でほんのちょっと聴いて…本当にほんのちょっとだけだったんですけど、「面白い!」って思って直感で、この曲はやろう、と決めました。楽譜も見ずに、は言いすぎか。でも、ほんとにその場でパラっと見ただけで決めちゃいましたね。「これは決定!」って。割と僕は見切り発車でやりたがる人間なんです(笑)。
高野 いろんな色のある曲なんですよ。歌詞の中にも、これってクラシックなの?ミニマルなの?それともポピュラー?ミュージカル?っていうような言葉が出てくるくらい。ジャンルを問わないような曲で、私はそういう曲が大好きだし、そういう表現者になりたいと思っているんです。ソプラノとかメゾとかじゃなく”高野百合絵”になりたい。この曲はそういう自分に合っているし、絶対に黒田さんは大賛成してくれると思っていました(笑)。その時は、まだあんまりお話したことがない頃でしたが、なんとなく自分と似てるんじゃないかと思って期待がありました。
それは期待が高まりますね! CDについても聞いておきたいんですが、まず高野さんのアルバム「CANTARES」はどのような作品ですか?
高野 スペイン歌曲をメインにしているんですが、元々フラメンコを趣味でやっていたり、昔からスペイン文化には憧れがあったんです。学部生の時は主にイタリア、フランス、ロシア、ドイツ歌曲等を勉強していましたが、大学院で出会ったスペイン歌曲は自分の中から「ここはこう歌いたい!!」という欲求がたくさん溢れ出てきたんです。それが自分でも嬉しくて、もちろん歌いやすいし、ドハマりしました。そこからスペインに行って、いろんな都市を回って、先生のところに行ったりもして……。行くたびに、自分に合うな、と感じました。それで、今回のCDでもスペイン歌曲を選びました。リサイタルでも歌う曲ですと、F.オブラドルスから2曲あるんですが、同じ作曲家と思えないくらい違うんですね。それはスペインの国民性から来ていて、すごく変化を好むんです。そこが私の精神に合ってると思います。レコーディングもいつもの演奏と違うのでいろいろ意識しました。お客様の顔も見えないし、身振り手振りをしたとしても伝わらないじゃないですか。声と息だけで、いかに表現できるか。聞こえないくらいのため息、ウッと詰まるような呼吸など、細かいところまでこだわりました。それはコンサートではなかなかお客様に届かないパフォーマンスかもしれなので、レコーディングならではのこだわりでしたね。
黒田さんのアルバム「Meine Lieder」はどのような作品でしょうか。
黒田 僕はタイミング的に、昨年の夏ごろにお話をいただいたんですが、その頃は既にコロナ禍になっていて。昨年は、4月以降の仕事がどんどんなくなっていた状況で、NISSY OPERA2020の「セビリアの理髪師」でオペラデビューする予定だったんですが、それも先送りになってしまいました。音楽家として、表現者として、お客さんに伝える場がなくなっていたんです。そんな中でも「アベノマスク」の替え歌をYouTubeにアップしたりはしていたんですけど(笑)、本当に伝えたいものを、伝える場が無かった。そういう状況でお話を頂けたので、僕の中では大きなことでした。今の自分の音楽を、劇場じゃない場で伝える機会を得られたことが、すごくありがたかったです。選曲に関してですが、僕は歌を始める前から、ドイツ・ロマン派の交響曲とかが好きだったんです。CDに入れているR.シュトラウス、J.ブラームス、G.マーラーなどは、声楽曲を知る10年以上前、何なら20年くらい前から交響曲とかの方を知っていて、好きだった作曲家。歌をやるようになって声楽曲も書いていると知り、勉強しはじめました。選曲の時も、プロデューサーにとりあえず好きなものをバババっと出して、そこからバランスを見ながら決めていきました。本当に好きな作曲家で、もっともっといい曲がたくさんあるので、これをきっかけに興味を持っていただけるような曲を選んでいます。
今後、音楽家として挑戦したいことは?
黒田 オペラ作品とか、こういう曲をやってみたいとかはもちろんあるんですけど……アンサンブルがすごく好きなので、ピアニストと、だったり、オーケストラの中でこの楽器と僕の声を合わせて、というのはやってみたいですね。ああいうのって生ものじゃないですか。ライフワークという言い方はあまりしたくないんですが、僕が生きていく上で、その瞬間、その瞬間にしか起こらないものの中にずっと身を投じていられたらと思います。
高野 いろいろな経験をして、私を成長させてくれるものには、何にでも挑戦したい。そして、オペラとか、ミュージカルとか、ポップスとか、そういうカテゴリーに区分するのではなく、「職業は?」と聞かれたときに、「高野百合絵です」、と答えられるようになっていきたいです。まだ未熟で、何も結果を出せていないですが、その気持ちは常に私の中にあります。
ジャンルレスに自分の表現したいものと向き合うのは、すごくカッコイイと思います! 最後に、今回のリサイタルを楽しみにしている方にメッセージをお願いします!
高野 「私たちの世界へようこそ!」
黒田 本当にひと言にしたね(笑)。百合絵さんの言葉を貰うようでアレなんですけど、例えば僕がドイツ・リートをやるときにも、あんまりバリトンって書きたくなくて、自分で演奏会を企画してやったときも“声楽家とピアノの演奏会”にしたんですよ。そういう小さなところですけど、僕にもバリトンっていう枠にハマらなくてもいいじゃないという気持ちがあるんです。なので今回も、「高野百合絵と黒田祐貴という、2人の表現者が作る世界を期待していただきたいし、楽しんでいただけるように。いろんなところから吸収して、練り上げて作っていきます。どうぞ楽しみにしていてください!」
高野 本当にその通りです(笑)。楽しみにしていただければと思います!
インタビュー・文/宮崎新之
※黒田祐貴の「祐」は旧字が正式表記
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