静かに育まれていた芝居への想い
昨年発表された劇団EXILEの旗上げのニュースは、驚きをもって迎えられた。発表する作品が毎回チャートの上位にランクインし、アリーナツアーのチケットが瞬く間に完売してしまうようなグループが劇団を作るという話を、それまでにきっと誰も聞いたことがなかったから。しかしよくよく考えると、腑に落ちるところがあった。'04年夏、彼らは代々木公園に設置されたテントで公演された“Heart
of Gold 〜STREET FUTUREOPERA BEAT POP”にEXILESとともに出演していたのだ。3枚目のアルバム『EXILE
ENTERTAINMENT』が初のミリオンセールスを達成したあとの、思いもよらない挑戦だった。当時のことをMATSUとUSAはこう振り返る。
MATSU「それまで、お芝居にほとんど興味はなかったですね。でも僕らがやってきたパフォーマンスは身体だけの表現だったから、人前で声を発するっていうこと自体がすごく新鮮で。やっているうちに奥の深さも見えてきて、のめり込んでいきました」
この後、MAKIDAIがいち早くTVドラマに出演し、映画にも活躍の場を広げていく。一方2人は殺陣、発声練習、演技レッスンなど、役者として必要なトレーニングに励んでいた。そして2年前のある日、同じ事務所に所属する役者たちと集まって受けていた演技レッスンの場にHIROがやって来る。熱の入ったレッスンをじっと見ていたHIROが口を開いたという。
MATSU「“みんなで劇団を作ったら面白いかもね”って。実際にやってみないと分からない部分もありましたけど、新たな方法で表現できるステージが1つ増えることによって、よりみんなが輝けるようになるんじゃないかって思いました。だから迷いはなかったですね」
USA「すでにたくさんの劇団があるけど、僕らが劇団を作ることでなにか新しい風を吹かせられるかもしれないと思ったし、子どものころからディズニーのアニメーションが大好きだったから、あんなことが自分も舞台でできるんだと思ったら、すごくワクワクした気持ちになりました。この衝動を信じて進んで間違いない、きっとそれが自分の踊りにもEXILEのステージにもプラスになるはずだってピンときました」
EXILEの看板を外して1人の役者として臨んだ稽古
そして昨年9/20、ついに劇団EXILEの旗揚げ公演『太陽に灼かれて』が初日を迎えた。8/5に最終日を迎えた、新生EXILEとしてのお披露目でもあった“EVOLUTION TOUR”の余韻に浸る間もなく、MAKIDAI、MATSU、USA、AKIRAは稽古に入り、「劇団☆新感線」の旗揚げメンバーであるこぐれ
修、劇団「ナイロン100℃」の大山鎬則、ヒロインの下宮里穂子など、舞台経験豊富な役者陣に混じって、1つ1つのセリフや動きを身体に入れ、芝居を仕上げていったのだ。
USA「劇団では僕らは劇団員の1人だから、自分のことは何でも自分でするっていうスタイルだったんですよ。今までずっと芝居をやってきた人たちと勝負するわけだから、“EXILEっていう看板で調子こいてちゃダメだよ”って自分に言い聞かせてもいたし。ゼロからのスタートなんだっていう感じが、新鮮でよかったです」
物語のテーマは“恐怖とバイオレンス”。荒廃した近未来の東京を舞台に、人類の滅亡を企てる若者たちと心に傷を負いながらも愛すること、生きることへ向かう人間たちのぶつかり合いを描いたヘヴィな内容だった。MATSU、USA、AKIRAは冷徹で暴力的な若者を、MAKIDAIは彼らが起こした事件を追う若手刑事を演じた。激しい殺陣やアクション、スローモーションで見せる場面や不思議な力に身体が翻弄される場面では見事な動きを見せた。舞台で演じる姿も、堂々としたものだった。
緊張とリラックスそして新たな発見
MATSU「正直、精神面的にはかなりのプレッシャーがあって、それはライヴよりつらかったです(苦笑)。万が一セリフが飛んじゃったらどうしようと思っちゃうんですよ。ライヴでなら何が起こっても自然にアドリブをきかせられる自信があるけど、芝居ではまだそれはできないから。自分のせいで流れを止めることになったらどうしようって考えるともう…」
今、想像してもたまらなく怖い、という表情を2人は見せた。そう言いながら、本番前、MATSUは4人の中で一番リラックスしていたというのだから面白い。
USA「本番直前って、みんな、水を飲むくらいなんですよ。セリフを言うときに喉に何かからむと嫌だから。なのにマッチャンは1人だけまったりしていて・・・。この人、すげえなって思いました(笑)」
MATSU「確かに普段通りでしたね。自分にできることは全部やった、あとは舞台に出て行ってやるだけって思ってたから…。うっさんはヘッドホンでブルーハーツを聴きながら気持ちを上げてましたよ。自分でも気が付かないうちに声に出して歌っちゃってるのが、面白かった(笑)」
10代からのつきあいの2人だが、互いの新たな一面を発見してもいたのだ。しかしおそらく一番の発見は芝居の魅力の奥深さ。新しい表現を手に入れた喜びが、伝わってくるようだった。
MATSU「最初は喜怒哀楽を出さなきゃいけないことがすごく大変でした。普段の生活ではキレることなんて滅多にないのに、芝居とはいえ、毎日キレなくちゃいけないからもうへとへとで。でもだんだん、そのあとに、何か吹っ切れるような気持ちよさも感じるようになったんですよ」
USA「泣いたりしたあとに感じる爽快感みたいなものがあるんだよね。それを舞台で毎回感じるのは面白かったです。あと、自分たちのセリフや動きで芝居を作っていくのって、1つの音楽をみんなで作っているような感じがするんですよ。普段、音楽に合わせて踊っている僕らにとって、その感覚がめちゃくちゃ楽しかったです。公演ごとにリズム感が違ったり、違う音楽ができていく感じが最高でした。そこが難しさでもあるんですけどね」
MATSU「同じ脚本でも、演出家や演じる人間が違えばお芝居は変わってくる。そこで自分たちなりの色を出して行く作業は、難しかったけど面白かった。やりがいも感じるよね」
日々、自分を磨いて、最高の表現を追求する
5月、劇団EXILEは第2弾公演『CROWN〜眠らない、夜の果てに…』を青山劇場で行う。今回は“涙とバイオレンス”がテーマ。前回の流れを組んだバイオレンスあり、アクションあり、ダンスありのクールな内容になるだろうと、2人は説明してくれた。
MATSU「今回は千原ジュニアさんも出てくれるんですよ。まだお会いしてないんですけど、前回とはまた違った刺激のある舞台になるんだろうなと期待してます。演じる役柄は、前回以上に自分にしかできないキャラクターに作り上げたいし、みんなで作った芝居で、観に来てくれた人に何かを感じてもらえて、また観に来たいなと思えるものにしたいですね」
USA「EXILEには“LOVE、DREAM、HAPPINESS”をエンタテインメントを通して伝えてこうっていう大事なテーマがあるんですよ。でもいきなり“愛し合おう”、“夢を持とう”、“ハッピーになろう”と言っても、人間は絶対にできない。人生と一緒で、争ったり、泣いたり、どろにまみれたりする中で愛や夢や幸せは見付けられるんだということを舞台で伝えたいし、最後にあったかいものを心の中に抱えて帰ってほしいと思っています」
最後に彼らに、EXILEが今年掲げた“EXILE PERFECT YEAR”について訊いてみた。今回の劇団
EXILEの公演は、ベストアルバム3 枚のリリース、5大ドームツアーでの公演、アニメ『エグザムライ』の本編発表、『月刊EXILE』の創刊とともに、今年の5つの大きなテーマの1つでもあるのだ。
USA「主旨は今年一年を通して“EXILE祭”にしようということなんですよ。1つ1つのテーマで、みんなにたっぷり楽しんでもらって、結果を確実に出して、本当にパーフェクトな1年だったね?と最高の打ち上げができるところまで持っていきたいですね。そのために身体もメンタルもしっかり鍛えて、ちゃんと整えて、あらゆる場面で最高の表現をしていきたいです」
MATSU「メンバー1人1人が日々、自分がやるべきことを考え、前に進んでいくことが“パーフェクト”につながると思うので、今年はそういう毎日を過ごしたいと思っています。日々進化、ですよ。そうやって来年はさらに上にいきたいですね(笑)」。
去年、EXILEが手に入れた“舞台”という新たな表現のフィールド。数年のうちにそこで大きな花が咲くはずだ、と期待している。
インタビュー・文●木村由理江 撮影●ホンゴユウジ ヘア&メイク●落合英司・永岡千絵(インフェンス)
スタイリング●菊池大和(StyleLAB.) 衣装協力●MW(ムウ)、アト・ワンズ、mastermind JAPAN
「“こうなることはわかってましたよ”みたいな感じで(笑)」
これまでにたくさんのステージを経験し、昨年のツアー最終日には東京ビッグサイトで4万人を前にパフォーマンスを披露したMATSUさんとUSAさん。その2人が舞台で真っ白になる瞬間を想像して、その怖さを語る時の表情はとても印象的でした。
USA「下を観ないで階段を下りなきゃいけない時とかも、超緊張した(笑)」
MATSU「一回、ダダダダって落ちた時があったじゃない。それでも“何も起きてませんよ”みたいな顔して芝居を続けたよね(笑)」、
USA「うん、“こうなることはわかってましたよ”みたいな感じでね(笑)」
そのシーン、観たかった! というのが正直な感想でした。
いずれにしても、自分たちの立場に安住せず、興味をもった新たなことに、楽しみながら挑戦して行く2人の姿には勇気をもらいました。自分の可能性は、自分で広げて行くものなんですよね。