日本のトップ奏者10名が集う東京チェロアンサンブルが、2024年5月に「15th ANNIVERSARY」コンサートを行う。本公演に向けて、主宰であり奏者の三宅依子のほか、同じく奏者の清水詩織、宮田 大、中 実穂、新倉 瞳、堀沙也香、そしてアレンジャーの小林幸太郎に話を聞いた。
――まずは結成の経緯と活動状況を教えてください
三宅 結成は2008年の3月。私が通っていた桐朋学園のチェロアンサンブルの授業がとても楽しかったので、卒業しても続けたいと思い、同世代の仲間に声をかけたのが始まりです。当初は多数の奏者が参加していましたが、10回目の2018年から現在の10人に固定し、後輩の小林幸太郎さんにアレンジをお願いしてオリジナルの楽曲を演奏しています。活動は、紀尾井ホールでの自主公演を年1回行うほか、ここ3年はスポンサーの伸和コントロールズさんからの依頼公演が年1回あり、ホール等の依頼にも応えています。
――チェロアンサンブルの魅力とは?
清水 チェロは音域が広く、オーケストラでもここぞという時にいいメロディが出てくる楽器。チェロアンサンブルは、そうした管弦楽曲のメロディも内声も弾けるので幅広さがありますし、この楽器にしか出せないサウンドがあります。
宮田 活動を続けていると教わる機会が段々減って、演奏のチェックが難しくなります。その点アンサンブルをやると、皆がアドバイスやアイディアをくれるので、新たな方向性が見えてくることがありますし、オーケストラの曲をチェロだけで弾くと音色をイメージする勉強の場にもなります。
――では、東京チェロアンサンブルならではの魅力とは?
清水 物凄くスペシャルな10人ですが、それぞれの個性を生かしつつ調和もとれて、まさに“フィットした”の言葉がピッタリ。普段別々に活動していても、ここに戻ると家族だと感じます。
中 最初は駆け出しだったメンバーも、徐々に音楽表現を打ち出せるようになってきた。それがアンサンブルに良い影響を与えていますね。
新倉 様々な曲に挑戦し、「馴染みがない方も楽しめる上に質が高い」音楽を提供する意識が強いのが特長だと思います。
堀 通常のチェロアンサンブルはパートを固定することが多いですが、私たちは曲によって変わるので、1つの公演の中でカラーが変化します。また小林さんもチェリストなので、弾けない譜面は書かないですし、リハーサルの感触や私たちの提案に沿って手直ししてもらえることも強みです。
宮田 皆が個性に溢れていて、10人が一緒になった時には、単純なプラスではなく数百倍になるパワーを持っています。
――アレンジャーの立場としてはいかがですか?
小林 まず同じ楽器だけでできるアンサンブル自体がとても珍しい。例えばサクソフォーンのアンサンブルも、アルトやテナーなど種類の違う楽器が使われます。その点チェロは音域の広さと音色の豊かさの点で万能な楽器。通常は低音楽器がメロディを奏でる場合、高音を薄くする作業が必要になりますが、音域が広いチェロでは、それをやらずに配置の変換やメロディの交替ができます。しかも東京チェロアンサンブルは10人いるので、その可能性や選択肢の幅が物凄く広いのが魅力です。
――さて、5月のコンサートの内容は?
三宅 今年は初めて東京オペラシティのコンサートホールで開催します。まずは15回目なので、お祭り=カーニバル風にしたいというのがコンセプト。そこで「動物の謝肉祭」をメインにし、アレンジャーの小林さんの推薦曲としてピアソラの「ル・グラン・タンゴ」を加えました。あとは過去に演奏して人気が高かったバッハ、ヴィラ=ロボスの作品と、鷹羽弘晃さんの「蛍なすほのかに聴きて“日本の旋律による音風景”」を選びました。
――「蛍なす~」はどんな曲でしょうか?
中 2002年に桐朋学園のチェロ科の学生用に書かれた曲。元々は14人編成で、10人バージョンは今回が世界初演になります。前半は「音取(ねとり)」と題した雅楽風の音楽で、笙やひちりきなど和楽器の音が横溢し、後半は有名な「ほたるこい」の旋律が色々な場所から聞こえて来ます。斬新な上に、日本人なら皆が馴染める曲だと思いますよ。
――新作の「ル・グラン・タンゴ」と「動物の謝肉祭」についてはいかがでしょうか?
小林 ピアソラが書いた純粋なチェロ曲はこれだけ。アニバーサリーにはそうした曲をアンサンブルで演奏して欲しいとの思いがありました。元々はソリストありきの曲ですが、これだけのメンバーですから、全員にメロディがまわるよう編曲しました。また原曲はピアノが技巧的なので、その表現も聴きどころです。
三宅 「動物の謝肉祭」はほぼ全曲を演奏します。15回記念の今回は一人の音を長く聴かせたいとの思いがあって、それがアレンジにも反映されています。宮坂拡志がコントラバス感十分のソロを弾く「象」などは特に聴きどころですね。
宮田 「白鳥」のピアノのような内声部の動きも今回の注目点です。
――最後に、今回の公演に向けての思いをお聞かせください
新倉 この10人はお互いを尊重しあえているので、安心して弾ける部分も刺激になる部分もあります。コンサートではそうした思いも皆さんに伝わるのではないでしょうか。
堀 私たちは「今の自分たちにしかできないアンサンブル」をモットーに掲げていますし、今回も「15回だからできること」を皆が真剣に考えて取り組んでいます。それが聴衆の皆様に伝わるといいですね。
清水 主催公演は年1回ですから、プログラムの大半がしばらくは耳にできないと思います。なのでぜひ聴いて欲しい。
全員 とにかく1回限りのコンサートなのでお聴き逃しないよう、こぞって会場に足を運んでください。
取材・文/柴田克彦