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【インタビュー】坂入健司郎&吉見友貴│ラフマニノフ生誕150周年記念コンサート ~タクティカートオーケストラ 特別公演~

【インタビュー】坂入健司郎&吉見友貴│ラフマニノフ生誕150周年記念コンサート ~タクティカートオーケストラ 特別公演~ 写真左から坂入健司郎(指揮)、吉見友貴(ピアノ)

【インタビュー】坂入健司郎&吉見友貴

ラフマニノフ生誕150周年を記念し、2月23日(木)に東京オペラシティ コンサートホールで、オール・ラフマニノフのコンサートが開催される。新進気鋭の指揮者・坂入健司郎がタクトを握り、若さあふれるタクティカートオーケストラのサウンドでラフマニノフの生涯に想いを馳せるプログラムをお届けしていく。さらに、2022年ヴァン・クライバーンコンクールのクォーター・ファイナリストとなったピアニストの吉見友貴が出演し、一夜限りの貴重な特別公演となっている。果たしてどのようなコンサートになるのか、坂入と吉見の2人に話を聞いた。

――今回のコンサートはどのようなものになるのでしょうか?

坂入 今回はラフマニノフの生誕150周年記念コンサートということで、初期の作品「スケルツォ」から彼を代表する傑作「ピアノ協奏曲第2番」をご堪能いただいて、最後の大作となる「交響的舞曲」まで、ラフマニノフの人生を追っていただけるようなプログラムになっています。また、今回ご一緒するタクティカートオーケストラは2年ほど前に初めて聴きました。若手のプロオーケストラはたくさんありますが、その中でも素晴らしいサウンドだと思っていて、いつか共演できたらと思っていたので念願がかなって嬉しいです。

吉見 私自身、「ピアノ協奏曲第2番」を演奏するのは久しぶりで、ステージで弾くのは4年ぶりくらい。タクティカートオーケストラとご一緒するのも初めてで、私は生の演奏をお聴きしたことはまだないんです。それで映像で聴かせていただいたんですが、本当に熱量があって、若手の優秀な奏者が集まっていました。その熱量が本当に爆発するんじゃないかと、今からすごく楽しみです。


――久しぶりの「ピアノ協奏曲第2番」、以前との感覚の変化はありましたか?

吉見 まだ試行錯誤しているところではあるのですが、この曲はとても掴みやすいので雰囲気だけで結構なんとなく弾けてしまうような感覚があるんですよ。今ボストンに留学しているのですが、習っている先生がラフマニノフに関しては非常に厳しい方。演奏する際に解釈を委ねてはくれますが、的外れなことをしたらすぐに正してくださるんです。どう弾きたいのか、どう解釈して、どう構築するのか…そういうことを雰囲気でやるのではなく、しっかりと掴んで演奏できるようにしたいですね。


――坂入さんはラフマニノフについてどのような印象ですか?

坂入 実はラフマニノフ作品の指揮って、これまであまりやっていないんです。ピアノ協奏曲の2番と3番は指揮をしたことがありますが、今回のようなオール・ラフマニノフ・プログラムは初めて。とはいえ、大好きな作品ばかりなのでとても楽しみにしています。ロシアの先生からは、ラフマニノフの音楽には「歌」があると教えていただいたことがあります。日本ではあまりラフマニノフの歌曲は有名ではありませんが、歌曲の延長で作曲されていることが多いんです。あとは、宗教観というテーマも非常に大事で、古くから伝わる踊りとロシア正教に基づいた神との対話、脈々と受け継がれている歌というロシア文化のいいところを凝縮したような作曲家だと思っています。


――ラフマニノフの生涯を感じられるコンサートとして非常に楽しみにされている方がたくさんいらっしゃると思います。ラフマニノフならではのサウンドの楽しみ方などはありますか?

坂入 ラフマニノフはピアニストとしても天下一品で、生きているときから非常に評価されていましたが、作曲家としては挫折が多い人生でした。自分では代表曲になるようないいものが書けたと思っていても全然評価されずに、精神を病んでしまうこともありました。そういうことがあったからこそ、彼の作品には人間臭さがあります。1940年代まで生きていた作曲家にしては、非常にロマンティックなんですよ。バルトークとかシェーンベルクのような、新しい響きがする音楽も生み出されていた中で、徹頭徹尾ロマンティシズムを貫いていました。そこが魅力だと思うので、それを感じていただけたら嬉しいです。

吉見 ピアニストとしても本当に非常に素晴らしい人物なので、私たちにとっては非常に重要な作曲家です。聴いていてもロマンティシズムにあふれていて、同年代の作曲家と比べてしまうと、いわば時代遅れな感じがしてしまうかもしれません。ですが、そこには当時のロシアという国への深い想いや歌がこめられていて、それがいたるところに感じられるんですね。だからなのか、非常に共感しやすくて現代のポップスにもつながるんじゃないかと思うくらい親しみやすさを覚えるんじゃないでしょうか。


――今回はナビゲーターとしてYouTubeチャンネル「厳選クラシックちゃんねる」のnacoさんが登場し、解説とともに楽曲を楽しめる趣向になっているそうですね

吉見 今回のようにナビゲートがついている演奏会って、そんなに多くはないと思います。丁寧に楽曲について解説していただけるのでクラシック初心者の方にも楽しんでいただけるはずですし、コンチェルト以外はあまり演奏される機会も多くないので、そういった部分ではコアなファンも楽しみにされていると思うんです。どちらにも楽しめる演奏会じゃないかな。

坂入 「ピアノ協奏曲第二番」は、フィギュアスケートでも使われていましたし、馴染みやすさで言えばもう“掴みはOK”という感じですね。それ以外でも、今回をきっかけにラフマニノフの世界に入りやすいプログラムになっていると思いますので、ラフマニノフがお好きな方はもちろん、初めての方にも馴染んでいただけると思いますよ。


――タクティカートオーケストラについての印象もお聞かせください

吉見 タクティカートオーケストラのメンバーは、だいたいが同世代。中には試験の伴奏をしたとか、そういうメンバーもいるので馴染みやすいんじゃないかな。それに、若いということで音楽に対してとても柔軟だと思うんです。いろいろなことが試せるというか、普段できないようなことができてしまうんじゃないか、という音楽的な期待もあります。もちろん本筋から外れるような演奏はダメですが、この曲はこうじゃないと、という凝り固まったものが無いと思うので、本質的なものを探るためにいろいろなことができるんじゃないかと思っています。

坂入 タクティカートオーケストラが立ち上がった時に、コアなクラシックファンでもアマチュア団体なのかプロ団体なのか認識できていない方々がたくさんいて、個人的には非常に悔しい。こんなに素晴らしいオーケストラがあるんだ、ということをプレゼンテーションすることができるとても素晴らしい機会だと思っていますし、多くの方々にタクティカートオーケストラのファンになっていただきたいですね。それだけのポテンシャルがあると思っているので、私も強い意気込みで今回の演奏会に臨みます。僕の音楽を、ではなく、タクティカートの音を聴いていただきたいという使命感をもって臨みたいと思います。


――ポテンシャルを実感したエピソードはありますか?

坂入 先ほど吉見さんもお話されていましたが、非常に柔軟なんですよ。すごく自然体でいろいろな音色があふれていて、クリエイティブな発想ができるんですね。ピアニストがこう行きたいから次はこういう音にしてみよう、みたいな反応も非常に早い。とても闊達に反応している印象で、それがタクティカートの財産だと思っています。技巧的なところに繋がるのかもしれないですが、すぐに音楽の深い世界、面白い部分にまで踏み込むことができるオーケストラだと思います。


――最後に、コンサートを楽しみにしている方々にメッセージをお願いします

吉見 タクティカートオーケストラは、ほかのプロオケとはひと味もふた味も…何味も違うオーケストラですので、ぜひそのサウンドと、私のコンツェルトも聴きに来てくださったら嬉しいです。

坂入 2023年はラフマニノフ生誕150周年ということで、聞き逃してしまうのはもったいないくらい、ラフマニノフのすべての魅力、たくさんの功績、素晴らしい音楽をお届けできればと思います。ラフマニノフがお好きな方も、まだ初心者の方も、解説付きですのでぜひ楽しんでください!



インタビュー・文/宮崎新之


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