【インタビュー】ちばてつや

 

ちばてつや

“光陰矢の如し”連載50周年を記念する展覧会

 

60~70年代の若者を熱狂させ、社会現象にもなった『あしたのジョー』。連載開始50年を記念して行われる今回の展覧会では、著者が選んだ原画の展示に加え、アニメのセル画や新作アニメ『メガロボクス』の制作資料なども大公開。『あしたのジョー』の魅力を存分に堪能できる内容になっている。本誌ではスペシャル企画としてちばてつやの単独インタビューを敢行。まずは連載を開始してから、50年間という歳月について尋ねた。

「“光陰矢の如し”ですね。ついこの間まで、ジョーのラストシーンをどうするかで悩んでいたのに、50年も経ったなんてびっくりです」

『あしたのジョー』の連載開始は1968年。ちばが20代最後に手がけた作品だ。人気原作者の高森朝雄(梶原一騎)とちばてつやがコンビを組んだということもあり、あっという間に『週刊少年マガジン』の看板作品に。しかし、人気の裏には壮絶な戦いがあった。

「マンガ家になって10年くらいたって、ちょうど疲れがたまってきているところに、毎週締め切りがあるものだから、ますます疲れが溜まってしまってね。ちょうど力石が死んだあとくらいかな、体調を崩して入院したんです」

キャラクターに自身を投影しながら描いたため、力石とジョーの死闘に体力と精神力が奪われてしまったという。

「身体を壊すとどうしても話が暗くなるんです。私は明るい少年マンガをずっと描いてきて、読者が元気になるようなマンガを描きたいと思っていたのですが、力石戦のあとは、絵も暗くなり、劇画調になってしまった。ジョーの悩みを背負ってしまったような感じでしたね」

壮絶な執筆作業のなかで、ちばが辿り着いた希望ともいえる1枚が今回の展覧会で展示される。それは力石の死からジョーが立ち直ることになった場面。

「ジョーがドサ回りの仲間たちとカーロス・リベラの試合をテレビで見る場面。ちょうど体調も回復してきたときで、『もう 雨あがってら』とジョーが走り出すシーンがあるのですが、そこでとてもいい目がかけたんです」

再起に向けて決意を固めたジョーの“目”が描けたことで、ちばは再び活力を持ってジョーに向き合うことになった。

「“目”というのは漫画家にとっては魂を入れるようなもの。その目が何を見つめているか、どこを見つめているか、曇りがあるかないか。“目”を描くときは息を詰めて集中して描きます。だから、そういう“目”が描けて、これでまた後半を描けるなと思った1枚です」

 

ちばてつや

 

力石戦を筆頭に、数々の名試合が見られるのも展覧会の見どころ。アクションのカッコよさ、試合展開、コマ割りなど、単行本で気づかないことも発見できそうだ。

「試合のシーンでは、あえて視点の位置が変わらないように意識していました。ついつい上から描いたり、下から描いたりしたくなるんですが、視点を変えちゃうと流れがわからなくなってくる。右から左へ殴りつけたら、そのまま左に顔が歪んでいくというように、できる限りドキュメンタリーで追っていくようにしていました。どうすれば迫力がでるか、描いては消し、描いては消し、工夫して描いてましたね」

今回の展覧会が行われるのがスカイツリータウンにある東京ソラマチというのも実は重要なポイントだ。なぜなら『あしたのジョー』の舞台は東京・下町の泪橋近辺であり、ちばの地元もスカイツリーがある隅田川のほとり。非常に縁のある場所での開催なのだ。

「下町はね、いろんな意味で私の故郷なんです。ジョーを泪橋からスタートさせたのもそういう理由です。要するに私にとっては目を瞑っていても描ける場所なんです。ドブ川があって、外れている板を覗くとイトミミズがいて、そこをネズミがピューッと走っていったりね。ドブの臭いすら懐かしいと思える(笑)。会場のソラマチなんて通学の時に毎日のように側を通っていた場所だからね。きっと同級生のジジババがたくさん遊びに来てくれるんじゃないかな(笑)」

展覧会は名シーンをまとめた動画や人気作家からのトリビュートイラストなども展示され、これまで『ジョー』を知らなかった人でも楽しめる内容となっている。

「会場ではアニメも上映されるそうなので、『ジョー』を知らない人はまず、アニメの『ジョー』や『メガロボクス』を入り口に興味を持ってもらえたら嬉しいですね。それで気にいったら50年前に私が描いた漫画を読んでもらえたら嬉しいなと思います。私も会場に行くのを楽しみにしています」

 

プロフィール

チバテツヤ

'39年東京生まれ。'56年に単行本作品でプロデビュー。今年、18年ぶりの新作『ひねもすのたり日記』が発売。

 

展覧会情報

 

あしたのジョー

 

連載開始50周年記念「あしたのジョー展」

 

開催日時

4/28(土)~5/6(日)10:00~18:00

※最終入場=閉場の30分

会場

東京ソラマチ® 5F スペース634

 

 

インタビュー・文/高畠正人

写真/村上宗一郎

構成/月刊ローチケ編集部 4月15日号より転載

※写真は本誌とは異なります