演劇
水戸芸術館ACM劇場プロデュース 『斜交 昭和40年のクロスロード』

水戸芸術館ACM劇場プロデュース 『斜交 昭和40年のクロスロード』

チケット情報

昭和の名刑事・平塚八兵衛とある誘拐事件の容疑者との息詰まるような攻防。
そして、そのすべてを見届けようとする若い刑事。
昭和40年、取調室、最後の10日間。
東京オリンピックの輝かしい波に乗れなかった男の心の闇を見つめる刑事は、
時代の光と影のクロスロードに立ち尽くす・・・。

昭和史に残った誘拐事件と鬼刑事
昭和38年、日本が復興そしてオリンピックで盛り上がった時代、その波に乗れなかった男がいた。男は、金策に困り果て衝動的に子供を誘拐し深い考えもないままその子供を絞め殺してしまう。それが世に言う「吉展ちゃん事件」である。捜査は初動のミスもあって難航し、事件は解決の糸口すら見つけられず、いたずらに二年の月日が流れしまっていた。何度も捜査線上にあがりながら、決定的な証拠を見つけられなかった容疑者をもう一度取り調べることになった時、選ばれたのが「落としの八兵衛」と異名をもった捜査一課の生え抜き刑事・平塚八兵衛であった。
帝銀事件や三億円事件など、昭和史に残る数々の難事件に取り組んできた平塚の、もっともドラマチックで、また平塚自身をも有名にした「吉展ちゃん誘拐事件」。この顛末を通じて、刑事と容疑者の、取調室での息詰まる攻防を描きます。刻々と迫る拘留期限、そして取り調べ最後の日、残りわずか六時間前に劇的な展開を見せたこの事件は、数々の書籍やドラマになってきました。人々はその平塚の仕事っぷりに目を奪われたのですが、この企画ではその平塚のその人となりを見つめます。

光と影が激しい時代、会うはずのなかった男たちの物語
昭和をさまざまな事件と駆け抜けた男の奥底に、何が流れたのだろうか。オリンピックという輝くイベントとは別に、その陰には恩恵を受けることが出来なかった男もいました。平塚は刑事だからこそ、その陰の部分を見つめることにもなりました。全く違う場所にいた男たちが、事件というきっかけで会うはずのない出会いがそこに起きました。その不思議なクロスロードは、何を示すのでしょうか。
そのクロスロードは、今もその背景が変わらないまま残っているように見えます。だからこそ、そこにいた男たちの様々な生きざまを見つめることは、今を生きるヒントがあるのではなかろうか。現代にも通じる人の生き様や運命をもう一度見つめなおす企画です。

熱い男を描く、熱き若者たち。古川健と高橋正徳
劇作は、劇団チョコレートケーキの作家・古川健。骨太な作品で、時代に厳しい問いかける作風で常に話題を提供し、高い評価を得ています。5月に上演された『60’sエレジー』が本年の読売演劇大賞中間選考会で作品賞のベスト5に選出されるなど、現在最も期待される作家と言えます。書き下ろし作品となる本作は、その古川の魅力を存分に発揮するものとなるでしょう。
演出は文学座の新鋭・高橋正徳。作家と同い年の演出家でもある高橋は、古川の戯曲の魅力を同世代ならではの感性で捉え、その世界観を印象深いものにしていきます。これまでも重量感のある作品に取り組んできましたが、文学座アトリエでの演出作品『白鯨』で見せためくるめく空間の使い方も、水戸芸術館という空間を得て、更なる期待が高まります。

物語を裏付け彩るキャストたち
平塚八兵衛がモデルの刑事には、近藤芳正。水戸芸術館の空間をこよなく愛しその舞台を楽しんでくれる劇場のパートナーとも言える一人です。その幅広い演技力あればこそエネルギッシュで老練な刑事を演じる人は、この人おいてほかにありません。
その相棒の刑事には中島歩。作品に常にフレッシュな視線を持ち込み、物語にいつも新たな展開を導いてしまう持ち味は、若手の俳優の中でも突出したものがあります。ベテランの刑事に翻弄されながら、新たな時代のあり方を苦悶する若い刑事という役柄を裏付けるには、この俳優の魅力なくては成立しません。
容疑者役には、劇団温泉ドラゴンの筑波竜一。近年目覚ましい成長をしている劇団温泉ドラゴン。その創立メンバーであり主力俳優である彼は、うぶでガチな役柄を全力投球して演じ切る凄味のある俳優の一人です。複雑な生い立ちを持つ容疑者を演じるには、この人がぴったりです。
上司には福士惠二。大騒ぎするマスコミ、捜査の行方に苦慮する上層部とのはざまに入り、どちらにも心を配る中間管理職、ベテランならではの配役です。容疑者の愛人には渋谷はるか。切なさと強さを要求されるこの役には、芯のしっかりしたこの人と誰もが一致したキャストです。そして容疑者の母には五味多恵子。容疑者の頑なな心を開いたのは、やはり母の愛。老舗劇団の中堅から間違いのないキャスティングです。

 

【あらすじ】
取調室、最後の十日間
東京オリンピックの興奮が冷めやらぬ昭和40年。
日本中が注目する誘拐事件の容疑者の取り調べが始まった。
刑事に許された期限は、十日間。
三度目の取り調べとなるこの機会を逃したら、もうその男を追及することはできない。
警視庁がメンツをかけて送り出したこの刑事の登場に、取調室は最後の格闘の場となった。

 

 

作:古川健(劇団チョコレートケーキ)
演出:高橋正徳(文学座)

出演者:
近藤芳正
筑波竜一
中島歩
福士惠二
五味多恵子
渋谷はるか