櫻井孝宏「誰かの“きっかけ”になれば」
声から芸術へのアプローチ 音声ガイドインタビュー『モネ それからの100年』
クロード・モネ《睡蓮》1906年 吉野石膏株式会社(山形美術館に寄託)
7/14(土)から横浜美術館で『モネ それからの100年』が開催されます。
本展覧会では、日本初公開の知られざる作品を含むクロード・モネの絵画約25点を展示、モネの絵画の魅力を様々な切り口から再発見することができます。また、絵画のみならず版画、写真、映像など幅広い分野の現代アートも多数展示され、モネの芸術との間に時代や地域、またはジャンルを超えた繋がりを見出します。
ひたすらに風景を見つめ、描き続けた印象派を代表する画家のモネ。彼の画業集大成となる『睡蓮』の制作に着手してから100年、今日にいたるまでモネの作品は人々を魅了してやみません。
今回の展覧会の音声ガイドは、声優の櫻井孝宏さんが務めます。音声ガイド収録を終えたばかりの櫻井さんにお話を伺いました。
---まずは収録の感想をお聞かせください。
セリフやナレーションとは違う組み立てで、語りのようなニュアンスがあって楽しかったです。モネについての知識が増えたことで、作品への興味が沸きました。僕ら声優が声で(芸術に)アプローチするということは、美術展という場があってこそできることで、本当に貴重な経験でした。たくさんの方に聞いてもらいたいです。
---「音声ガイドの収録」という面で特に心がけたことはありますか?
利用する方に聞きやすいように、でしょうか。(音声ガイド内に登場するフレーズは)モネに精通している人には周知の情報かもしれませんが、初めて耳にする人もいます。なので、初めて聞く方にもわかりやすく、心に沁みこむようにできたらと臨みました。
---櫻井さんはアニメやテレビ番組などのナレーションもされていますが、ナレーションと音声ガイドの違いは何でしょうか?
音声ガイドはナレーションに近いのかもしれませんけど、ナレーションほどクールではなく、もう少し語りかけるようなニュアンスが入っています。聞く方との距離が少し近いようなイメージですね。そのあたりも意識してやらせていただきました。
音声ガイドは、たくさんのお客様がいる美術館の中で、ひとりで聞くじゃないですか。結果、それは切り取った自分の空間になる。作者と作品に集中する感じがとても尊いと思いましたね。
---音声ガイドでは、いつもの櫻井さんとは違う顔が見られるということでしょうか?
いえ!メインは『モネ展』ですので、僕が見えないのが前提です。あくまで美術展に添えられているものであって邪魔をしたくはありません。
---特に印象に残っている作品はありますか?
やはり『睡蓮』ですね。以前、直島(香川県)にある地中美術館で、たまたまモネの作品を見たことがあったんです。展示室の雰囲気と作品がとても合っていてとても印象的でした。あの作品も『睡蓮』に繋がるものなのではと思うと、感慨深いですね。
---そのほかに気になる作品や、展覧会の見どころを教えてください。
「II 形なきものへの眼差し-光、大気、水」にある『セーヌ河の日没、冬』(※)でしょうか。奥さんが亡くなったりしてモネは波乱万丈な時期だったんですが、自然現象に対して感銘を受け、再び創作意欲を取り戻すといったドラマチックなところがあります。
『睡蓮』を基に現代アーティストたちがオマージュしている「III モネへのオマージュ」も見どころですね。ロイ・リキテンスタインさんや、鈴木理策さんの写真が展示されるんですが、一枚一枚の写真に色々な想いや歴史があると考えると、芸術は“時間”でも表現できるのだと思いましたね。
(※)【補足】『セーヌ河の日没、冬』は、モネが後半生に没頭することになる連作の先駆けとなった作品のひとつ。
---今回、モネを知ってみて、声優と画家の共通点はありましたか?
これは僕の考えなのですが、“0から1を作り出す”のと“1を2に変える”には、大きな違いがあると思っています。モネたち芸術家は前者で、声優は後者で職人なんです。だから僕はこれまでの経験を踏まえて“1を2に変える”ことはできるかもしれませんが、何もないところから「アイディアを出して」といわれると、戸惑ってしまいます。根本がアーティスト(=芸術家)なのか、またはアルチザン(=職人)なのかという部分は大きく違うのではないでしょうか。
---直島へ行かれたとおっしゃっていましたが、アートはお好きなんですか?
子どもの頃から絵を描くのが好きでした。母はマリー・ローランサンとか、好きな画家のリトグラフを家に飾っていたし、父は知り合いに絵を描く人がいました。
美術展や博物展に行くことも稀ですがありますよ。ルーブル美術館はすごいですね! 1週間はここにいられると思いました(笑)。あと、絵の前で(目の前の絵画作品を見ながら)デッサンをしている人がいるのが衝撃的でした。海外では(その場で模写することが)全然OKなんですよね。日本は展示のしかたがきっちりしていて、それはそれで美しいですけど。欧米の美術との距離感は面白いなって思いました。フランクだなって(笑)
---ちなみに、お休みの日や空き時間はどう過ごしていらっしゃいますか?
レコード屋に行っています。レコードは安ければ100円くらいから買えちゃうんです。自分が欲しいなって狙っているレコードもありますが、ジャケットを見て「お、良さそうだな」なんてジャケ買いをしてしまうこともあります。
レコードのジャケットも、なんだか美術的じゃないですか? 音楽の内容はそれほど…でも、ジャケットが美しくて家に飾ったりもしています(笑)。ジャケットの四角の中にもアートを感じますね。
---『睡蓮』のようなレコードジャケットがあったら買いますか?
欲しいです! そういえば…モネの画集を持っていました。それも多分ジャケ買いで買ったものです(笑)。普段は飾りなのですがときどき見て、っていうスタンスが好きです。芸術との距離感ってそれくらいがちょうどいいのではないでしょうか。「詳しくなきゃいけない」というのはなく、フィーリングでいいんじゃないかなと。
『モネ展』も、少しでも興味があったらぜひ来てもらいたいです。
---最後に、『モネ展』を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
みんなでワイワイ言いながらアートを見たりするのもいいじゃないかと思います。周りの方に迷惑をかけない程度にですよ(笑)。『モネ展』がそんなふうに絵を楽しむ“きっかけ”になればいいですね。もしかしたら、ハマる方もいるかも。今回、僕が音声ガイドで参加させていただくことで、そんな誰かの“きっかけ”になったらいいなって思います。たくさんの方に聞いてもらえたら、とても嬉しいです!
開催概要
モネ それからの100年
開催期間
7/14(土)~9/24(月・休)
時間
10:00~18:00
夜間開館(20:30まで):8/10(金)、8/17(金)、8/24(金)、8/31(金)、9/14(金)、9/15(土)、9/21(金)、9/22(土)
※入館は閉館の30分前まで
会場
横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)
休館日
木曜日
※8/16(木)は開館
(文:工藤明日香/ローソンチケット)
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