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インタビュー

面白くてポップでグレードの高いエンターテインメント・ショーを!
 三鷹の森ジブリ美術館が、新たな試みとしてライブラリー事業を開始した。世界の良質なアニメーションを美術館内の展示だけではなく、“映画館での上映”や“DVDのリリース”でも、作品を紹介しようという試みだ。渋谷のシネマ・アンジェリカを劇場に、3月17日からライブラリー第1回提供作品として、まずロシアのアレクサンドル・ペトロフ監督の「春のめざめ」を上映。(※同時上映「岸辺のふたり」)。それにともない、三鷹の森ジブリ美術館では「春のめざめ」の原画展も開催中。また、DVDでは、2006年夏に絶賛公開された「王と鳥」が4月4日に発売される。このライブラリー事業の全貌について、美術館の現館長である中島清文と前館長の宮崎吾朗に話を聞いた。

埋もれた良質のアニメーションに陽の光を当てたい

 

●それでは最初に、ライブラリー事業部の内容について聞かせてください。


中島
「これまでジブリ美術館では、常設展示はもちろん、さまざまなアニメーション作家やスタジオの紹介をしてきました。たくさんの方に来ていただいて、延べ人数は350万人を越えました。しかしアニメーションは美術品ではないので、一枚の絵を切り取って展示しても本質を伝えることはできないんです。フィルムで動いてこそアニメーションなんですね。そんなわけで、アニメーション作品自体をなんとか紹介できないだろうか、という思いがずっとありました。美術館には土星座という劇場がありますが、いかんせんキャパシティが小さくて、限界がありました。そこで渋谷のシネマ・アンジェリカさんにご協力いただくことになったんです。幸いなことに、ジブリ美術館には世界中のアニメーションに関わる方々がたくさんいらしてくれます。そういった人たちの新作を紹介していきたいですし、高畑 勲、宮崎 駿、両監督が過去に影響を受けたにもかかわらず、埋もれてしまっているような作品にも光を当てることができればうれしいですね。また、公開後の作品をDVD化していこうと思っています。劇場で観てもらい、そしてお茶の間でも楽しんでもらう、というのがこの新事業の概要です」

●上映作品の候補はたくさんあるのでしょうか?


中島
「特に紹介したいのは、いい作品ながら陽の目を見ていない作品です。1月16日に行われたシネマ・アンジェリカでの記者発表は『春のめざめ』の作品紹介も兼ねていて、ペトロフ監督も同席してくださったんですね。そのとき彼がこんなことを言ったんです。『自分たちのやっている作品は、映画祭などで上映されたあとは、DVDになるだけで劇場公開されるようなことはほとんどない。それがこのような形で一般公開されるのは非常にうれしい。しかも、まだロシアでも公開していないのに日本でやってくれるなんて…』と。この言葉は、とてもうれしかったですね」

●三鷹の森ジブリ美術館の前館長という立場の吾朗さんは、今回のライブラリー事業発足についてどのように感じていますか?


吾朗
「いやもう、すごく期待していますよ。中島さんががんばって、いい作品をどんどん観せてくれると思いますので。それに劇場と協力しながら展開をすることで、もしかすると渋谷を出発点とした上映が全国に広がる可能性だってあります。そうなってくれるとうれしいですよね。ただ、これからもずっと続けていく構想の事業ですから、大変ですよ、これは」

●吾朗さんは、たくさんのアニメーション作品をご覧になっているようなイメージがありますが、それでも期待感は高いんですね。


吾朗
「確かにDVDでなら観ることもありますが、改めて劇場で、となると機会は少ないですよ。いい映画をちゃんとしたところで観たほうがいいという気持ちは常々ありますので、そういう機会が与えられるのは素晴らしいことだと思います。また、劇場で公開する映画の展示を美術館で行うことで、美術館そのものにも新しい雰囲気が生まれるのではないかとも思っています。作品を見せる場所、展示する空間、そしてDVDのパッケージ。これらがうまく連携すると、何かが始まりそうな気がしますね」





絵の力で魅了する「春のめざめ」の凄味
 

●「春のめざめ」についてですが、どういった作品なのでしょうか。


中島
「私も吾朗さんに聞いてみたいんですよ!(笑)初めて観たときは、どういう印象を持ったんですか?」
     
吾朗 「すごい作品ですよ。“映画はストーリーを観るものだ”ってよく言われるんですが、改めて、アニメーションにおける絵の大切さを知りました。ものすごく雑な話をしてしまうと、ペトロフ監督が創り上げた映像をを見ていると、ストーリーがかすむくらい、絵の魅力そのもので観れてしまう。すごいです。この人が一人いれば、CGなんていらない。そのくらいのことをやっています」

●ペトロフ監督のアニメーションは油絵ですよね。フィルターを通して白い光を当てたガラス板に、指先を使って絵を描き、そこに書き加えながら動かしていく手法です。“油絵が動く”という感覚がとても不思議な作品です。


中島
「もともとペトロフ監督は画家になりたかったらしいんですよ。アニメーションの世界に行き着いたんだけれども、一枚の絵に対抗するための芸術作品を作ることが目標なんですね」
     
吾朗 「彼は自分のアニメーション技法の特徴をよく理解していて、背景とキャラクターが一緒になってメタモルフォーゼするような見せ方は、この技法だからできる。セルアニメだと、背景とキャラクターを別々に描くのであの表現はできないし、CGでもうまくいかないと思います。背景とキャラクターを切り離さず一緒に動かしながら、破綻させずに作りこんでいるのがすごい。生半可は絵力じゃないですね」
     
中島 「パンフレットを作るときに、フィルムから絵を抜こうと思ったんですね。どこを切り取っても絵になるだろうと思っていたのですが、実は(輪郭のはっきりした)キレイな絵が全然なかったんです。常に動きと揺らぎがあってはじめて完成した絵となるので、止まったキメの絵を見つけるのに本当に苦労しました」
     
吾朗 「必要以上には描き込んでいないんですよ。動いて画面がゆらゆらして見えることも、自分の技法の特徴としてペトロフ監督はとらえていて。一枚の絵としてどう作りこむかよりも、動いたらどう見えるかをわかって描いている。あんな手法なかなかできないですよ」

●ストーリーにはどういった印象を受けましたか?


吾朗
「ひと言で言えば、思春期の悶々とした感情、なんとも言えないむずむずとした感情を描いた作品。男性諸氏のからは、ものすごい共感を呼んでいるようです(笑)。また、純文学的なアプローチがあり、ロシアの伝統そのものを観ることができる作品です」

●舞台は19世紀末期のロシアという設定ですね。階級や身分の違いがはっきりとしている時代の。


吾朗
「あの時代に比べて、いまの恋愛はとてもフリー。一見障壁がないし、情報も多い。主人公のアントンのように悶々とした気持ちを抱える機会は、現代では少ないかもしれませんね」
     
中島 「アントンのように壁があったほうが燃える要素が多くて、恋愛は豊かになるのかも(笑)」
     
吾朗 映画の中で手紙に思いを綴るシーンがあるのですが、私も昔を思い出しました、そういえば手紙だったなぁって。手紙をしたためたり、相手からの返事を待ったりするような、“うーっ”となる時間があるのはいいことだと思います。自己と対話をすることができますからね」

●なるほど。「春のめざめ」は「岸辺のふたり」という作品との同時上映となっています。こちらの作品については?


中島
「オランダのマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督が手がけた8分のショートムービーで、幼い日に去った父を思う少女が成長していく姿を活写しています。とても単純な話なのですが、何度観てもクライマックスに鳥肌が立ってしまいますね」
     
吾朗 「ペトロフ監督とは逆にシンプルな線使いが印象的で。ペトロフ監督の作品がアニメーションの可能性を見せてくれるとしたら、こちらはシンプルな線でもアニメーションはこんなに豊かな表現ができるんだってことを示してくれています。作品を比較して観ると、面白いんじゃないでしょうか」
 



ペトロフ監督の作業する様子を感じてほしい
 

●美術館で開催中の「アレクサンドル・ペトロフ『春のめざめ』原画展」の見どころは?


吾朗
「作品に取り組むペトロフ監督の作業を、生々しく感じることができる点ですね。実際に彼が描いたガラス絵を展示しているのですが、絵として使用される部分以外には、色を作るための絵の具が付けられていたり、落書きが残されていたりします。近づいてみるとペトロフ監督の指跡がたくさん。そういったところから彼の作業姿を思い浮かべてほしいと思います。また、キャラクターや風景のスケッチも展示していて、ここでは彼の絵の上手さを読み取ってほしいです。鉛筆でサラリと描くデッサン力。モデルをスケッチした絵も魅力的です。もちろん作品を劇場で観てもらうことがベストですが、興味を持つ入り口になってくれたら成功ですね」

●展示の制作は吾朗さん自身が?


中島
「はい、もう、全部やってくれましたよ!」
     
吾朗 「パネルの下地を張ったり、解説を書いたり…」

●現館長として、仕上がりに対してはどのような感想をお持ちになりましたか?


中島
「いやぁ…、あんなに真っ暗になるとは思いませんでした(笑)」
     
吾朗 「(笑)大人っぽい雰囲気で作りたかったんです、おしゃれでシックな。ギャラリーでの展示なので、隣はネコバスルームなんですが…(笑)」
     
中島 「ガラス絵にうしろから光を当てているのは、吾朗さんのアイデアです。『ユーリー・ノルシュテイン展』をやった経験からヒントを得たようで」
     
吾朗 「ペトロフ監督は撮影してから絵を処理するのではなく、光を当てたガラス板に絵を描き、撮影しています。ガラス絵を見ながら、それをやらないと意味がないと思ったんですよ」

●吾朗さんは、今後も展示などでライブラリー事業に関わっていくのでしょうか。


吾朗
「そうですね。中島館長が劇場で紹介する作品の展示ができればいいですね。従来のイメージを超えた技法のアニメーションがたくさんありますから、展示に参加するだけでも勉強になるし、刺激になります。アニメーションの可能性を感じていけるような試みにしていきたいですね」
 

 時に真剣に、時にくだけた味わいを醸し出しながら、ライブラリー事業部と映画「春のめざめ」について語ってくれた、中島清文現館長と宮崎吾朗前館長。今後の展開が気になるところだが、まずは劇場映画「春のめざめ」、そして美術館での原画展を観て、その世界観を楽しんでほしい。

photo
▲〈原画展にて〉絵の描かれたガラス板を置いた、白いフィルターの後ろからライトを照らし、実際の撮影状況を再現。展示のアイデアは前館長によるもの

DVD紹介

平成18年度(第10回) 文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門 優秀賞受賞
第11回 広島国際アニメーションフェスティバル 観客賞/国際審査員特別賞受賞 

『春のめざめ』DVD
―2007年7月18日(水)早くもDVD新登場!!−

 ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント(日本代表:塚越 隆行)は、≪三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー≫作品として『春のめざめ』のセル用DVDを3,990円(税込)/3,800円(税抜)、レンタル用DVDを10,500円(税込)/10,000円(税抜)で、2007年7月18日(水)に発売することを決定いたしました。

 三鷹の森ジブリ美術館は、宮崎駿の世界を実現するのみならず、開館以来、企画展示や講演会などのイベントで、アニメーション作品とその作り手である作家やスタジオを紹介することを活動の一つにしてきました。しかし、世界には多くの人がまだ目にしていない良質なアニメーション作品が沢山あります。高畑監督や宮崎監督が若き日に影響を受けた作品、日本では知られていないが、世界で高い評価を受けている作品など、そういった新旧問わず面白い作品をより多くの人に届けるべく、アニメーション映画の配給・DVD発売を行う事業を開始し、≪三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー≫というブランドを設立しました。

 その記念すべき劇場公開第1弾作品として選ばれたのが、「老人と海」でアカデミー賞の短編アニメーション部門賞に輝いたアレクサンドル・ペトロフ監督の最新作『春のめざめ』です。


原作:イワン・シメリョフ 脚本・監督:アレクサンドル・ペトロフ 音楽:ノーマン・ロジェ
日本語字幕:児島宏子('06露製作/三鷹の森ジブリ美術館配給)
(C)2006 CHANNEL ONE Russia・DENTSU TEC

三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー公式サイトHP

プロフィール

ナカジマキヨフミ●2004年4月、財団法人徳間記念アニメーション文化財団の事務局長に就任。05年6月に三鷹の森ジブリ美術館館長に任命された。

ミヤザキゴロウ●2001年より05年6月まで、総合デザインを手がけた三鷹の森ジブリ美術館の館長を務める。昨年は初監督作の映画「ゲド戦記」が公開。 

インタビュー・文●井上晶夫 撮影●渡部孝弘
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