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【インタビュー】5 STARS 京増修史 ピアノ・リサイタル

【インタビュー】5 STARS 京増修史 ピアノ・リサイタル│京増修史

京増修史

2021年、ポーランドのワルシャワで開催されたショパン国際ピアノコンクールに出場して注目を集めた、京増修史さん。この春、東京藝術大学修士課程を修了し、ピアニストとして新しい一歩を踏み出した。
そんな彼が来る12月、浜離宮朝日ホールでリサイタルを行う。プログラムは、モーツァルト、ベートーヴェン、リストといういずれも鍵盤楽器の名手だった作曲家の楽曲を、時代を追って取り上げるというものだ。

「ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第28番は藝大の入試で弾いた作品、リストのロ短調ソナタは卒業試験で弾いた作品です。学生時代にしっかりと勉強した、自分にとって大切なレパートリーを演奏します」


プログラムの幕開けを飾るのは、モーツァルトの「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」

「僕には、演奏会をするとき、まずはバロックや古典派の作品から始めたいという感覚があります。ピアニストとして必ず弾けなくてはならない分野だとも思いますから。今回は全体的に重めの作品が中心なので、デュポールのシンプルなメロディを用いた変奏曲から始めることで、聴いてくださる方も音楽に入りやすいのではないかと思います」


ベートーヴェンが40代半ばで書いた第28番のピアノ・ソナタは、後期の作風に向かう頃の作品

「とてもロマンティックで叙情的、楽章ごとにいろいろな表情が見られる作品です。受験生だった高校3年生のときは先生に言われるままに弾いていたところがありますが、やはりその後ベートーヴェンについて多くのことを学んだことで、弾き方がまったく変わりました。ベートーヴェンは大変な人生を歩んだ人ですから、僕が今、彼の境遇を理解できるとは思いません。正直、とても遠い存在です。でも、「ハンマークラヴィーア」や最後の32番など、いつか弾きたいベートーヴェンのソナタはいくつもあります。特に最後のソナタはものすごい精神状態で書かれたもので、今の自分にはまだ早いように感じますが、今回、後期の入口にあたる28番からはじめて、少しずつ近づいていきたいです」


後半はリスト。ピアノ・ソナタの前に置くのは、「巡礼の年 第2年《イタリア》」より、彼が14世紀イタリアの詩人、ペトラルカの詩から着想を得て書いた、「ペトラルカのソネット 第47番、第104番、第123番」

「ソナタとは真逆の甘い世界が描かれているので、リストにもさまざまな作品がある、その対比を表現したいと思いました。学生時代、よく歌曲の伴奏をしていたなかで、原曲である歌曲版の《ペトラルカのソネット》に出会い、一目惚れしました。過剰といえるほどにロマンティックで、そこが良いのです(笑)。
リストの作品には、スターピアニストとして活躍したハチャメチャな時期のものから、信仰を深めていった後期の宗教的なものまでいろいろあります。表現もわりと直接的です。人間の多様な側面が感じられて、不思議でもあるのですが、でも実際、人間にとってそれは普通のことなのではないかとも思います」


ロ短調ソナタのほうは、今回のプログラムを組むにあたって、最初に決めた作品なのだという

「しっかり勉強した作品ですが、これまで試験などでしか弾いたことがなかったので、ちゃんとした演奏会でぜひ取り上げたいと思いました。 作品には、不吉、平和、地獄など、場面ごとにさまざまな雰囲気があり、最後は天国的な終わり方をします。よくリストの人生を表しているようだといわれますが、僕が弾く時に最も意識するのは、動機が緻密に重ねられてできあがっている点。ソナタとしてしっかり構築されているという特徴を忘れ、感情的になりすぎる演奏は良くないと思っています。俯瞰的な視点を保ちつつ、音楽で描かれているものをしっかり表現していくことを意識して練習しています」


ステージでの高揚感と冷静さのバランスは、演奏家にとって大きな課題の一つといえるが、どのようにコントロールしているのだろうか?

「難しいですよね。実際ステージでスポットライトを浴び、何百人ものお客さまの前で弾く場面では、頭で考えていられなくなりますが(笑)。でもだからこそ、練習中には、動機や和声感の変化について常に考えています。そうすることで、本番で頭が真っ白になったり、気持ちが高揚したりしても、感覚を取り戻し、突っ走ることなく、自然な演奏をすることができます。とにかく普段の練習を、真面目に、地道に、考えながらやらないといけません」


藝大での勉強を終えた“集大成のプログラム”というだけに、聴きどころは多い

「浜離宮朝日ホールというすばらしい会場で演奏できることがとても嬉しくて、今、本当に弾きたい作品ばかり選びました。4曲ともキャラクターが全く異なるので、表現の違い、同じピアノから出てくる音の変化を楽しんでいただけたらと思います」



インタビュー・文/高坂はる香

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