中学卒業後に留学し、欧州を中心に活動してきた福田廉之介。2014年メニューイン国際コンクール(ジュニア部門)優勝を皮切りに、2017年ハイフェッツ国際、2018年ハノーファー国際コンクールなどで入賞を重ね、最近では自身がプロデュースする室内楽「The MOST」公演を国内各地で企画。日本での活動を本格始動させている。
今回のソロ・リサイタルでは、共演には同郷である岡山出身のピアニスト松本和将を迎え、プーランクやラヴェルなど、フランスの作曲家の作品を中心に演奏する。まだ22歳という若き才能は、どんな音を響かせようとしているのだろうか。話を聞いた。
――2020年1月にCDデビューしてから、東京での初ソロ・リサイタルとお聞きしました。今、どんな心境ですか?
率直に嬉しいです!CDデビュー直後から、コロナの影響で厳しい時期が続いていましたから。これまでにも様々なコンサートに出演してきましたが、改めて東京でソロ・リサイタルを開催できるということはとても嬉しいですし、すごく楽しみにしています。
――今回のプログラムはフランスの作曲家による楽曲を中心に構成されていますね。
フランス作品をプログラムに組み込んだ理由は、まず、自分自身がスイスのフランス語圏に住んでいることが大きいです。もう6年ほど生活しており、その中でフランス音楽に触れる機会も多くありました。以前はそこまで好きではなかったフランス音楽ですが、やっと聴く上でストンと腑に落ちるところもあって、今ではとても好きです。その魅力を全面に出していきたいですね。
――フランス音楽のどういうところが魅力的なんでしょうか。
日本人の感覚では、和声進行的によくわからないところも多いですし、戸惑う部分あると思います。けれど、そこがフランス音楽の魅力のひとつでもあり、そういった点を今回のリサイタルでは、様々なキャラクターで演奏したいと思っています。繊細な音楽に聴こえるけれども、芯にしっかりとしたものがある。そんなところがフランス音楽の1番の特徴かもしれません。初めはすごくフワッとして聴こえるけれど、よくよく分析すると実はすごく緻密でもある。意外とドイツ語圏の音楽よりもしっかりしているようにも感じています。
――日本では新鮮に感じられるサウンドかも知れませんね。福田さんは3歳からヴァイオリンをはじめたとのことですが、どのようなきっかけだったんですか?
当時、団地に住んでいて周囲にピアノを習っている子がすごく多かったんです。それで、ピアノだとみんなと同じになっちゃうからと、母がヴァイオリンをやってみたらいいんじゃない?と言ったのがきっかけです。両親とも音楽とは関係のない仕事をしていて、ヴァイオリンを突き詰めようとすると、こんなにもお金がかかることも知らず……(笑)。
――小さい頃のヴァイオリンの印象は?
記憶にない小さい頃は、楽しんでいたみたいです。物心がついてからは……もう苦しい思い出しかないですね(笑)。幼少期は基礎練習がとにかく苦痛でした。
――それでも、ヴァイオリンを続けてきたのは、どんな理由からでしょうか。
やはり演奏会ですね。聴いてもらえることが唯一の喜びでした。はじめての演奏会は、ショッピングモールの吹き抜けの広場で30分ほど演奏したのですが、僕が自分でショッピングモールに電話をかけて実現したらしいんですよ。母と買い物に行った時に、アマチュアの方が演奏されているのを見て、僕も弾きたい!って言いだしたそうなんです。それで母が電話番号だけ聞いておこうか、とお店の方に聞いてくれたんですが……翌朝、僕が勝手に電話をしてしまっていて。でも当時4歳で、電話をかけることはできても、結局「もしもし」くらいしか話せず、その様子に母が気付いて飛び上がるほどびっくりしたそうです(笑)。
――そんなに小さいころから、演奏を聴いてもらえることが嬉しいと感じていたんですね。
そうですね。その後、6歳頃からきちんとした演奏会に出る機会も増えてきました。1年に2~3回ほどでしたが、その瞬間のためにヴァイオリンを続けていたところはありますね。それだけがモチベーションでした。もし演奏会が無かったら、絶対に続けていないと思います。
――幼少の頃から大阪フィルや関西フィル、ロンドンフィルなどと演奏されていて、ステージの規模が大きくなっていきましたが、プレッシャーを感じることもあったのでは?
僕は逆に、それが嬉しかったですね。この指揮者と共演してみたい、この楽団と演奏してみたい、と思っていると、何故か叶うことが多かったんです。だから「あ、来た!」という(笑)。プレッシャーとかはまったくなかったです。演奏会で弾くのが嫌だなとか、そういう気持ちになったことはありません。どんな小さな演奏会も、大好きでした。
――中学を卒業してからは、スイス・シオンの音楽学校に進学され、わずか1年で飛び級し首席卒業した後は大学であるローザンヌ高等音楽院に進まれました。欧州で学ぼうと思われたのはどういう理由からですか?
日本にいると、遊んでしまうので(笑)。音大付属高校など日本の学校も考えたのですが、絶対に友達と遊んで練習しなくなるだろう、と思ったので、あえて遊べない環境に飛び込もうと思いました。最初に先生はウィーンを紹介してくださったのですが、ウィーンは日本人も多いので、やはり遊んでしまいそうで(笑)。スイスの田舎・シオンにしたのは、日本人が少なくて逃げ場がない、という理由もありました。もちろん、教えていただきたい先生がいらっしゃったこともありますけどね。
――海外で学ぶとなると、言葉の壁も大きかったのでは?
留学する少し前にアイスランドで演奏会があったのですが、2週間で8回も演奏したんです。そうなるとたくさんの方とお話する機会があるわけですが、その時、まったく英語がしゃべれなかったんです。片言でも必死にコミュニケーションをとって、その時に、恥ずかしい、みたいな気持ちはなくなりましたね。その経験を経てスイスに行ったので、フランス語を学ぶことはあまり苦にはなりませんでした。間違ったらどうしよう、という気持ちが無くなったんですよね。
――欧州で学んだことで得られたものは?
自由さですね。そして、自分自身の意見をしっかりと持つこと。それも欧州で学んで得られたことだと思います。日本では、なかなか自分を発信する機会や環境があまりないんですよね。欧州では、自分の意見を持っていないと生活できない。自分がこう思う、という考えを確立して、言葉にしていく。音楽においても、型にはまらないというか、そういった部分はすごく学びになりました。
――デビューCD「プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第2番」は、どのようなお気持ちで収録に臨まれましたか?
自分自身の今を表現したいことを、全面に出し切ろうと思いました。アルバムにも収録しているワックスマンの「カルメン幻想曲」は、おそらく僕にとってライフワークになるものだと思っています。一生かけて作り上げていく音楽のひとつですね。10歳の頃に演奏したことをきっかけに、年に最低でも数回、多いときは十数回も演奏してきました。プロコフィエフにしても、そのほかの作曲家にしても、40代50代になってもきっと演奏するはず。だからこそ、今の自分を出すことに全力を尽くしました。CDはずっと聴かれるものだから、きっちり型にはめなければ……、みたいな考えはダメだと思ったんです。
――手ごたえはいかがでしたか?
僕自身は……あんまり聴き返したくない(笑)。それは演奏がダメだったからとかじゃなく、ここはもっとこうできるかも、次はこうしよう、とかどんどん欲が出てきちゃうんですよ。その考え方は一生変わらないと思うんですよね。自分が満足できる演奏なんて一生できないと思うし、100%の音楽なんて無い。強いて言うなら、今の自分自身をしっかりと表現できていることが100%の音楽なんです。なので、演奏したものを聴き返すのはあんまり好きじゃないんですよね。地元・岡山でラジオもやっているのですが、自分の声を聞くのもなんだか恥ずかしいんですよ。きっとそれと一緒です(笑)。でも、CDを聞いた多くの方から、「よかったよ!」と言っていただけて、嬉しかったですね。
――あの頃を経た、新しい”今”の音楽があるはずだから、といったところでしょうか。今後、ヴァイオリニストとして叶えていきたい夢はありますか?
小さな目標はたくさんありますし、やってみたいこともたくさんありますが…そういうのは、夢とは違うんですよね。強いて夢をあげるとしたら…絶対に無理なんですけど、音楽家として歴史に名を刻みたい。死んだ後に、天国だか地獄だかわかんないですけど、それを眺めていられたらいいですね。あとは、財団を作って奨学金を出せるようになりたいとか……これも現実的じゃないですね(笑)。なので、そういう意味で小さな目標はあっても、夢は無いんです。やりたいことも、どんどん変わっていくと思うんですよね。だって、僕の小学校の頃の夢は指揮者でしたからね。でも、指揮者の勉強なんて、何にもしてません(笑)。年を重ねていくと、やりたいことは変わっていきますから。これからもいろんなことをやりたいし、子どもたちやいろんな人と触れ合ったりしていきたい。音楽を通して、人を喜ばせていきたいですね。
――昨年結成された室内オーケストラ「The MOST」では、次世代の育成を掲げていますし、今後の活躍を大いに期待しています。
「The MOST」は20代メンバーが中心ですし、若い世代がさらに下の世代を育てていって、若さのエネルギーを全面に押し出していきたいと思っています。日本でのクラシック音楽って、まだせいぜい100年くらいのもので、戦後から考えるともっと短い。400年を超えるヨーロッパの歴史にはかないません。でも、それに勝とうとかではなく、クラシック音楽の魅力を次の世代に伝えていくことはもっともっとしていきたいと思っています。
――最後に、リサイタルを楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
今回のリサイタルにはフランス音楽がたくさんありますが、その中には全く違った表情のいろんなキャラクターがあるんです。それを多方面に表現していきたいと思っています。僕と、いろいろな作曲家との組み合わせの良い化学反応をみなさんにお届けします。ストラヴィンスキーにしても、プーランクにしても、いわゆるメジャーな音楽ではないと思います。なので、こういう音楽もあるんだよ、ということを紹介しつつ……今日のインタビューではきっちりと猫を被っていますが(笑)、ちょっと天真爛漫でおかしな僕もお見せ出来るような演奏が出来たらと思います!
――楽しみにしています! 本日はありがとうございました。
インタビュー・文/宮崎新之