【インタビュー】くろくも

歌い手シーンの人気者の意外な苦悩。
存在を賭ける10周年ライブ

現在の日本のポップミュージックの重要なファクターであるボカロPと歌い手が作り出す音楽。2012年から動画投稿サイト『ニコニコ動画』で歌い手として活動開始し、現役高校生デビューを果たしたくろくもが活動10年を機に「GRILLETTO～10th AnniversaryLive～」を実施する。SNSシーンで人気を獲得し、今やTwitterは13万人フォロワー、YouTubeは25万人の登録者を誇る彼女にとって、節目の出来事はなんだったのだろうか。

「『歌ってみた』と言えばEXIT TUNESさんが主催されていた大きいライブがあって、私もそこに出させていただいたことで、聴いてもらえることが多くなったし、視聴者さんもそこから増えて。1stアルバム『amorous profumo』を出そうということになったきっかけでもあるので、大きいですね。しかもそれが人生で3回目くらいのライブで、右も左もわからず武道館に立たされたんですよ（笑）。でも、歓声を浴びるのってこんなに気持ちいいものなんだなって、そこからライブにもいっぱい出るようになりましたね」

デビュー直後にいきなり大舞台を経験した彼女。同時に現在のボカロP出身作家の作る楽曲の進化の只中で、同時に成長してきたシンガーでもある。

「個人的にはキーが高くても聴き馴染みのある音楽の方が歌いやすいというのはあって、最近の音楽は高低差もそうなんですけど、転調やリズムの刻み方とか全体的に難しくなりましたね。毎回、ヒーヒー言いながら歌っているんですけど（笑）」

そんな苦労を全く感じさせない進化した現在進行形のオリジナル楽曲が詰まった2ndアルバム『bloom』（2020年）。スケール感のあるバラードやラウドロック、R&Bやトラップ的な譜割りなど、卓越したスキルを聴かせてくれた作品だ。だが、コロナ禍の中、制作した本作の時点で彼女自身のメンタルは実は厳しいものがあったという。

「コロナもあっていろいろ閉ざしちゃうというか、なかなか活動も苦しいなって、悩んでいた中、自分のためというよりリスナーさんのために何か行動を起こさないと、と思って完成したのが『bloom』なんです。書き下ろしをしていただいたアルバムで、私、あんまり「今の私の気持ちはこうなんだよ」って言葉で言えないタイプなんですね。なので、新たな一歩を踏み出したい気持ちもあったので、それを曲でちょっとずつ表したというのが大きいアルバムになったと思いますね」

本作のリリース記念ライブは配信で行われたが、その後は毎年恒例の誕生日ライブも情勢を鑑み延期に。ただ、SNS上ではコンスタントにカバー曲の歌唱をアップしており、前述の「コロナで閉ざしてしまって」という発言には驚きを禁じえない。

「この2年、“無”でしたね。コロナ以前からもともと友達とあんまり遊ばないし、家に引きこもっている人間なんですけど、コロナになってさらに遊ばなくなって。このままだと『あ、枯れる』と思いました（笑）。今もうまく浮上できていなくて。自分では大丈夫だと思っていても体はガタがきていて、ちょっと休もうかなと思った時期もあって。でも、休んでいるうちに人って離れて行くんですよ。『この人、更新しないんだ。毎日、配信楽しみだったけど、他の人の配信に行こう』って。それが分かるからこそ、『やらなきゃ』っていう悪循環に陥って。以前は『歌いたい！』だったのが『やらなきゃ』になっちゃって。正直、ライブもすごく怖くて、人前で歌えるのかな？　みたいな気持ちもあるんですけど、ここで勇気を出して行動しなきゃダメだ！と思って、頑張ってワンマンしようって決意したんです」

素直すぎる吐露をまさかインタビューで知ることになるとは思わなかったが、この決意が今回のライブタイトル「GRILLETO」（イタリア語で引き金）の根拠でもある。

「TwitterとかSNS上では見えるけど、この辛さはみんなに会えてないからっていうのも絶対あると思って。みんなに会わなきゃダメだなと（笑）。だからライブの当日まで分かんないんです。ライブをやったら心が晴れるかもしれないし、いい意味で何かのきっかけ、みんなにとっても何かのきっかけになれるライブができたらなって」

週単位で気分が変わる現状を見据え、ライブ本番の締め切りまで考えるつもりだという。バンドメンバーはおなじみの佐々木正明（Gt）、kyo（Ba）、ハナブサユウキ（Key）、直井弦太（Dr）、ショウイチ（マニュピレーター）という布陣がくろくもの今をバックアップする。

「自分の気持をうまく伝えられなくて空回りしてる部分は絶対あると思うので、今回のライブでは全部出そうかな、すっきりしちゃおうかなみたいな感じ……に、なるといいですね（笑）」