「没後50年 藤田嗣治展」

声優・津田健次郎が初めて挑んだ音声ガイドで得た感動とは

没後50年 藤田嗣治展音声ガイドインタビュー 津田健次郎

 

「没後50年 藤田嗣治展」が東京都美術館(東京・上野)で7/31(火)より開催されます。明治半ばの日本で生まれ、80年を超える人生の約半分をフランスで暮らし、晩年にはフランス国籍を取得した画家の藤田嗣治(レオナール・フジタ)。彼がこの世を去ってから、今年で50年。その節目に、画業の全貌を解き明かす大回顧展が行われます。

本展覧会では、「風景画」「肖像画」「裸婦」「宗教画」などのテーマを設けるほか、最新の研究成果なども盛り込み、藤田芸術をとらえ直そうとする試みが含まれています。また藤田嗣治さんの代名詞とも言える『乳白色の下地』による裸婦の代表作のほかにも初来日となる作品や、これまで紹介されることの少なかった作品も展示されます。

さらに、俳優・声優の津田健次郎さんが本展覧会で初めて音声ガイドに挑みます。収録を終えたばかりの津田さんにお話を伺いました。

 

没後50年 藤田嗣治展音声ガイドインタビュー 津田健次郎

 

---音声ガイド収録お疲れ様でした。まずは収録の感想をお聞かせください。

音声ガイドをやらせていただくのが初めてなんです! なのでマネージャーさんからお話をいただいた時に驚きました。「えー! そんな素敵なお仕事やらせていただけるんですか!?」って(笑)。とても嬉しくてワクワクしながら現場にきました。

まず台本を素読みしているだけで、非常に興味深かったです。(藤田嗣治の)名前はもちろん知っていましたし、どういう感じのタッチで描くのかは、なんとなく知っていましたが、台本にいっぱい解説してくれたので、より詳しく知ることができました。また、音声ガイド自体はゆったりした雰囲気で、やっていて気持ち良かったです。ひたすら楽しい現場でした。

---音声ガイドを通じて印象に残ったエピソードや作品などはありましたか?

どれもこれも印象的なのですが、オープニングとプロローグの部分でしょうか。同じ言葉が引用されているのですが、藤田の感覚としては国境を超えてらっしゃったんだなっていうのがわかる、藤田が世界人として生きたんだなという独特の言葉が印象的でした。

(音声ガイドの台本では)時代毎に区分けされていたので、読んでいると意欲的に絵のタッチを変化されていく方なんだなと感じました。藤田自身とても劇的なので、そこを抑えつつも、機微みたいなものとか変化が出せればなと思って、やらせていただきました。時代とともに変化する藤田の作品や世界観をゆっくり聞いていただけたらなと思います。

藤田が生きた時代は第一次世界大戦や第二次世界大戦といった戦争の時代です。その中で芸術の都・パリで活躍すること自体がそもそも信じられないくらいの偉業といいますか。しかも、パリだけではなく日本でもニューヨークでも活躍されていた。今でこそ世界で活躍される方は山ほどいらっしゃいますけども、当時にアーティストとして世界で活躍された、しかも芸術の都・パリで名を馳せたっていうのは本当にすごい方なのだなと思いましたね。

---生前の藤田の写真や自画像を見ると少々エキセントリックといいますか、エネルギッシュさが伝わります。

そうですね。今でもこんな人いないよっていうくらい(外見が)パンチ力抜群ですし、キャッチーな方なんだなと。ただ、キャッチーさだけじゃなく、絵をはじめとした芸術というものに対しての向き合い方がとても丁寧で紳士的な部分がギャップとしてあって、とても興味深い方だなって思いましたね。

若い頃の藤田はセルフプロデュースがすごくて、東洋人としてのアイデンティティには乳白色を用いたりだとか、あえて墨を使ったりだとか。その当時のパリの煌びやかな芸術家たちと対抗していくには、自分は日本人として、東洋人として、どういうアプローチで食い込めるのか? みたいなものがあったんですよね。それは欲深い部分、名を馳せようとする部分、なんというのか…尖っていた部分といいますか。そこを経て、最後に洗礼を受けて藤田はレオナール・フジタになっていく。

藤田はわりと早い段階で「僕は花を開くことができました」と言っていて、「自分売れたぜ(笑)」という感覚がわかっていた。その後、日本に戻ってきたり、ニューヨークで過ごしたりして、やっとパリに帰って「さぁ、俺(の人生)はここで終わるんだ」という、「どうアーティストとして終わりを迎えたいのか」みたいなところはとても静かな印象で。あれだけ尖っていた人が、(人生を)静かに終わろうとしているというのが、なんだか感動しました。

---音声ガイドは「藤田が残した言葉だけを読む」という珍しい構成とお聞きしました。

さきほどスタッフさんにお伺いしたんですけども、これだけの言葉を残している画家もなかなかいないんだそうです。その中でも、(音声ガイドの内容は)わかりやすい部分やキャッチーな部分を抽出されていると思うんですよね。言葉自体が面白い。このへんが普通の美術展とはずいぶん違うのではないでしょうか。

僕は「この絵を描く方がこういう言葉を残すんだな」と思って、すごく興味深かったです。やはり尖ったアーティストであるだけに、藤田は面白い言葉を使うなぁと。 “世界人”ってなかなか聞かない言葉ですよね。そういうところもセルフプロデュースが非常に巧みで上手な方でしたので、言葉の残し方もキャッチーだなぁと、とっても面白かったです。

---藤田のトレードマークともいうべき「おかっぱヘア」はセルフプロデュースの一環だと思うのですが、津田さん自身のトレードマークはなんだと思いますか?

うーん、くしゃくしゃな頭でしょうか。(髪が)くせ毛なもので、特にこの時期は、すぐくしゃくしゃになってしまうんです(笑)。一時期はきちっとしなくちゃ! って、髪もお芝居もきちっとって考えていたのですが、ある時ラフでいいんじゃないか?って思いました。手を抜くというわけではなく、力を抜いてお芝居をしたり、力を抜いた状態で人と接したりしたほうが、豊かものを拾えるのではないか思ったんですよね。なるべく自然体でいたいな、だから髪の毛とかくしゃくしゃでいっか! ってなっていったんです(笑)。

---津田さんは美術館はよく行かれるのですか?

お仕事とお仕事の合間を縫ってフラッと行くことが多いです。絵画が好きでして、実は絵に対しての嫉妬がすごいんですよ(笑)。絵画って見た瞬間にびっくりしたり、ハッとなる。その一瞬で決まるのがなんだかずるいなぁと…同時にとても尊敬してしまうんですけどね。

僕らが(俳優や声優として)やっている表現は、積み重ねて積み重ねて1つの形を作っていきます。たとえば、演劇で言えば2時間くらい、アニメーションで言えば30分くらい。ある種の積み重ねの中で初めて到達できる感動がほとんどなんです。

もちろん絵画も、制作に年月がかかる作品もあると思いますが、僕らが時間をかけてしか到達できないところ、絵画は一瞬で見た人の心を捕らえる。しかも、その一瞬が一生忘れられない絵となっていく、そういう部分に嫉妬してしまいます。

---では、美術館はじっくり回る方ですか?

そうですね。最初にババっと見て、大体1枚か、2枚ほどハッとなった作品をしつこく20~30分くらい見ます。「一体なんだこれは!」って衝撃を受けてね(笑)。

常設展だといつでも見られるって思うのですが、大規模展覧会だと「もしかしたら、この絵は一生に1回しか見られないのでは?」、「もう二度と見られないかも」と思ってしまって、かなりしつこく見てしまいます。

---最後に、『藤田嗣治展』を楽しみにしている方へ一言をお願いします。

藤田嗣治作品を一気に見られる、またとない機会です。これを逃すともう見られないかもしれませんよ(笑)。

藤田嗣治という画家をご存知の方もそうでない方も、名前だけ知っているという方も、美術展へフラッと行ったら1枚は「おぉ! なんか面白い!」と思える作品に出会えます。藤田の最盛期である1920年代パリの空気も含めて、ぜひ味わっていただけたらと思います。作品鑑賞の時間が豊かな時間になるよう音声ガイドを頑張りましたので、何かを感じていただければ嬉しいです。ぜひ足を運んでくださいね。

 

開催概要

 

没後50年 藤田嗣治展

開催期間

7/31(火)~10/8(月・祝)

開室時間

9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)

※毎週金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)

※8/3(金)、10(金)、17(金)、24(金)、31(金)は21:00まで

会場

東京都美術館(東京・上野公園)

休館日

月曜日、9/18(火)、25(火)

※8/13(月)、9/17(月・祝)、24(月・休)、10/1(月)、8(月・祝)は開室

 

 

(文:工藤明日香/ローソンチケット)

 

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