ドラム・コー・インターナショナルの世界大会など、全米から選抜された最強のメンバーによって構成された史上初のマーチング・女性ユニット『ブラス・エンジェルス』。マーチングの力強さに女性ならではのしなやかさを加えた、この新しいエンタテインメントを手掛けるのは、長年ドラム・コーの指導者として活躍中のトップクラスのスタッフ陣。今回は、そのキーパーソンともいえるビジュアル・ディレクター、スコット・チャンドラーさんに聞いた。
女性たちがもつエネルギッシュな部分を引き出したい
●『ブラス・エンジェルス』が掲げている“ミュージック・モーション・シアター”というのはどういうものですか?
ご存知のようにマーチングは音楽先行型なわけですが、私たちはまず物語の設定があって、そこにどういう音楽、振付を合わせていこうかと考えます。それが大きな違いですね。映像も使いますし、セリフはないですが、やはり“シアター”(劇場)という要素が大きいと思います。
●パフォーマーが全員女性というのにも注目です。
大学生、20代の女性が中心となっているメンバーです。普段の演出と違う点を挙げるなら、彼女たちがもっているエネルギッシュな部分を、振付を作る過程で出来るだけうまく引き出したいということ。実は、アメリカのマーチングの世界は男性が中心なんですよ。だからそこが今回、全員が女性メンバーならではの演出といえますね。
パフォーミング・アートとしてもっと自由に
●タイトルの『オデッセイ』には、どんな意味が含まれているのですか?
ホメロスの有名な冒険譚『オデッセイ』は悲劇ですが、この作品は悲劇ではないですよ(笑)。あくまで旅のイメージとして付けました。登場人物たちが楽しく旅をして、いろいろなところに行く場面が、「シティ」「トレイン」「オン・ウォーター」「イン・エア」という4つのシーンで表される予定です。
●マーチングから想起されるのは、確かに儀礼とか祭典などの明るい“気分”ですよね。
そうですね。ただドラム・コーというのは、いろんな制約が多いんですね。私は元々モダンバレエもやっていたので、パフォーミング・アートとしてクリエイトする場合、もっと自由にできないかと思って作ったのが、この『オデッセイ』なんです。音楽も、いわゆるマーチングで使われるものだけでなく、多彩なジャンルのオリジナル曲を制作中です。
●では最後に、世界初演を楽しみにしている日本の観客にメッセージをお願いします。
私はこの仕事をしていて一番楽しいのが、コミュニケーションなんです。ステージからお客様へ伝えるだけでなく、お客様のエネルギーがステージにフィードバックしていくこと。その経験を、ぜひ日本のお客様にもしていただけたらと思います。
インタビュー・文●佐藤さくら
マーチング系の本格的なシアター作品としては、女性だけで構成された世界初のステージということで、つい「男女混合の場合と比べると力強さは減って、柔らかさや優美さが前面に出る舞台になりそうですか?」と尋ねたインタビュアー。意外にもチャンドラーさんの答えは「NO」でした。
「もちろん男女のチームと女性だけのチームに違いはあるけれど、『ブラス・エンジェルス』において力強さが減るということはないと思いますよ」との言葉に、長年ドラム・コーやカラーガードの世界大会で、多くの一般や学生の団体を指導してきたチャンドラーさんらしい、経験に裏打ちされた想いが感じられました。
また衣装の構想では「全体との調和を考えるのが優先なので、特に動きやすい衣装をという意識はない」と語るなど、女性だけだからといって手加減することは一切ない様子。
穏やかな笑みを浮かべながらも頼もしい言葉を繰り出すチャンドラーさんに、米国マーチング界の層の厚さを垣間見たひとコマでした。